考える力

2025年7月10日

サッカーを通して生きる力を養う、「子どもが自分で考えて、行動できるようになるサッカークラブ」のブレない方針

サッカーのジュニア年代に根付く「勝利至上主義」とは一線を画し、「子どもの成長」を第一に考えるクラブがあります。それが神奈川県伊勢原市で活動する、伊勢原FCフォレストです。

同クラブを率いる一場哲宏氏は「子どもが自分で考えて、行動できるようになるサッカークラブ」という明確なコンセプトのもと、20年以上にわたって子どもたちの育成に取り組んできました。

『サカイク認定パートナー制度』に賛同している伊勢原フォレストFCの一場氏に、クラブの理念と育成スタイルについて話をうかがいました。
(取材・文 鈴木智之)

 

 

 

■「子どもが主役」というブレない軸

 

伊勢原FCフォレストが掲げる理念は「子どもが主役」。一場さんは「ここは本当にブレないところ、一番大事なところ」と強調します。

「サッカーを通して、子どもの生きる力、人間力を養っていく。サッカーはそのためのツールの一つです。目的は子どもたちが自分で考えて、行動できるようになること、自分の人生を自分で切り開けるようになることです」

もちろんサッカーなので、試合の勝ち負けはあるものの、なによりも大切にしているのは、子どもたちの未来。「彼らが社会に出たときに、立派な社会人として、地域や日本、世界を引っ張っていくような人間力、リーダーシップを身につけてほしい」と語ります。

そのために重視しているのが、子どもたちの主体性です。

「大人やコーチが指示、命令を出すと、自分で考える力がなくなってしまいます。基本的にはボトムアップで、子どもたちが主体となって活動していくのが、フォレストの哲学です」

 

■ドイツでの経験が原点に

この考え方の原点は、一場さんが若い頃に体験したドイツ留学にあります。ドイツ語が話せない中で現地のサッカークラブに入った一場さんは、チームに溶け込めない日々を過ごしていました。

「ドイツには、他人の考えやスタンスを尊重する文化があります。おとなしくしていると『あなたはおとなしくしていたい人なんだね』ということで、それを尊重して放っておかれる。日本とは全く違う文化でした」

サッカーの試合では、自己主張をしないとパスが回ってきません。そんな状況が続いた、ある日の練習中、一場さんは日本語でこう言います。「俺はここにいるぞ! なんでパスを出さないんだ!」

その瞬間から状況が一変し、パスが回ってくるようになったそうです。

「自分の人生は自分で切り開くことが大事なんだと痛感しました。その経験があったので、日本に帰ったらサッカーを通して、自分の意見をちゃんと伝えること、表現することの大切さを、子どもたちに伝えようと思いました」

 

■45分間で子どもが劇的に変わる 

一場さんの指導スタイルは、当初から現在の形だったわけではありません。転機となったのは、湘南ベルマーレでコーチをしていた時期の小学校巡回授業でした。

「サッカーが好きで得意な子は、僕らが何も言わなくても積極的に関わってくれます。なので、僕は『あつまれ』と言ったときに、後ろの方にいたり、遠巻きに見ている子たちに注目していました。その子たちが、他の友達のボールを拾ってあげたとか、ぶつかった時に『ごめんね』と言えたとか、そういうのを見逃さないようにしていました」

そうした行動を褒めることで、遠巻きに見ていた子たちの雰囲気が変わってきます。褒められたことで、自己肯定感が上がり、サッカーに前向きに取り組むようになっていくのです。

「サッカーが上手いから褒められるのではなく、友達のことを考えて行動できる優しさやコミュニケーションの内容、『ごめんね』『ありがとう』が言えることが認められるんだとなった時に、子どもたちの様子が、わずか45分間の授業の間にすごく変わるんです」

この経験が、現在の指導スタイルの礎となったそうです。

 

■環境づくりが最も大切

 

 

一場さんが指導で大切にしているのは、環境づくりです。

「子どもたちが楽しんでいるかどうか、笑顔かどうか、ミスを恐れずにチャレンジしているかどうか。それをコーチたちが容認しているか、保護者も容認してサポートできているか。そこを大切にしています」

伊勢原FCフォレストでは、練習や試合の後に必ず「いいとこメガネ」という時間を設けています。これは仲間の良いところを伝え合う取り組みです。

このような活動を主体的にやっていることの素晴らしさがある一方、放任に見えてしまうこともありますが、一場氏は「何が本当に大事なのかを伝える」ことを重視しています。

実際、小学2年生の子から「てっちゃんコーチは見ているばかりで、アドバイスしてくれない。もっと教えてほしい」と言われたこともあるそうです。

しかし一場氏は「それは子ども自身の言葉ではなく、親の考えが反映されている、影響されて、そう言っているのではないか?」と分析します。

そのようなこともあり、フォレストFCでは、体験練習に来た段階で価値観の確認を行っています。

「体験で来た時に、保護者の方と話すことで温度感が分かるので、その段階で『フォレストじゃないかもしれませんね』と言って、別のチームに行ってもらうこともあります」

 

■自分で考えて行動できる子を育てるという理念

 

そうしたコミュニケーションをとることで、現在では価値観を共有したコミュニティが形成されているそうです。

「いろんなチームがあっていいと思っています。勝ちを求める、厳しいコーチがいるクラブに子どもを入れたい保護者は、そちらに入れればいい。大切なのは、価値観に合ったクラブを選べることだと思います」

伊勢原FCフォレストの活動を見ていると、大会運営では子どもたちが自主的に、グラウンド整備や横断幕の片付けをしていたり、他クラブと合同でトレーニングをする機会では、率先してコミュニケーションをとっていました。

そんな子どもたちの姿は、20年以上にわたって「子どもが主役」を貫いてきたフォレストの成果と言えるでしょう。一場氏の「自分で考えて行動できる子を育てる」という理念は、これからの時代を生きる子どもにとって、ますます重要な指針となっていくはずです。

 

■子どもたちの未来を第一に考え、サッカーを通じて人間としての育成をするチームを認定

サカイクでは、伊勢原FCフォレストのように、子どもたちの未来を第一に考え、安全で健全な環境でサッカーを通じた人間教育に取り組むクラブを『サカイク認定パートナー』として、認定する制度を開始します。

認定の基準となるのは、サカイクが掲げる『10箇条』への賛同です。もちろんすべてが完璧である必要はありません。「これをやろうとしている」「こういう理念を掲げて、頑張ろうとしています」という姿勢があるクラブの皆さま、サカイク認定パートナー制度に参加し、クラブの考えを発信していきませんか? ご応募、お待ちしています!

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