グラウンド不足というのは、サッカーをするときにとても大切な問題です。とくに最近は、都市開発によって公園の数が減っていることに加え、『球技禁止』の張り紙を掲げる公園が増えていると聞きます。わたしは2014年5月より、全世界移動型即席サッカースクールと題して、世界中の子どもたちとサッカーをしていますが、その中で、南米のアルゼンチンやペルーの都市部でも日本と同じような問題が起きているのを目撃しました。彼らの国でも圧倒的に土地が足りていないのです。それでも南米の子どもたちは、空いた土地を上手に利用してサッカーをしていました。では、日本とこれらの国の違いはどこにあるのでしょうか。
近年、日本ではサッカー人口が増える中、学校終わりに子どもたちだけで草サッカーをしたり、自主練習を行ったりできるような環境は、冒頭に挙げたような理由から減っているように感じます。一方、2ヵ月半におよんだ南米滞在の中で、人口過密地帯や観光地におけるグラウンド不足は、南米も日本と同じように抱えている問題だということがわかりました。サッカーができるようなグランドや公園の数は日本と同程度か、それ以下です。
しかしながら、そのような立地でも子どもたちがサッカーを楽しんでいる姿を何度も目にし、多くの子どもたちと一緒にボールを蹴る機会に恵まれました。彼らは、かぎられたスペースでどのようにサッカーを楽しんでいるのでしょうか? 私が滞在したアルゼンチン・ブエノスアイレス(人口約1280万人)、ペルー・リマ(人口約800万人)の2都市の例で、その内実を見ていきたいと思います。
取材・文・写真 岡島智哉
■高架下に広がるコンクリートコート
『南米のパリ』と呼ばれるアルゼンチンの首都ブエノスアイレス。アルゼンチンの政治・経済・文化の中心地であり、都市圏の人口は1280万人にまで上ります。
わたしは街の中心部にあるサンテルモ地区という住宅街に滞在しました。この街は、アルゼンチンの名門クラブ『ボカ・ジュニアーズ』が本拠地を構えるボカ地区のすぐ隣に位置します。いわゆる“サッカーどころ”ですが、ボールを蹴ることができるような大きさの公園は皆無で、小学校のグラウンドも非常に小さいものでした。
この街の子どもたちがサッカーを楽しむ場所は、高架下に作られた合計10面ほどのコンクリートコートです。高架下の空きスペースに多くのゴールが設置されており、コートラインが手塗りで描かれています。そこは、放課後に子どもたちのサッカーの場所として賑わうだけでなく、日が暮れてからは小・中学生年代のサッカースクールや高校生年代のフットサルチームの練習にも使われていました。
もちろん、硬いコンクリートで作られたピッチですので、安全面には細心の注意を払う必要があります。しかし、その中でも彼らは鋭いスライディングやジャンピングボレーシュートなどのプレーを繰り広げていました。実に伸び伸びと、楽しそうにサッカーをしている姿がそこにはあったのです。
このコンクリートコートは、グラウンドとして利用できるような土地がない中で生まれた“苦肉の策”なのかもしれませんが、子どもたちのたくさんの笑顔がありました。
■あちこちに置かれるサッカーゴール
ペルーの首都・リマは、人口約800万人を擁する南米有数の世界都市です。ペルーと言えば、世界遺産であるマチュピチュやナスカの地上絵などといった広大な土地の風景が第一に思い浮かぶかと思います。
しかし、このリマという街は東京や大阪と同じような大都会です。そしてブエノスアイレスと同様に、芝生や土のサッカーコートを見かけることはほとんどありませんでした。
では、子どもたちはどこでサッカーをしているのでしょうか。それは駐車場の一角や、雑草が生い茂る空き地、車両が入れない小道などです。
驚くことに、そのいたるところにサッカーゴールが設置されていました。その大半がブエノスアイレスと同様のコンクリートであり、やたらと縦長だったり横長だったり、あるいは左右対称でなかったり、日本の常識では考えられないようなコートばかり。それでも、そこにゴールが置かれることで、子どもたちにとっては、そこがサッカーコートになるのです。
実際に、わたしも子どもたちに混ざってボールを蹴りました。そこには、建物の壁をつかった壁パスや、車道と歩道の段差を活かしたドリブルなど、さまざまな独自の工夫やアイデアを駆使しながらサッカーを楽しむ子どもたちの姿がありました。
取材・文・写真 岡島智哉