考える力
「一人ひとりに合った閃きのヒントを」森岡亮太を輩出した公立高校サッカー部監督が行う自主性の引き出し方
公開:2018年8月21日
この夏もたくさんのお子さんに参加いただいた「サカイクキャンプ」。サッカーの技術だけでなく人間性を高めるべく2017年の春キャンプから、ライフスキル研究者である慶應義塾大学の東海林祐子先生にアドバイザーを務めてもらい、「ライフスキル」プログラムを導入しました。
ライフスキルとは、人生の中で困難にぶつかっても自分で考えて乗り越えていける力のことであり、サカイクでは「考える力」「リーダーシップ」「感謝の心」「チャレンジ」「コミュニケーション」をサッカーを通して身につけられるライフスキルとしています。
優れたトップアスリートはスポーツの技能だけでなく、高い人間性も兼ね備えています。現在Jリーグや海外で活躍している選手たちも、学生時代からリーダーシップや感謝の心を身につけていたのでしょうか?
このコラムでは、『あの選手は高校時代にこんなスキル・人間力があったから成功した』と感じるエピソードをもとに、サッカーの技術だけでなく、人間的なスキルを磨くことの大切さに迫ります。(サカイク編集部)
前回はテクニックの高さとアイデア溢れるプレーを活かし、ベルギーの名門、アンデルレヒトで活躍するMF森岡亮太選手が過ごした久御山高校での3年間を松本悟監督に振り返ってもらいました。今回は森岡選手がサッカー選手としての礎を築いた久御山高校のサッカーに対する考え方をお聞きしました。(取材・文:森田将義)
<<前編:「教科書には載ってない」情報こそが大事 恩師が語る森岡亮太の成長の原動力
現在は海外でプレーしている森岡亮太選手(C)兼子愼一郎
■言われたこと以上のことができない、気づけない現代の子どもたち
公立校ながらも、選手権5回、インターハイ6回出場。2010年には選手権で準優勝を果たした原動力は、「子どもたちが好きだから、先生になった。サッカーをやっていたから監督をやらせてもらっていますけど、先生であり続けたい。子どもたちにエネルギーを貰ってるから、毎日放課後になると元気になる」と笑顔を見せる松本監督の他にありません。
1996年に久御山高校の教員になる前は、久御山中学で12年間勤務しており、サッカー部の監督としてだけではなく教師として長きに渡って子どもたちを見続けてきた松本監督は、今の子どもたちについてこう話します。
「言われたことは出来るけど、それ以上のことは出来ないし、気付けなくなっている。そして、人に指摘されることに弱い。だから、指摘される前に怒られないよう取り繕ったり、萎縮する子どもが増えている」
大人の言うことを聞くマジメな子どもは増えましたが、やんちゃな子どもが少なくなり、性格は平均化したと感じているそうです。そのような性格の変化によって、勝負に対する意識も変化しており、「良い子は増えたけど、勝ちたいという気持ちが年々、薄れているように感じる」。
そうした今の子どもたちを危惧する松本監督は、「意見が違うからという理由で、教師と揉めたって良いんです。間違っていても、『俺はこう思う』と自分の意見を言えるのが大事。教師もそういう部分を引き出せるべきで、人の命と人権を無視しなければ時々やんちゃするくらいの子どもで良い」と話します。
■個性を大事に、一人ひとりが「閃く」ためのヒントを与える
他とはちょっと違う選手を育てるために、久御山が行っているのが、選手の自主性を引き出すための取り組みです。練習で行う紅白戦には、審判がつきません。練習の開始時間も決まっておらず、授業が終わった選手からグラウンドに出て、ボールを蹴り始めます。
「サッカーって自由なんだと感じて、仲間とボールを蹴りたいと思えるようになって欲しい」
そうした自由にサッカーを楽しめる場所があるから、子どもたちは個性的に育っていくのです。個性がぶつかり合い時には練習中に喧嘩をすることもありますが、仲間意識が強いため怪我をさせたり、一線を越えることはありません。
自由さと共に松本監督が大事にしているのは、選手へのアドバイスです。技術を試合で上手く発揮するための術を教えるのは簡単ですが、口を挟み過ぎると成長の妨げになるため、全ては教えません。
「一人ひとりが閃くためのヒントを与えてあげる。ヒントを与えるためのタイミングや導き方が大切なんです」と話すように、毎日の練習で選手それぞれの課題や長所、将来あるべき姿を全て把握し、選手が松本監督にアドバイスを求めてきたタイミングで、的確に答えを出してあげることが松本監督の接し方です。
「思わず、言ってしまいたくなる時もありますけど、我慢が大事。選手を常に見てあげて、頭の中で何を聞かれても返せるように考えています」。