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猫背はエネルギー不足の原因にも! 「運動苦手で力もない」を改善する姿勢維持機能の重要性

公開:2020年1月29日 更新:2023年6月30日

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サカイクに届く「うちの子は運動が苦手で、動きが鈍いように見えるんです......という悩み。運動が苦手な子は、何から始めれば良いのでしょうか?

いわきスポーツクラブのアカデミー、ドームアスリートハウスアスレティックアカデミー(以降DAHAA)のアドバイザーを務め、選手育成に長年携わる小俣よしのぶさんに聞く、運動能力向上のポイント。

後編では、運動の基礎となる身体機能である姿勢維持と重心コントロール機能、運動が上手になるための能力である自己観察能力、運動好きを育てるために必要な「運動有能感」の重要性と大切さについて伺いました。
(取材・文:鈴木智之 写真:)

 

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裸足なのもポイント。DAHAAではあらゆるスポーツの基礎となる体力運動能力向上を図る長期育成プログラムを通してスポーツ万能キッズの育成を行っています

 

<<前編:「うちの子運動神経が悪くて」と悩む親必見!「サッカー以前」に必要な運動スキルとは 

 

■猫背はイライラ、エネルギー不足の原因に

小俣さんは運動が上手になる前提として「まずは姿勢ですね。猫背などが運動に必要な身体機能の低下を引き起こしたり、あるいはその現れと見ることができます。姿勢は運動が上手になるためには必要なんです。ここから改善する必要があると思います。」とアドバイスを送ります。

「いまの子どもたちは携帯ゲームやスマートフォンなどの利用時間が多く、その間は長時間にわたり下を向いていることが多いです。このような姿勢が猫背につながると言われています。
猫背は身体機能低下やケガ障害につながるとも考えられていますから猫背である場合は、改善が必要だと思います。まずは背筋を伸ばして骨盤を立てるイメージを作ること。これが運動の基本姿勢になります」

人間は地球上で生活する限り重力の影響を受けています。立ったり、座っている、歩いたり、飛び跳ねたりする時にも身体を支える、言い換えると重力に抵抗しながら姿勢を維持しなければなりません。その姿勢を支える筋肉群(抗重力筋群)があるのですが、猫背などによってそれらの筋力や柔軟性が低下します。それによって身体を支えられなくなる、重心のコントロールが苦手になるということが現代の子どもに起きているそうです。

筋肉の中には姿勢を支えたり、重心をコントロールするために必要な身体の状態を感知するセンサーが入っています。運動不足などによる姿勢を支える筋群などの低下はこれらのセンサー機能の低下にもつながります。重力に抗って姿勢を維持できなくなってくると、それが猫背となって現れます。

長時間、猫背でいると身体にさまざまな弊害が起こります。例えば、猫背になると前かがみ姿勢になるので胸が圧迫されます。これは言い換えると肺も圧迫されることになり、肺をしっかりと膨らませることが難しい姿勢です。酸素を体内に取り込む器官が肺で、それが圧迫されると呼吸が浅くなります。その結果、酸欠になったりしてイライラしたり、疲れやすくなるとも言われています。さらに人間は酸素を利用して活動のエネルギーを作ります。酸素を取り込む量が少なくなったり、その器官がうまく働かないと運動スポーツに必要なエネルギーも不足してしまいます。

また、腹圧を高めて踏ん張ることができないため、ボールを蹴るときやヘディングなどでジャンプ、あるいはコンタクトするときに力の発揮が弱くなるそうです。

「良い姿勢を作ったり、維持することは、運動を行う上でとても大切です。いわきFCでは食事中の姿勢なども注意するようにしています。またDAHAAでは裸足で運動を行い姿勢維持機能の強化を図っています

 

■運動能力を高める3つのポイント、平衡、リズム、定位 とは?

