考える力

2025年7月 8日

ノートに書いて思考を繰り返すことが、プレーの再現性につながる! 考える力を育てるサッカーノートの「使い方」

質問形式で進められ、低学年からでも始めやすいと評判のサカイクサッカーノート。

スポーツメンタルコーチであり、ノートの開発者である藤代圭一さんとサカイクキャンプのヘッドコーチを務める菊池健太コーチが、サカイクサッカーノートの工夫の秘密や書くことがサッカー上達につながる理由について対談。

前編のテーマは、サッカーノートが書けないという子どもの背景について、さらにサッカー上達のためのノートの活用について考えます。
(構成・文:木村芽久美)

 


 

 

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■子どもたちが自分で考え、判断する経験値を増やすためにサッカーノートは生まれた

 

菊池:保護者もそうなんですが、サカイクキャンプに参加してくれている子の中でも「考える力を身につけたい」って言っている子たちが非常に多くて。その中の一つとして、このサッカーノートがすごく有効的なんじゃないかと思っているんです。

改めてサカイクサッカーノートにどんな仕掛けがあるのか、教えていただきたいなと思っています。

藤代:キャンプに一緒に参加させていただく中で、「自分で考える」ことをすごく大事にしていると実感したんです。自分で考え、判断した行動の裏には、成功しようと失敗しようと、必ず自分なりの経験値が溜まって、それが次に生かされていきます。

そのサイクルをもっとサポートしたいと思った時に、「自由に書きなさい」では、なかなか書けないっていうこともわかったので、まずは僕たちが「こんなことを考えられたらいいかもね」という提案をしたいと思って作ったのが、サカイクノートです。

 

■子どもたちの「何を書いたらいいのかわからない」を解決する工夫とは?

 

藤代:まず子どもたちがどんなことで困っているのか、一つ目が「コーチからノートを書きなさいって言われるんだけど、何を書いたらいいかわからない」という悩みがありました。

菊池:そうなんです。何を書いたらいいかわからないっていうのは、一番選手たちが思っているところなんですよね。

藤代:ただ、それを指示や命令の形にはできるだけしたくなかったので、質問形式という形にしたんです。ノートの14ページ目に「〈試合・練習〉が終わったときにどうなっていたら最高ですか」「そのためにどんな工夫をしますか?」という質問があるのですが、この二つの質問をするだけで、なんとなく参加したキャンプや普段の練習でも、自分事として主体的に取り組むようになりますし、その結果、練習の質も高めることができます。

菊池:「どうなっていたら最高ですか」っていう言葉も、選手たちがワクワクして「今日こんなことやりたいな」っていうイメージが見えてくると思うんです。キャンプ中も書くこと自体が苦手な子っていますが、その苦手な子も楽しそうに書き始めるところが、すごく魅力的だなと思っています。

 

■サッカーノートは失敗していい場所。ノートにたくさん書いて思考を繰り返すことが、プレーの再現性につながる

 

藤代:二つ目が、書いたら書いたで「大人に怒られて書きたくなくなる」ということが課題としてあって。「漢字が違う」「もっと工夫して書いて」って怒られちゃう。何書いたらいいかわからない上に頑張って書いたのに、怒られてしまって悲しい気持ちになる。そうした声があることが、子どもたちのヒアリングからわかってきました。

サッカーのことで怒られるならまだしも「きれいに書きなさい」「もっと工夫して書きなさい」ということが理由で怒られることもある。そうした中で、ある程度大人が書いて欲しいことがあるんだなということに、ようやく気づいたんです。

菊池:藤代さんがキャンプの時に「わからないのも正解だよ」て、選手たちに仰っていたので、僕もキャンプ中、ノートを配った時には「わからなければ、わからないでもいいよ」と伝えるようにしたんです。

藤代:いいですよね。選手たちの書くハードルも下がりますし、まずは、自分で考えて、書いてみることが大切なんです。サッカーのトレーニングを繰り返しする目的って、試合で体が無意識に反応してしまうような形で、動けるようになるのを理想とするからじゃないですか。

その無意識化ができるようになるまでには「どう考えたか」があるはず。だからノートではたくさん失敗していいし、自由に考えをめぐらせていいんです。試行錯誤をたくさん繰り返していくと、それが洗練されてピッチ上で表現されます。

練習の部分でも、ミスとか正解ばかりを追い求めてしまうと、すごく堅苦しくなってしまって、試合ではさらに窮屈になってしまう。

菊池:緊張感もありますしね。

藤代:そうなんですよ、プレッシャーも感じると思うし。やっぱりサッカーって、いくつもプレーの選択肢があって正解がないスポーツだと思うんですけど、「答えはこれだよ」と僕たち大人が方向性を決めすぎてしまうと、今度は僕たちの顔色を伺って、ノートも書き始めちゃうんですよね。

そうすると、コーチが褒めている子の書き方が正解なんだと同じようなことを書き始めちゃう。


菊池:仰る通りで、みんなきれいなこと書いてくれるんですけど、それが本当に本音なのかなと思うこともあります。大人がその妨げにならないようにしないことも大切ですね。

 

■ノートを書いたら終わりではなく、コミュニケーションツールとして活用することが重要

 

