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自分で考えて決められる 賢い子供 究極の育て方

内気で人見知りな非エリート元Jリーガーが、森崎兄弟、駒野友一らから学んだこと

公開:2019年5月 9日 更新:2019年6月27日

キーワード:ウズベキスタンコミュニケーションライフスキルラゾヴィッチラトビア中村憲剛人見知り柴村直弥考える力自主トレ

Jリーガーになりたい。プロのサッカー選手になりたい。そんな夢を描いてプレーする子どもたちの可能性を信じてサポートするのが親の役目。それはわかっていても、一人の大人、人生の先輩として、すべての子どもの夢が叶うわけではないことも知っている......。

サッカーをプレーする子を持つ親として、この現実をどう考えるかは大きな悩みの一つでしょう。

しかし、サッカーと人生を分けて考えなくても良いとしたらどうでしょう? サッカーをプレーすることが人生を生き抜く技術になる。そこで必要となるのは思考力、判断力、表現力といった問題解決能力、つまり「ライフスキル」です。このライフスキルはサッカーにおいても、もっとも重要なスキルであり、サッカーを通して身につけ、伸ばし、強化することができます。

サカイクキャンプではライフスキルプログラムを導入しており、この度サカイクとして「自分で考えて決断できる」子どもに育てるための親の関わり方のヒントをまとめた「自分で決められる賢い子供 究極の育て方」を発売しました。

この連載では、サッカーで"ライフスキル"を得た人たちを紹介していきます。

第2回目は、ラトビア、ウズベキスタン、ポーランドなどで活躍した異色の"海外組"柴村直弥選手(南葛SC)の登場です。

自分で道を切り拓くための「考える力」、失敗を恐れず前に進むための「チャレンジする力」、力を合わせて乗り越えるための「コミュニケーション力」、ピンチをチャンスに変えるための「リーダーシップ力」、周囲のサポートを信じるための「感謝する力」の"5つのライフスキル"を持つ先輩に登場いただくこのインタビュー。

柴村直弥選手(南葛SC)の後編は、サッカーのプレー状態に一見関係が薄そうなコミュニケーション力、リーダーシップについて。自身の子ども時代を「超がつくほど引っ込み思案だった」と語る柴村選手は他者との関わりによって、サッカー選手として成長できたと言います。

※ライフスキルとは、WHO(世界保健機関)が各国の学校の教育課程へ導入を提案している考え方で、「人生で起こるさまざまな問題や要求に対して、建設的かつ効果的に対処するために必要な能力」と定義されています。

(取材・文:大塚一樹 写真:)

<<前編:体格も運動神経も普通、レギュラーでもない。引っ込み思案だった子が海外リーグで主力に。逆輸入元Jリーガーが変われたキッカケ

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少年時代は引っ込み思案だった柴村選手が日本人未開の地を開拓するプロ選手に慣れたワケとは......(C)安田一貴

■引っ込み思案で赤面症なサッカー選手

小5でJ リーグ開幕、中2でセレクションを受けて当時広島にあったフジタのジュニアユースに入団した柴村選手は、途中入団ということもありなかなかレギュラーポジションに定着できずにいました。前編で紹介した独自のトレーニングで身体能力では他の選手に負けないものを見せ始めていた柴村選手が「いま振り返って欠けていたもの」の一つがコミュニケーション力だったと言います。

「ジュニアユースでは打ち解けるのになかなか時間がかかりました。中1から入ったメンバーに馴染めなかったわけではなく、僕が極端に引っ込み思案で、人見知りだったんですね。サッカーをやっている子どもって、結構社交的な子も多くて、途中からは入った僕に気を遣ってガンガン絡んでくる子もいるんですよ。チームに入って初めに話しかけてくれたのが、後にタイでプレーする猿田浩得で。いまでも仲が良いんですけど、彼のように誰にでも分け隔てなくスッと話しかけられる人に憧れていましたね。こんなふうに話せたら、コミュニケーションとれたらきっと楽しいだろうなって。猿田はアジアで日本人選手が活躍する先駆けになった選手ですけど、当時からチームの中心。いま思えば、当時からコミュニケーションスキル、リーダーシップがあって、それが生きているんだなと思います」

他人ごとのように振り返る柴村選手ですが、柴村選手も日本人選手未開の地でプレーを続けてきた"サッカー開拓者"の一人。タイでもいまだに尊敬を集めているという猿田選手に向けていた憧れの眼差しが、徐々に「自分がプロサッカー選手になるために必要なもの」「自分もああならなければ」と変化していったのです。

――コミュニケーションの大切さみたいなものはいつから意識するようになったんですか?