姿勢維持が前提要件として整った上で、あるいはそれを改善するために様々な運動をすること。それが結果として、サッカーのパフォーマンス向上につながります。運動能力を高めるための3つのキーワードが「平衡」「リズム」「定位」です。

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平均台を渡る子どもたち。運動ではバランスが崩れながらもコントロールできることが大事

 

まずは「平衡」とはどういう事を指すのかと伺うと、こんな回答をいただきました。

「平衡(へいこう)」というのは、バランスと言えますが、バランスを安定させるだけはなく、バランスを崩したり、崩れたバランスを立て直したり、目まぐるしく変化する運動の中で姿勢を維持するなど、どのような体勢であっても姿勢と重心をコントロールする能力です。これはすべての運動の基礎となります。」と教えてくれました。

さらに「器械体操のウルトラH難度やフィギュアスケートの4回転ジャンプ、サッカーのオーバヘッドキックやGKのダイビングキャッチなどは、この姿勢と重心コントロールが適切であるから成せる技なんです。バランスを鍛えるエクササイズというとバランスボードなどの不安定な物の上に乗ってバランスを崩さないようにするエクササイズや、身体の安定性をねらって体幹トレーニングなどをします。これらのエクササイズは、静止状態でのバランスの安定性を作るものであって運動やスポーツに必要なバランスとは異なります。

本来、バランスは崩れないと運動できません。走ったり、跳んだり、投げたり、蹴ったりなどの運動はバランスの安定と不安定が目まぐるしく変化する中で行われるのです。したがってバランスを安定させるエクササイズや体幹を強化するだけではなく、バランスが崩れながらもコントロールできる能力が必要なのです

続いては「リズム」について。

小俣さんは「運動が上手、運動の勘が優れた選手の特徴として、運動の変化の中における力を入れたり抜いたりする能力に優れています。熟達者のスキルなどが流れるような、あるいは力感を感じられないのはスキルの流れの中で適切に力の出し入れ、それに伴う動きの速度の抑揚とメリハリがスムーズであるからです。

サッカーのドリブルで相手を抜くときは、動きの経過と力発揮の強弱が動きの速度の抑揚を生み出し、この動きがリズミカルに見えるので、メッシやネイマールのドリブルの中にリズムを感じ取るのです。

力発揮の強弱がぎこちない、あるいはバラバラだと、スムーズに動くことができません。幼児の運動、例えば走ったり、投げたりなどの複雑な運動を見るとロボットのような動きをすることがありますが、あれは動きの中での力発揮の強弱ができていないために、あのようなぎこちない動きなるのです。

リズムと言っても、これは音楽のリズムとは異なるものです。例えばダンスをやったところで養成できる能力ではありません。音楽のリズムは『二拍子』や『三拍子』などのビートという単位で構成され、アクセントを持つ音の強弱が連続するものです。音が基本となります。運動のリズムは身体の動きの中に現れる力の強弱と速度の緩急によるものですから、運動と音楽のリズムは根本的に異なります。

最近では音楽に合わせてステップワークを行うエクササイズを見かけますが、あれが上達しても運動スポーツの上手さにはつながりません」

最後に「定位」ですが、自分と自分の周辺の状況や状況の変化を把握する能力で、例えば自分がグラウンドのどのあたりいるのか、ボールと自分、相手との位置関係はどうかといったことを感覚的に捉えて運動や姿勢を変化させる能力のことを言うのだそうです。

小俣さんはサッカーのスキルで例を示して「ドリブルでディフェンダーの間を突破する際に、この定位能力が必要となります。自分をカバーしているディフェンダーとの距離感(間合い)やディフェンダーの動きの変化、それに対して、どちらに切り返してカバーを外すのかを判断して自分の運動(ドリブル)とそれに伴う姿勢や体勢を適切に変化させます。あるいは相手ゴールを背にしてパスを受け、反転してゴールに向かってシュートを蹴る場合、自分とゴール、カバーしているディフェンダーとの位置関係を瞬発に判断してカバーのいない方向に反転します。その際にトラップから反転しながらキックへの運動の変化があり、それに伴い姿勢と重心が変化し、振り返ってゴールまでの距離を瞬時に読み取りながらシュートを打つために適切な力発揮度合いの変化が生じます。このような振り向きざまのシュートにも定位能力が関わっています

「これらの能力が整っていない、あるいは統合されていない、未発達であったりすることが、運動ができない=運動神経が悪いとみなされているのだと思います。これら3つの能力は、運動の基礎をなす要素ですから、これらの発達度合いや養成は非常に重要だと思います。

