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考える力

勝たなきゃ死活問題! 結果を求める親と子、育成に力を入れたい指導者たちが抱えるジレンマ/育成への対価、欧州との差

公開:2019年2月13日

キーワード:Jリーガーサッカー部プロ保護者全国大会内野智章興国高校

アジアカップ決勝戦で、日本代表がカタール代表に完敗しました。カタールは「アスパイア・アカデミー」という育成組織を作り、スペインを始め、国外から優秀な指導者を集めて「長期的な視野に立った育成」を行いました。その結果が、アジアカップの優勝だったわけです。

育成の重要性は多くの人が認識していますが、日本からさらに良い選手を輩出するためには、どうすればいいのでしょうか? 全国大会に一度も出場した経験がないにも関わらず、毎年のようにJリーガーが誕生(2018年3人、2017年3人誕生)する、興國高校サッカー部の監督を務める、内野智章さんに話を聞きました。

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全国大会出場経験がないにも関わらず毎年のようにJリーガーが誕生する興国高校サッカー部

<<前回:親の言動が子どものチャンスを潰している! Jリーガーを続々生み出すサッカー部監督が語る、プロになる子の親の「共通点」


■育成のプロ指導者の必要性

選手、 指導者、 環境。この3つが揃って、良い選手が育ちます。僕はU-18カテゴリー(高校生)の指導をしていますが「育成年代の指導ライセンス」を作ってもいいのではと思っています。ドイツには「エリート・ユースライセンス」というドイツサッカー協会が発行している、育成年代の指導者向けの指導ライセンスがありますが、「育成のプロ」をもっと育てていく必要があると思うのです。(編注:日本にはU-12、U-15の指導ライセンスはあるが、U-18はない)

関東や関西には、ジュニアやジュニアユースのクラブを持ち、サッカーの指導を主な収入源として生活している「プロのコーチ」がいます。表立ってフォーカスされることはありませんが、草の根を支え、良い選手をJクラブや高体連に送り込んでいる彼らこそ、本当の意味で「育成のプロ」だと思っています。興國高校にもそんな指導者に育てられた街クラブ出身の選手が、たくさん来てくれています。

もっと、草の根を支える指導者が報われてもいいのではないか。そのような制度が必要なのではないかと強く思います。たとえば、選手の育成費について。高体連のチームの選手がJクラブに加入すると、育成費として、1人あたり90万円がクラブから学校に支払われます。

2018年までは、ジュニアユース(中学生)、ジュニア(小学生)年代のクラブには1円も支払われませんでしたが、2019年以降、J1は高校に90万円、中学に30万円、小学校に10万円。J2は高校に60万円、中学に15万円、小学校に5万円、J3、JFLは高校に15万円、小中学校に0円と、下のカテゴリーまで育成費が支払われるようになるようです。

金額の多寡は別の議論になるので触れませんが、ジュニアユース、ジュニア年代まで、お金が支払われるようになったことはとても良いことだと思います。

とくにジュニアユース、ジュニアの指導者は指導によって得る収入をメインで生活している人が多いので、そこまでお金が降りていくようにすることで「もっと良い選手を育成しよう」というモチベーションにもなりますよね。

現状、ジュニアやジュニアユースの指導者が報われることって「大会に勝つこと」しかないんです。そのクラブの出身者がプロになることよりも、大会で優勝することの方が、よっぽど祝福されますし、結果として入部加入者が増えるので、金銭的にも見返りがあります。

■生活のために、大会で結果を出さなければいけない環境

僕の周りには、指導力のあるジュニアユースのコーチがたくさんいます。彼らから、こう言われたことがあります。

「お前は学校の先生やから、選手の育成にこだわってできる。でも、俺らは大会で結果を残さなかったら、子どもが入ってこないし、部員がいないと死活問題になるので、育成も大事やけど、それ以上に結果を出すことにこだわらなあかんねん」

これは本心だと思います。クラブを選ぶ側の子ども、保護者も大会で結果を出しているクラブに入れたいと思うものですし、サッカーの内容や将来を見据えた育成をしているかというところまでは、見きれないのが現状だと思います。

