JFAグラスルーツ推進部部長が行く!あなたの街のサッカーチーム訪問

2017年8月 9日

「プロ100人よりサッカーで輝く社会人100人を育てたい」勝利至上主義だった監督が目を覚ました子どもたちの言葉とは

日本サッカー協会(JFA)グラスルーツ推進部の松田薫二部長があなたの街のサッカーチームを訪ね歩くこの連載。
 
今回、取材に伺ったのは、札幌市中央区で活動する札幌中央FC。2012年創設の新しいクラブです。クラブのモットーは「子どもたちの自主性と自立をうながすこと」。すすきのという繁華街にある練習会場に来る子どもたちは、原則として保護者の付き添いなしで、自分たちで電車やバス、自転車に乗って来ます。(取材・文:鈴木智之)
 
 
 
<今回訪問した札幌中央FCは以下の賛同パートナーです>
  
 
後編:「できること、できないこと」を理解してフォロー 積極的に障がいのある子とサッカーを楽しむ>>
 

■やる気スイッチは自分で押すもの

昨今、保護者が車で送迎する光景は当たり前になっています。松田部長が「子どもたちだけで練習に来るとなると、なにかあったときにどうするんですか? と言う保護者はいませんか」と尋ねると「この5年間で色々ありました」と、代表を務める明真希(あきら・まき)さんは苦笑いを浮かべます。
 
「遅刻、迷子、変な人に追いかけられる……。子ども達は迷子になったら人に聞いたり、交番に行ったり、みんなで力をあわせながら解決してきました。ついこの前も2年生の男の子で、駅員さんに『電話を貸してください』と言った子もいたんですよ。帰り道では、地下鉄やバス移動組は同じ方向に縦割りで移動。自転車移動の組では家とは反対方向の上級生が下級生に付き添ったり。私が何か言わなくても、自主的にやってくれるんですよね」
 
実は松田部長も、幼稚園のときからひとりで電車に乗り、通っていたそうです。実体験をもとに「やればできるんですよね」と深くうなずきます。
 
練習を見ていると、子どもたちがグループになり、頻繁に話し合っている姿が見られます。ウォーミングアップのブラジル体操の後は、子どもたちが集まって輪になり、1年生から6年生まで、その日のプレーで心がけることや目標などを順番に言っていきます。これらはすべてキャプテンを中心に、子どもたち主導で行われています。
 
「2時間の練習の中で、子どもたち自身が工夫してやる時間を30分は取りたいと思っています。監督がこれをしろあれをしろと言うと、学年が上がっても言われないとできないようになってしまうんです。そうなると、試合の最後、厳しい局面でベンチの顔色を伺ってしまいます。そこで『ベンチを見なくてもいいよ』と言うのですが、そうさせたのは僕も含めた大人なんですよね」
 
明監督は練習前に要点を伝え、練習中は離れたところから見守り、気になったことがあればアドバイスを送ります。
 
「昔はああしろ、こうだろうと言っていたのですが、いまは選択肢をふたつ提示して、どちらを選ぶかは任せるから、自分で決めてごらんと言っています。やる気スイッチは自分で押すものだと思うんです」
 
松田部長は「周りからうるさく言われると、夢中になれないですよね」と同意します。
 

■勝利にこだわっていた監督の目を覚まさせた子どもたちの言葉

 
明監督も最初から、いまの指導スタンスになったわけではありません。創部3年目までは育成指導主義で活動するといいながらも、チームの結果に固執しすぎてしまい、勝ちたい気持ちが先行し、過度な熱量で子どもたちに声をかけることもあったそうです。
 
「それで部員が減ったこともありました。監督が怒鳴るからって。その頃の私は、遠征の移動バスの中でスクールウォーズを流していたぐらいでしたから(笑)。それである日、冬の小さな大会で優勝したときに、子どもたちに『監督、俺たち、もう監督に言われなくても頑張れるから、大丈夫です』と言われたんですね。そのときに、子どもたち以上に、監督である自分の方が、プレッシャーに圧されて苦しい姿が勝ちたい気持ちになっていたことに気づきました」
 
創部3年目、明さんは指導のスタンスを変えました。
 
「変えようと思っても、すぐに変えられず、少しずつ、少しずつ、失敗しながらも変えていきました。そうしたら結果が出始めたんです。子どもたちが自分たちで動くようになってきました。そこからですね。勝利至上主義ではない、真の育成指導主義になったのは」
 

■サッカーを通じて社会で生きる力を養う

明監督は言います。「プロサッカー選手を100人育てるより、サッカーで輝くことのできる社会人を100人育てたい」。社会性につながる取り組みとして、週の中で1~2日はチームを1年生から6年生まで、全員で練習することもあります。
 
「全学年が一度に同じ練習をするときは、上の学年が、低学年に気を配る必要があります。なかには『下の子たちの世話が大変で、練習にならないんじゃないか』と言う保護者もいます。勝利至上主義にこだわるのであれば、たしかにそうかもしれません。でも、札幌中央FCは育成指導主義です。下の子たちと関わることで、自分が気づかされる。教えることで、自分のキックはどうだったのかと振り返ることもあると思うんです」
 
松田部長は、明監督の様々な取り組みを見聞きし「育成主義を体現しているクラブ。子ども達の自立をすごく考えていますよね」と感心。さらに、こう続けます。
 
「子ども達自身に考えさせて、自分でできるようにしていく。社会で生きる力を、サッカーを通じて養っていると感じました。サッカーを楽しく続けていける、サッカーとの関わりを大事にしているクラブですよね。いまは学年ごとに分けて練習するのが当たり前になっていますが、良いお兄さんに教えられたら、自分がその立場になったときに面倒を見るようになると思います。それは社会のあり方と同じです。こういうチーム、指導者がたくさん出てくると良いと思いますし、親の関わり方も含めて、参考になるクラブだと思います」
 
子ども達は芝生の校庭で、楽しそうにボールを蹴っています。それはまるで、公園で友達と遊びながらサッカーをしているようでした。まさに、JFAグラスルーツ推進・賛同パートナーのコンセプト「ずっとEnjoy」「みんなPlay」です。
 
次回は札幌中央FCが取り組む「だれでもJoin」。障がい者サッカーへの取り組みを紹介します。
 

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この制度の目的はJFAが掲げる『JFAグラスルーツ宣言』に賛同し、共に行動していただける団体と仲間になることで、グラスルーツサッカーの環境改善を推進することです。本制度の賛同パートナーになってもらい、その活動の理念や内容が好事例として日本全国に広く伝わり、JFAと同様の考え方で進められている活動であるという理解が深まることを期待しています。また、さまざまな好事例を多くの方々と共有することで、全国により良い環境が広がるきっかけになればと思っています。ぜひ賛同パートナーとなり、グラスルーツサッカーの環境改善にご協力下さい。
 
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