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選手の意思を尊重し、そして見守る。なでしこヘッドコーチ望月聡さんの育てる秘訣とは?

2012年11月 2日

キーワード:指導者育成

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なでしこJAPANの女子W杯優勝、オリンピックでの銀メダル獲得にヘッドコーチとして貢献した望月聡さん。代表の活動がない普段は、本業であるびわこ成蹊スポーツ大学の監督として指導を行っています。びわこ成蹊スポーツ大学は2003年に設立された新しい大学のため、他校に比べ優秀な選手はなかなか採れません。また、なでしこJAPANに帯同することも多く、指導に多くの時間は割けませんが、それでも今年、2度目の全国大会に出場するなどチーム力は着実に上昇しています。チーム、選手をしっかり育てる秘訣とは何なのでしょうか?それは望月さんの“自分たちで判断できる選手を”というモットーがありました。
 
 

■自分たちで判断できるようになると個性が発揮できる

「元々、自分自身が言われてやるのが嫌だった」と話す望月さん。そんな自身の経験から、「勉強だろうと、スポーツだろうと、自分が楽しいからやりたいからって思うのが大事なのかなと思います。そう思うからこそ、うまくなりたいとか向上心も身につく。他人から言われてやることは余り身につかないのかなって思います」という考えにたどり着いたそうです。
 
今でこそ、びわこ成蹊スポーツ大学の選手たちはそれぞれが目標を持ち自分の考えで動ける選手たちが増えましたが、入学するまでは指導者に怒られて、何かをやらされて育ってきて育った選手がほとんど。それに慣れてしまっているため、最初は皆、“自分たちで考え、中心になってやれ”と言われても戸惑う選手が多かったといいます。
 
それでも、「僕はあくまで見守ってあげるってスタンスを貫きます。時間はかかりますが、続けるうちに少しずつ僕のやり方が分かってきて、『本当に自分たちが中心になってやっても良いんだ』、『こんなやり方したいと言っても怒らないんだ。おもしろいって言ってくれるんだ』、って事を分かってくれます。本当にダメなプレーをした場合でも、『それはダメ』と否定するのではなく、『それもおもしろいかもしれない。でも、他のプレーもあるんじゃないかな?もう少し考えてみよう』という言い方をして、違う方向に進めるようなアドバイスや提案をする」そうです。こういった作業の繰り返しが、自分たちで判断できる選手たちを育み、望月さんがいなくても練習からチームがうまく行く要因となっていったのです。
 
自分たちで判断できるようになると試合への姿勢にも変化が生まれます。
「サッカーには理屈じゃない部分もあるからこそ、誰から言われて動くのではなく、自分たちの意志で動くってことが大事です。自分たちでやるからこそ、勝ったということに心から喜べるし、負けた時は“なぜ負けたのか?なぜ自分たちが通用できなかったか?”ということを必死に考えます。これがコーチに言われたことばっかりやって負けたら、『コーチが言っていた戦術がおかしかった』みたいにどこかで言い訳を作りますよね。でも、自分の判断で試合をすると、終わった後にちゃんと反省出来るので、次に進む時に必ず力になります」
 
望月さんはこう話した後に、「最近は良く、『今度どうやって戦う?メンバー考えておいてよ、戦術も頼むね』なんて言います。選手たち自身で相手を分析して、『こうやろうと思います』なんて言うと『お、いいね』って言ったりね」と笑いますが、決して冗談ではなく、実際に公式戦でもこうした手法を行っています。自分で判断できる選手になることが、身体の強いFW、ドリブルのうまい選手、ねばり強い守備が持ち味の選手・・・と、それぞれ“個性”を発揮する原動力となり、チームの好調に繋がっているのです。
 
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■判断力を育むための指導者の心掛け

ただ、選手たちに任せるといっても、指導者も思ったことは口にしたいし、見守るという作業もなかなか難しいことではないでしょうか。「自分たちで考えてやれ!」と口にしても、「こうしなさい!」と言っても、選手たちは混乱するだけで、“自分たちで判断できる選手”へとは成長できません。そのためにも、望月さんは言葉と行動が一致するように心がけた上で、選手たちがやったことを否定せずに、『お、良くやってるやん』、『良く考えてるやん』と声をかけます。ミスが起きた際も、『なぜミスしたか考えてみて』と決して怒ることはありません。
 
「指導者が言っていることを、ちゃんとやっていると思ってもらえると、選手たちが自分たちでという意識が生まれます。どんな時も見守ってくれていると思われることが大事です。選手たちには元々、自分でやりたいとか、任されたら嬉しいって気持ちはあるので、意外とここまではスムーズに行きます。でも、そこからがスタートです。そこから上手くなるとか強くなるとかって所まで行くには時間がかかります。それを続けていくことが本当の意味での技術や取り組みの姿勢に繋がり、最終的にギリギリで勝てるという所になっていくのだと思います」
 
最後に望月さんはこんな話をしてくれました。「コーチという言葉の元々の意味合いは“馬車”という意味なのです(※)。馬車って自分で行き場所を決めるのではなく、乗る人に目的地を言われて、一緒に行きましょうというものですよね。サッカーも一緒で、僕らが行き場所を決めるものじゃない。“もっとうまくなりたい”、“レギュラーになりたい”、“代表に入りたい”という選手らの意思について行ければと僕は思います」
 
ジュニア年代の指導者の多くも、決して指導に多くの時間は割けません。だからこそ、サッカーの技術を教えることと同様に自分で判断できる“ココロ”を育てる必要があると思います。指導者の方に限らず、保護者の方も望月さんのコーチングを参考にしてみてはいかがでしょうか?
 
※ハンガリーのコチ(Kocs)という町で作られた世界初のサスペンション付きの四輪馬車・コーチ(kocsi)が由来。19世紀に入り、イギリスのオックスフォード大学で、家庭教師のことを目的地に運ぶ馬車になぞらえコーチと呼ぶようになり、指導者を指す言葉となった。
 
 
後編の記事を読む>>
 
 
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望月聡(もちづき・さとる)//
1964年5月18日生まれ 
守山高校、大阪商業大学を経て、1987年にJSL1部の日本鋼管サッカー部に入部。日本代表として国際Aマッチにも7試合に出場する。Jリーグ発足後は浦和レッズへと移籍。1995年からは京都パープルサンガへ移籍し、Jリーグ昇格に貢献した。引退後は京都パープルサンガでのコーチなどを経て、2008年の北京オリンピックサッカー女子日本代表コーチに就任し、ベスト4入りに貢献。翌2009年度からは、びわこ成蹊スポーツ大学の監督を務めるだけでなく、競技スポーツ学科の准教授として教壇にも立っている。
 
 

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