ある日、子どもが「サッカーを辞めたい」と言ったら、あなたはどう受け答えしますか?
この問いについて、長年サッカー選手の育成に携わる城福浩さんは、なぜ子どもが辞めたいと言っているのかを聞いてあげることが大切だと語ります。
今回は、Jリーグのトップチームから小学生年代のサッカー少年まで、幅広い層のサッカー選手を指導してきた城福浩さんに、サッカー少年の育て方をうかがってきました。(取材・文 大塚一樹)
■“夢”をサポートすることと、プレッシャーを与えることは違う
城福浩さんは、サッカーをする子どもたちにとって、親との関わりは決して小さくない問題だと言います。
「年齢や個人差はありますが、はっきりとした自我が確立されていない子どもたちは、コーチに影響を受けたり、仲間に影響されたりする中で、いろいろなことを感じてプレーしています。一番大きな影響を与えているのは、一緒に過ごす時間の長い親御さんかもしれません」
子どもたちは、ただ毎日ボールを蹴っているのではなく、さまざまなことを感じながらサッカーをプレーしています。コーチ、仲間、親が環境をつくり、そのことが子どもたちの意志決定に大きな影響を与えていると城福さんは言います。
「もちろん、すごく意思が強くて全部自分で決めるという子もいるかもしれませんが、多くの子どもたちは、コーチ、仲間、親の3つの環境から自分の意思決定に影響を受けます。だから、われわれコーチ、そして親御さんがどう関わるかというのは、サッカーの上達にも、これから先に進む方向にも影響があると思います」
サッカー人気が日本で定着し、日本人選手が世界の舞台で活躍するようになったいま城福さんが気にかけるのは、親の過度な期待によるプレッシャーです。
「ぼくが子どものころとは比べるまでもなく、サッカーはメジャーなスポーツになりましたよね。世界のサッカーがライブで見られる、子どもたちの将来の夢ランキング上位に“サッカー選手”が入るのが当たり前の時代です。Jリーガーも海外クラブで活躍する選手も日常的に目にする。プロサッカー選手自体が存在しなかった昔とは違い、“夢”を見られる状況になったと言うことです」
サッカーを取り巻く状況の変化は喜ばしいことと前置きをした上で、城福さんはそのことが親の期待値の上昇につながっていると指摘します。
「テレビに映るプロ選手を見て、ああいうようになってほしいと思う。それ自体が悪いというわけではありませんが、親が子どもより夢を膨らませるケースも珍しくありません」
子どもが憧れや夢を抱いて一生懸命練習する。これは歓迎すべきことでしょう。しかし、子ども以上に親が期待値を上げ、熱くなってしまうことには弊害があります。
「親の期待が子どもにとってどれだけプレッシャーになるのかということは、立ち止まって考えて欲しいことです」
■子どもの夢は親の夢ではない
将来を期待されるようなジュニア、ジュニアユース、ユース年代の選手をたくさん見てきた城福さんは、それと同じ数だけ、子どもと接する両親を見てきたことになります。
「私にも子どもがいるので、偉そうなことは言えません。“親である”という経験はそう何回もできることではないので、難しいことだと言うのは自分の経験からもそう思います」
それが簡単なことでないことを承知の上で、城福さんは親御さんには「サポートすることの意味」を考えて欲しいと続けます。
「親は、ものすごく労力を使って子どもをサポートしていると思うんです。サッカーシューズを買うことだって、クラブに通える環境をつくってあげることだって大変なサポートでしょう。子どもたちのやりたいことをサポートする。これに徹しているうちはいいのですが、これがいつの間にか『こんなにしてあげているんだから』とか『ここまでしているんだからプロになってほしい』と言った親の希望を押しつけることになってしまうことがあります」
城福さんは「子どもの夢はあくまでも子どもの夢であって親の夢ではない」ことが重要な点だと言います。
「サポートすることは素晴らしいですが、子どもがそれを欲しなくなった時にはそれを辞めることも大切だと思います。サッカーを続けるか続けないか、それは親の影響で決めることではなく、子ども自身の選択に委ねてあげるべきでしょう。口で言うほど簡単ではないのはわかりますが、親はそういう距離感で見守る必要がありますよね」
■強制、介入ではなく俯瞰して見守る
サッカーをやめたい! 子どもたちにこう言われて戸惑った経験がある方も多いと思うが、城福さんはきちんと話を聞いた上で、子どもが「なぜ」やめたいのかを聞いてあげることが大切だと話します。
「なぜやめたいと言っているのか? もしかしたら気まぐれなのかもしれない。何か嫌なことがあったのかもしれない。親御さんが自分では気がつけないことが多いと思うのですが、もしかすると、親から受ける過度な期待が嫌でサッカーをやめたいかもしれないわけです。お前ならできる! がんばれ!がんばれ! といくら言っても、サッカーをやりたいのか? サッカーが本当に好きなのか? ということは、その子自身が感じることで、親が決めることではありません」
親に強制しているつもりはなくても、期待やちょっとした言葉で、子どもたちがサッカーを「やらされている」と感じることもあるのです。
「やらされていると思うこと自体、その子にとって幸せとは言えませんよね」
サッカーを辞めたいという子どもの言葉は、何かのサインかもしれません。なぜそう言ったのか? 子どもだけでなく自分の側に原因がないか一度考えてみるのも親の役目なのかもしれません。
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