「元々、女の子に話しかけるどころか、事務的なことを話しかけられただけで真っ赤になってしまうような子どもだったので、自分から話しかけるという行為へのハードルがすごく高かったんですね。それはサッカーでも同じで、空き地で一人で自主トレは続けていましたけど、自分の半径5メートルどころか1メートルくらいしか見えていないような感じで。サッカーは一人でやるスポーツじゃないので、当然それじゃあサッカーがうまい選手にはなれませんよね」

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FCパフタコール・タシュケント所属時のトルコキャンプでチームメイトと

 

■足りないのはコミュ力! 高校デビューを試みるも......

――そんな意識が変わったのは?

積極的に自分から話しかけられる人間になりたいというのはずっとあったんですけど、高校に入ってからかなあ。高校では、6時に学校に行って朝練をするようになるんですけど、部員が100人くらいいる学校で、自分は一番下の序列のチームで、自分が一番下手だと感じました。広島県内の各中学のエースが集まってくるような環境だったんです。だからとにかく練習をとなるわけですけど、練習後の自主練では、チームメイトと一緒に練習をするようになったんですね。これまで一人きりでやっていたことが、仲間ができて『俺はこの練習をしたいからボール出して』とか、徐々に人と関わって実戦的なことができるようになっていったんです


――そういう関わりから徐々にコミュニケーションを取るように?

「実は、高校進学のときに"高校デビュー"を試みたんです(笑)。1時間くらいかけて通学しなければ行けないところにあったので、自分の中学から皆実に進んだ人がほとんどいなくて、『これはチャンスだ』と。初めに気軽に話しかけることができれば、これまでのキャラとは関係なく仲良くできると思ったんですね。でも......、勇気を出して話しかけようと思っているのに、なかなかそれができない。休み時間のたびに緊張ですよね。話しかけられないまま時間が過ぎて、椅子に座りながら『次こそは』と......。結局 "高校デビュー"とは行かずに、1年かけて徐々に話せるようになって、2年生の時には普通に話せるようになりました。プレーでも、チームメイトに要求するようなことはできなかったし、試合に出られるようになってからもしばらくは先輩についていくのがやっとでしたね」

――皆実高校では早い段階から試合に出られるようになった?

「2年生になって最初の遠征で、大久保嘉人選手のいた国見高校に行ったんです。そのときも遠征メンバーで一番使われる見込みのない部類だったと思うのですが、たまたまサイドバックのポジションの選手が風邪で休んで、そのポジションに人数合わせ的に使われたんです。初めてやるポジションだったんですけど、強豪・国見にそこそこやれて、それがきっかけで左サイドバックで使ってもらえるようになりました」

――周囲は先輩ばっかり?

「センターバックの先輩ともコミュニケーションというレベルじゃなくて、言われたことをやる感じでしたね。そもそも必死でしたし、相手との1対1に負けないことで精一杯。余裕はありませんでした」

――プレーにコミュニケーションとか、リーダーシップの必要性を感じるようになったのは?

「3年生になったとき、2年生から試合に出ていたこともあって、『主力としての自覚が足りない』と言われたんですけど、他にもそういうことが得意な選手がいたし、本当の意味ではコミュニケーションとかリーダーシップの大切さはわかっていなかったかもしれません。でも、高校を卒業した時点で自分は目標にしていたプロサッカー選手にはなれず、先輩、同い年の選手たちがJリーガーになっているわけです。この違いは何だろうと思ったら......、才能とか技術なども足りないと思っていましたが、コミュニケーション力やリーダーシップも大事だなと思ったんです。県選抜で森﨑和幸、浩司選手や駒野友一選手、などを見ていたら、形は違ってもみんな主体性を持って周囲とのコミュニケートしているんですよね。そういうものを持っている選手と自分との違いで、大学ではもっとコミュニケーションができるように、周囲を引っ張っていけるような主体性も身につけようと思いました」

――大学ではプロサッカー選手になるために足りないものを埋めるためにプレーしていた?