大会で結果を出すことによって得られるリターンのほうが、良い選手を育成する、将来プロを輩出することよりも大きいので、ジュニアやジュニアユースの指導者は、育成よりも大会の結果に重きを置いてしまうのです。

これは指導者の志の問題というよりも、評価システムの問題だと思います。そこを改善しない限り「育成年代の大会で優勝を目指す」という、育成に対する日本独自の考え方は大きく変わらないと思います。

大会に勝って名誉を手に入れ、部員が入ってくるというサイクルができ上がっているところに、いくら「育成に目を向けろ!」と言っても無理な話です。指導者としても、街クラブで結果を出したからといって、倍の報酬でJクラブに引き抜かれるといったこともほぼないですよね。

常々言っていますが、日本の街クラブにはすごい指導者がたくさんいるんです。でも、いまはそういう人たちが「大会で勝つこと」を目標にするしかない環境なので、育成よりも大会や試合で勝つことに力が注がれています。

たとえば、ジュニア年代で身体能力の高い子たちに、ロングボールを蹴らせて、こぼれ球を拾わせて、ハードワークしてというサッカーをするチームが勝つと批判的な目で見られますが、この年代で学ぶべきことをしっかりと教えて、中学、高校時代の伸びしろを作ったところで、それを誰が評価してくれるのでしょうか?

それよりも、サッカーの内容はアバウトでも、試合や大会に勝った方が、周りの保護者や子どもは評価してくれます。結果、入部希望者は増えます。それを指導者の志のせいにしているだけでは、日本サッカーの育成は変わらないと思います。

■良い選手を輩出する方に視線を向けたい

ヨーロッパでは、お金が育成の末端まで流れるように設計されています。岡崎慎司選手がプレミアリーグのレスターで優勝したとき、貢献金として母校や通っていた街クラブまで、それなりの金額が支払われたそうです。「彼の活躍で優勝できた。これほどの選手を育ててくれたクラブがあったおかげだ」という感謝が、お金という形で現されたわけです。

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興国高校サッカー部 スペイン遠征ではビジャレアルの育成チームと3-3で引き分けた

お金にまつわる話で言うと、これは笑い話なのですが、興國高校がスペインに遠征に行ったときに、ビジャレアルのコーチに驚かれたことがあります。試合は3対3の引き分けで終わり、両チームとも「なかなかやるやないか」という感じでリスペクトしながら、試合後にコーチと雑談をしていたときのことです。

「興國の選手たちはいくらもらってるんだ?」と訊かれたので「は、何がですか?」と答えたら「この年齢でこれだけのプレーをするんだから、クラブからお金をもらっている選手たちなんだろう?」「いや、僕らハイスクールのチームなんで、お金なんてもらってないですよ。むしろ、選手たちは活動費を払ってますよ」「そんな馬鹿なことがあるわけないだろう。お金を払ってサッカーをするなんて」

どれだけ説明してもわかってもらえず、最後には「嘘をつくな。意味がわからん」と軽くキレられましたから(笑)。それぐらい、ヨーロッパではサッカーとお金は密接な関係にあり、良い選手は高い報酬がもらえますし、良い選手を輩出したクラブにもお金が支払われます。そうしたサイクルができあがることで、「良い選手を育成すれば、リターンがある」というインセンティブが働き、さらに育成に熱が入るわけです。

日本にも良い指導者はたくさんいます。彼らの情熱を「全国大会優勝」ではなく、「すごい選手を育成する」という方に向けることができたら、世界で活躍する選手がもっと増えてくると思います。日本人の指導者は勤勉で、ベースはすごく高いので、選手を育成することでお金が循環するシステムさえ作ることができれば、可能性は十分にあると思います。

※この記事は「興國高校式Jリーガー育成メソッド ~いまだ全国出場経験のないサッカー部からなぜ毎年Jリーガーが生まれ続けるのか?~」(竹書房・刊)より抜粋したものです。

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興国高校サッカー部監督 内野智章さん
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構成・文:鈴木智之

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