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日本人ボランチが、ドイツではサイドに回される理由

公開:2014年6月20日 更新:2014年7月 4日

キーワード:ドイツパス

岡崎慎司選手が所属するマインツU12のコーチを務めるかたわら、日本人留学生がドイツでプレーするためのコーディネートを行っている山下喬さん。後編では、日本人留学生が直面する、ドイツと日本でのプレー面の違いをテーマにお届けします。
 
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Photo by woodleywonderworks spring time soccer game2
(取材・文/鈴木智之)
 
<<ドイツ人が「日本人は守備をしない」と言う理由
 
 

■縦パスを入れられるか、ボールを奪えるか

――前編では「ドイツ人からすると、日本人は守備をしていないように見える」というエピソードをお話し頂きましたが、ほかにもドイツと日本とでサッカー観に対する違いを感じることはありますか?
 
日本から来たボランチの選手がいました。テクニックにいいものを持っていたので、1シーズン目から5部リーグのチームでプレーできると、ぼくは考えていました。ところが、プレースタイルがドイツ人の求めるものとフィットしなくて、いい評価を得られないことがありました。彼は足元でボールを受けてパスをさばいて、リターンを受けるといった形が得意で、テンポよくプレーするタイプの選手ですが、ドイツのチームに入ると、日本でやっていたスタイルのサッカーができない。なぜかというと、ボールを出して動いても、味方からリターンパスが来ないんです。そこで考え方を変えて、ボールを受けてパスを散らすのではなく、局面を打開するプレーを選択できれば良かったのですが。ドイツで求められるボランチのプレーは、まず前方にいる味方にどれだけパスを入れられるか、です。つまり、縦パスを味方につける能力が求められます。そして、前方にスペースがある場合はスピードを上げてボールを運ぶプレー、守備の時は1対1で相手からボールを奪うプレーが必要とされます。ドイツ人のコーチからすると、いま挙げたプレーの部分で物足りなく映ったようです。ただ、日本では彼のプレースタイルは評価されると思うので、そこは誤解のないように付け加えておきます。あくまで、ドイツ人から見たときの評価です。
 
――たしかに、日本にはボールを前に運べるボランチが少ない印象があります。
 
ドイツのボランチは、前にスペースがあるときはボールを運ぶプレーが求められます。そのプレーにはスピード感も必要で、相手からすると中盤でグイグイ前にボールを運ばれたら嫌ですよね。そこでボールを奪うために寄せると、ほかの選手がプレーするスペースが空きます。守備では、1対1でボールを奪えるボランチが評価されます。日本人留学生の多くが「ボールを奪う」プレーはあまり得意ではないので、ボランチの選手であっても、ドイツに来るとサイドのポジションに回されてしまうことがよくあります。
 
――ドイツに来た日本人選手は、その課題をどのように克服していくのでしょうか?
 
私がサポートしている選手に関して言うと、日本人選手だけを集めたトレーニングを通じて改善しようとしています。トレーニングでよくやっているのが、「3タッチ以上しないとパスを出せない」というルール設定です。3タッチ以上と制約をつけることで、ボールを前に運ぶ意識が高まります。すぐにボールに触らないと相手に寄せられてしまうので、プレースピードも上げないといけません。守備面では、必ず3タッチ以上するというルールなので、足元にボールが入ると寄せる意識が強くなります。日本人は守備の時に相手との距離が遠いのですが、3タッチ以上というルールを設定することで身体を当てに行ってボールを奪う機会が増えますし、ボールを持っている選手は相手をかわす練習にもなります。
 
 

■タッチ数を減らすばかりでなく、増やすトレーニングも必要

――ルールを設定することでプレーの変化をうながすというのは、興味深いです。
 
昨年、ドイツの6部のチームと日本人の留学生チームが対戦したのですが、スピードとパワーで圧倒されて2対4で負けてしまいました。振り返ると、日本人留学生チームの球際の勝率が20%ほどでした。そのことから考えても、ドイツでは1対1の場面で勝てないとダメなんだと強く感じました。いま日本人留学生のトレーニングでは、ドリブルスピードのアップと球際の競り合いを強化しています。試合では、サイドハーフの選手がタッチライン際でボールを持っていて、目の前のDFを1対1で抜きにかかるケースが頻発します。多くの日本の選手は縦に突破を仕掛けたとき、相手がついてくると1回止まって、仕切りなおして1対1をします。でも、ドイツの選手は突破を仕掛けて、相手がついてきたとしても、肩をぶつけて抜いていこうとします。ドイツのサッカー用語で「貫き通す力」というのがあって、1回始めたプレーは完結するという意味です。どのドイツ人指導者に聞いても、日本人はプレーを貫き通す力が弱いと言われます。少しプレッシャーを受けると、プレーをストップしてしまう。ドイツ人の考え方からすると、プレーを貫き通してほしいようです。
 
――1対1の場面は、いやでも注目される場面です。そこで勝つか負けるかで、その選手の評価が決まると言っても過言ではないほど、ドイツでは1対1が重要視されるということですか?
 
そうです。あとは自分の能力をアピールすることが大切だと感じます。とくに入団テストでは、「自分はこういうプレーができるんだ!」と、周りの選手との違いを見せつけなければいけません。しかし多くの日本の選手が、入ったチームのレベルに合わせたプレーをしてしまう傾向にあります。ドイツだけでなくヨーロッパの多くのクラブが、毎年選手の入れ替えがあり、競争が生まれます。アピールするのは当然の感覚です。日本の環境では、部活やクラブに入ると最低3年間は居場所が確保されます。他のクラブに引き抜かれることはないので、練習や試合で「何が何でもアピールしてやる」という気持ちは生まれにくいのかもしれません。
 
――アピールポイントが見えないと、評価を得ることは難しいですよね。
 
ドイツにテストを受けに来た日本人留学生を見て、ドイツ人の監督に言われたのは「日本人は平均してなんでもできる。カバーリングなど味方のためのプレーもできるし、技術もある。でも特徴がない。確かに技術はあるけど、あいつのポジションはどこなんだ?」と。日本のトレーニング環境の中で自分をアピールすることは難しいかもしれませんが、自分の得意なプレーに磨きをかけることが、アピールにもつながると思います。私自身、日本から来た選手には日々のトレーニングや対話を通じて、ドイツでプレーするためのエッセンスを少しでも伝えられればと思っています。
 
 
山下喬(やました・たかし)
ユーロプラス・インターナショナル所属。滝川第二高校を卒業後、プロ選手を目指してドイツへ渡る。マインツ等でプレーした後、現役を引退。引退後はドイツでの会社員生活を経て、留学事業会社のドイツ担当コーディネーターを務めるかたわら、マインツU12のコーチを担当している。
 

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取材・文/鈴木智之

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