「焦りもあったし悔しさもありました。四年間自分を鍛えてもう1回プロにチャレンジをしようと思っていました。大学を選ぶ際に、まずサッカーのレベルが高いこと、それと体育学科とかじゃなくて通常の学科を学べるところがいいなと思ったんです。それで中央大学の商学部経営学科に入るんですけど、サッカー以外のことを学ぶことで、サッカーにつながっていくんじゃないかという感覚が当時からあったんです。サッカーがうまい選手がたくさんいる中で、何かで突出しないとプロにはなれない。そんな思いで教職課程を履修したり、バイトをしたりととにかく忙しく過ごしましたね。特に教員免許取得の実習で、生徒の前で授業するのは人前で話す練習にもなったし、コミュニケーション力を身につけるのにも役立ったかなと思います。アルバイトでは、家庭教師もやりましたし、郵便物の仕分け、カラオケ屋さんとかバーテンとかもやりましたね。でも週末はサッカーのためにバイトに入らないので迷惑だったでしょうね」

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Jリーグでは、アビスパ福岡、徳島ヴォルティスなどでプレー

中学校時代にスポーツテストの記録を向上させた「空き地自主トレ」からチームメイトのとの練習、柴村選手の工夫は徐々に他人との関わりを生み、高校での活躍、プロ選手になれずに大学に進学したことを経てより大きな視点でサッカーを捉えるフェーズへと入っていきます。大学卒業後、アルビレックス新潟シンガポールからのオファーで、プロサッカー選手に。アビスパ福岡でJリーグデビューを果たし、2011年にラトビアに渡ることになります。

「ラトビア行きは、ずっと夢だったヨーロッパに渡るなら、28歳のときに『もういましかない』と思ってチャレンジした結果でした。ヨーロッパに外国人枠を使ってまで実績のない日本人ディフェンダーを雇ってくれるクラブがあるとは思えない。それなら売り込むしかないと、英語のプロフィールとプレービデオを作って、エージェントに売り込んでもらったんです。最初に興味を示してくれたのがラトビアのFKべンツピルス。夜22時頃にエージェントから電話がかかってきて『明日ラトビアに行けるか?』と言うんですよ。友達と食事をしていたんですけど、すぐに『明日ラトビアに行くから』と自宅に帰って荷造りをしました」

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ラトビアリーグ所属時にはUEFAヨーロッパリーグにも出場(C)長束恭行

 

この話を聞くと、ようやく私たちのイメージする"辺境の海外組""異色の逆輸入選手"のイメージが顔を出します。道なき道を切り拓いた柴村直弥選手の物語はまた別の機会に詳しくご紹介できればと思いますが、自称"非サッカーエリート"の柴村選手が、ラトビア、ウズベキスタン、ポーランドで活躍できた理由は、子ども時代から自分に足りないものを冷静に見つめ、愚直なまでにそれに向き合い、徐々にでも積み上げ、成長していった結果でした。

ライフスキルは、後天的に身につけることのできる技術。サッカーは、「うまくなりたい」「成長したい」と願ってプレーし続ける限り、自分のライフスキルを伸ばしてくれる"人生のパートナー"なのです。

<<前編:体格も運動神経も普通、レギュラーでもない。引っ込み思案だった子が海外リーグで主力に。逆輸入元Jリーガーが変われたキッカケ

▼サカイク初の著書「自分で決められる賢い子供 究極の育て方」

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柴村直弥(しばむら・なおや)
1982年9月11日生まれ
広島皆実高校2年時に全国高校総体優勝、国民体育大会3位
中央大学では2学年上の中村憲剛とチームメイトで2年時に関東大学2部リーグ優勝及びベストイレブン受賞
アルビレックス新潟シンガポールを経て、アビスパ福岡でJリーグデビュー。徳島ヴォルティスではキャプテンを務め、ガイナーレ鳥取、藤枝MYFCでプレーした後、2011年に欧州へ挑戦し、ラトビア1部の強豪FKヴェンツピルスと契約。ラトビア1部リーグ優勝、ラトビアカップ優勝を果たし、UEFAヨーロッパリーグにも出場。
当時ACL(AFCアジアチャンピオンズリーグ)全大会(11回)に出場しているアジアで唯一のクラブであるアジアの強豪FCパフタコールへ移籍し、ACLにも出場。
ポーランドでプレーした後、当時J1のヴァンフォーレ甲府へ移籍。
現在は南葛SCで選手兼ヘッドコーチとして活躍中。

母校の中央大学や広島皆実高校はもちろん、JFAアカデミー福島や北星学園高校(北海道)、サッカーアフガニスタン女子代表チームなど、様々な場所やカテゴリーで自身の経験を生かした講演活動等を行っている。

柴村直弥選手への講演及び指導依頼などはこちら>>

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取材・文:大塚一樹 写真:安田一貴、長束恭行

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