藤代:まずは子どもたちがノートに書いてくれることが大事ですし、ノートに書いたら終わりではなくて「どうしてこの答えを書いたのか」「どうしてそう思うのか」と、ノートがコミュニケーションツールとして活用されることを重要視しています。

だから「本当に困っていること」「本当はこうなりたい」「今こんなことに取り組んでいる」みたいな正直な気持ちで書けているかどうかというところも大事なんです。

菊池:選手一人ひとりのノートを細かく見る時間があるんですけど、そこで「僕らが伝えようとしていることが伝わっていたんだな」と確認できたり、反対に「これってあんまり伝わってなかったんだな」と知ることができたり、僕らのスタッフミーティングの反省材料にもなっているんです。言葉の使い方だったり、伝わっていなかった部分に対する僕らのアプローチが少し弱かったなっていうのがわかって、午後のトレーニングでは修正したり。

選手の考えを知れるので、すごく役に立っているし、大事なコミュニケーションのひとつでもあります。

藤代:菊池コーチが仰ったように、僕たち指導者は、理想としては伝えたこと全てを受け取って欲しい。けれど、子どもたちにも成長のタイミングもありますし、コンディションも違うし、今までやってきた経験とか知識、技術が全然違うので、一人ひとり受け取れるものが全然違います。

だからノートを通して一回アウトプットしてくれたものを見ることができると「彼には今これがすごく印象に残ったらしい」と、彼らの頭の中がわかるんですよね。

菊池:本当、そうですね。

藤代:具体的にはノートの15ページの「今日の自分は何点だった?」「うまくいったこと・いかなかったことは何ですか?」「どのようにすれば、より良くなりますか?」と、この辺りの質問に答えられると、まず自分の中で頭の中を整理することができると思います。

子どもたちがどんなことを学び、どんなことを工夫しようとしているのか、頭の中を知ることができるので、そうすると菊池コーチが言ってくれたように「ここまでは伝わったな」「この子にはまだちょっと伝わりきれなかったから後でフォローしようかな」と、一人ひとりへの細かい対応策につながるので、ノートを活用できているんじゃないかなと思います。

 

■書くことで振り返りの技術が身に付く。うまくいったことにも目を向けさせる

 

菊池:最初はみんな悪かったことや、うまくいかなかったことばっかり書くんですよ、反省ノートみたいに。このノートでは両方書くことができるので「もっとよかったことも探してみようぜ」っていう声をかけると、「こんなこともできた」「こんなことが楽しかった」と出てくる。

藤代:そうなんですね。

菊池:サカイクキャンプって生活面でも成長できる部分があるので、別にプレーだけじゃなくても「生活の中でこんなチャレンジができたとかでもいいよ」って伝えると、表情も明るくなるんです。日本人の気質なんですかね(笑)。「いいところいっぱいあるのに」って悩ましくもあります。

藤代:うまくいったことって、意識しないとなかなか見つけられないんです。でも、それを見つけようとする意識こそが、次の成長につながると僕は思っています。サッカーは、チャレンジしたことがうまくいかなくても、すぐに次、またその次へと切り替えていくことが求められるスポーツですよね。

でもその"切り替える力"って、試合の中だけで身につけるのは難しい。だからこそ、毎回の練習や試合、あるいはキャンプの中で「うまくいったこと」を振り返ることを繰り返していく。その積み重ねが、やがて無意識でもポジティブに動ける自分をつくっていくと思っています。

菊池:確かにそうですね。

藤代:うまくいったことを意識的に探すことをして欲しいなと思っています。サッカーってチャレンジしたことがうまくいかなかったとしても、次、またその次...って切り替えていくことが試合中求められるじゃないですか。

そうした時に、じゃあどうすればできるようになるかというと、やっぱり試合だけでそれをやるのは難しいですよね。意識的に毎回の練習や試合の時、もしくはキャンプ中に何度も繰り返し行って、自分自身の中でそれが習慣化していくと、意識せずともそれが発揮されるようになっていきます。

菊池:そういうメンタリティーの部分って、ピッチ外でも人として成長するために大事な部分ですよね。そのためにもうまくいったこと・いかなかったことの両方が書けるようになった方がいいですね。

 


藤代圭一(ふじしろ けいいち)

一般社団法人スポーツリレーションシップ協会代表理事。教えるのではなく問いかけることでやる気を引き出し、考える力を育む『しつもんメンタルトレーニング』を考案。全国優勝チームや日本代表選手など様々なジャンルのメンタルコーチをつとめる。2016年より全国各地に協会認定インストラクターを養成。その数は350名を超える。選手に「やらせる」のではなく「やりたくなる」動機付けを得意とする。新刊に「私を幸せにする食事」(東洋館出版)がある。

 


菊池健太(きくちけんた)


<資格>
日本サッカー協会 C級
JFA公認キッズリーダー
キッズコーディネーショントレーナー
佐倉市立井野中学校サッカー部外部指導員

<経歴>
VERDY花巻ユース 日本クラブユース選手権出場(全国大会)
中央学院大学 千葉県選手権 優勝
千葉県1部リーグ 優勝

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