その中でも特に平衡は運動のすべての根幹となります。姿勢の維持と重心のコントロールが適切でないとリズムや定位にも狂いが生じます。これらの能力を鍛えるには、前編で紹介した36の運動にある『姿勢の変化や安定性を伴う運動』と『重心の移動を伴う運動』が効果的であると言われています。

サッカーがうまくなるためにドリブルやリフティングなどの練習だけをするのではなく、体育でやっているような器械体操、マット運動、鉄棒、さらに遊びの中に含まれるさまざまな運動など、一見サッカーと関連しない、あるいはサッカーから離れた運動が大事なのです。サッカーがうまくなりたいからといってサッカーばかりしすぎると、特定の能力は鍛えられますが、体力や運動能力が偏ったり、身体形態の健全な発育を阻害したり、それらがロコモティブシンドロームやケガ障害の要因になったりします。

サッカーの基礎はスポーツ万能、言い換えると高い基礎体力運動能力です」

 

■自己観察能力は、自分で体験しないと身に付かない

小俣さんはスポーツが上達する上で欠かせないのは「運動の最中に、自分の身体や運動を常に感じ取る、自分自身を観察する能力」だと言います。

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動物の動きをする子どもたち。自分の身体をどう動かせばいいのか常に意識する能力は、子どもが体験の中で身につけていくしかない

 

「このような行為を内省自己観察と言うのですが、自分の体はどうなっているのか、どう動いたのか、どこに力が入ってるのか。そして、どうやったらうまく出来たのかということを常に意識したり感じ取る能力です。これは動画などの映像を使って自分の運動を見ることとは違います。

動画もスキル習得にとって適切な方法ではありますが、そもそもこの自己観察能力がない、あるいは低い選手や、特に競技経験の浅い子どもには適していない指導です。

自分の身体と運動の感覚が備わっていない選手に動画を見せて動きを指示したり、イメージを伝えても、それらを理解して指示やイメージ通りの運動に変えることは非常に難しいです。自己観察能力が備わるとスキル習得や運動学習の効率も高くなると言われています。

こればかりは、大人が教えるものではなく、子どもが運動体験する中で身につけていくものです」

「遊びやスポーツ活動の中で、自分の身体と運動に向き合い自己観察を行いながら感覚を研ぎ澄まし習得するものです。しばしば選手たちに、例えば、練習中にシュートを打った後などに、直ちに蹴った時の感覚を振り返れと言います。チームメートとおしゃべりしたり、ほかのことを考えていると感覚を忘れてしまいます。自己観察は感覚を通して行うものですから運動の最中や直後の感覚の振り返りが重要なのです。また指導者が1プレーごとに細かく指導したり、動きを指摘することも感覚を失わせる行為です。指導者は、選手の動きに変化が見られた時などに『今、どんな感じだった?』とか『今の動きと、さっきまでの動きは、どのように変わった?』などの質問をして選手が自己観察するきっかけを作ることが自己観察能力の養成には肝要です。ブリース・リーの有名なセリフに『Don't think! Feel!』というのがありますが、正にあれです」

「人間は本来、走ったり、投げたり、蹴るなどの複雑な運動を行う能力を持っています。運動ができない子、苦手な子は体験機会がないことが原因のひとつで、運動機会を与えるうちにできるようになるんです」

そのときは、なるべく大人がやり方を教えず、自分でチャレンジすることで、自然と身につけていくと言います。

「例えば、ボール投げ運動であれば、ボール投げが上手、あるいはフォームが整っている場合は野球のピッチャーの投げ方を指導することも可能で、その際には大人が介入して教えることはできると思います。しかし、元々ボール投げが苦手、あるいはその運動体験や運動感覚が乏しい子どもに高度な体力運動能力が要求されるボール投げ運を教えるのは難しいです。投げる運動が苦手な子どもには投げ方を教えるのではなく、先ずボール投げの楽しさに気づかせて、その後は自分の好きなように投げさせてみることが大事です。投げる運動を繰り返す中で投運動に必要な体力運動能力が鍛えられ、かつ運動の感覚が養われていきます。投運動の基本が備わってきたら、高度な投げ方を指導するというように段階的に取り組むほうが合理的です。これはサッカーのスキル習得も同じです

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もともと運動体験が乏しいのに専門的な指導をしてもつまらないのでやる気も出ないし上達しません。まずは「楽しさ」に気づかせてあげましょう

 

スポーツ教室などに行くと、子どもたちが取り組む姿を、近くで保護者が見守っています。微笑ましい光景ですが、小俣さんはその際「できたことを褒めるだけでなく、認めることがポイント」と言います。

「子どもは何かの運動に取り組んで、上手にできると保護者の方をチラっと見ます。『いまできたよね、すごいでしょ』という感じで。これは、認めてもらいたいという要求があって、それを認めてもらうと自信やる気につながります。運動を通して自信や動機が高まることを『運動有能感』と言います。自分はうまくできたんだ、やればできるんだ! という気持ちは心身の健全な成長にとって欠かせません。特に子どもは、運動を通してこれらの能力を身につけやすいと言われています。運動が、子どもの自信や性格を作るんです」

 

■子どもを伸ばす褒め方のコツ

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登ったり、跳んだり、様々な遊びを通して運動能力を高めていくのです。そして、自信を持つことで積極的にチャレンジするようになります

 

そして保護者に向けて、次のようにアドバイスを送ります。

子どもの頃は自分に自信を持つことが大切で、この頃に形成された精神構造などは、それ以降の自身のあり方に影響するということも聞きます。うまくできたときに、子どもが『見て! 見て!』と言うのは、自分の有能感を示して褒めてもらいたいからなんです。有能感が芽生えると、次はこういうことをやってみようという、チャレンジする気持ちが沸き上がってきます。それが積極性を生み、苦手な運動にも積極的に取り組むようになり、結果として体力運動能力の向上につながるのです」

子どもを褒めるときにも、コツがあるようです。それは「他の子と比べずに、できたことを見つけて褒めること」です。

「ただし褒めすぎると、子どもは褒められることが目的になり、褒められないと刺激になりません。つまらなく感じてしまいます。だからこそ、認めることが大事で、『いま、できたね。どうやったらできたの、ママに教えて? 次はこれをやってみれば』というふうに持っていってください。それが、運動が好きになり、上達するためのひとつの方法です」

 

いかがでしょうか。運動神経云々ではなく、運動機会が子どもたちの体力運動能力の向上につながるのです。前編でもお伝えした36の基本運動は、親子で海や山、川などの自然体験をしたりアスレチック体験など一緒に楽しみながらできるものです。遠出しなくてもご家族で近場の自然でアクティビティを楽しんだり、公園などで一緒に運動体験をしてみてはどうでしょうか。

そして楽しみながら「褒めるポイント」を実践して、お子さんのチャレンジする力を引き出してあげましょう。

 

<<前編:「うちの子運動神経が悪くて」と悩む親必見!「サッカー以前」に必要な運動スキルとは

 

ドームアスリートハウスアスレティックアカデミーとは
アンダーアーマー日本総代理店である(株)ドームのトップアスリート専用のパフォーマンス開発機関「ドームアスリートハウス」が運営するスポーツ万能キッズを養成するアカデミー。
その特徴は、①あらゆるスポーツや運動の基礎となる体力運動能力からパフォーマンスアップのための専門的フィジカルを鍛えるプログラム、②日本最高レベルのトレーニング施設、③トップアスリートを指導するパフォーマンスコーチによる専門性の高い指導。

育成年代のスポーツや運動についてのご相談やお問い合わせは下記まで
DAHアスレティックアカデミー>>

 

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小俣よしのぶ(おまた・よしのぶ)

いわきスポーツクラブ(いわきFC)アカデミーアドバイザー
ドームアスリートハウスアスレティックアカデミーアドバイザー
Waisportsジャパン(筑波大学発ベンチャー企業) 研究員
石原塾アドバイザー

筑波大学大学院修了
体育学修士
育成システム、競技スポーツの一般トレーニング学の研究を専門とし、その知見を活かしJリーグ、競技団体、プロ野球、自治体などの指導者研修や講演活動を行っている。

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取材・文:鈴木智之 写真:新井賢一

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