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蹴球子育てのツボ ~サッカーで子どもは一人前になる~
努力もしないのに「プロになりたい」なんて気軽に言わないで! 自主練もしないのに「上手くなりたい」などと言って欲しくない問題
公開:2024年6月26日
まじめで一生懸命、チームでの評価も悪くない息子だが、気分屋なので家で自主練しない。練習に行く回数も増やそうとしないし、声をかけなきゃYouTubeばかり見てる。
上手くなるには向上心と自主性が大事であり、継続して練習を行うことが一番の方法だと思っている自分としては、自主練もしないし向上心もないなら気軽に「上手くなりたい」なんて言って欲しくない。とイライラしている。どうしたらいい? というお悩み。
今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、これまでの取材で得た知見をもとに、お母さんに3つのアドバイスを送ります。
(文:島沢優子)
(写真は少年サッカーのイメージ ご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
<<我慢の先に何がある? コーチが怒鳴るチームをやめさせたいのにサッカー経験者の夫が反対するので悩みます問題
<サッカーママからの相談>
子どもの事なので感情的に書いてしまい、長くなってしまうかもしれませんがご相談させてください。
小学2年生の息子は現在週一のチームの練習と、週一のスクールに通っています。
どちらもそれなりな評価はもらえているようで、特にスクールの方では本人も「自分は上手い方だ」と自信を持っているようです。チームの方でも試合に出ればある程度点を取っています。
サッカーアニメを見たり、Jリーグの試合を見に行ったり、公園に行ったらサッカーしたりと、サッカー自体はとても好きです。
本題ですが、今回ご相談させていただきたいのは「向上心」「自主性」「継続性」についてです。
息子はどちらかというと真面目な性格で、チーム練習やスクールの時間はしっかり練習に参加しています。
しかし、ドリブルの技術はまだまだですし、特にリフティングが苦手なようでスクールで毎月あるリフティングのテストで中々合格できないでいます。チームやスクールではそれなりな評価はもらえているものの、息子より上手い子は普通にいます。
本人も「上手くなりたい」「プロサッカー選手になる」と言っており、時々自宅でリフティングしていることもありますが、気分屋な性格のようで、やったりやらなかったりなので、結局上達していません。
私が声かけして練習することもありますが、結局長くは続きません。恐らく、現状の出来に満足していて、練習の必要性を感じていないのかなとも見えます。
チーム練習は共働きで送迎の時間が取れず週一回の参加になっていますが、最近チームでバスでの送迎をしてくれるようになったので、「参加したら?」と声かけをしましたが、「帰りが遅くなる」「練習をするメンバーが違う」と言って参加しようとしません(実際はそんなに違いません)。
何でもそうですが、やはり上手くなるには「上手くなりたい」という「向上心」と、自ら動く「自主性」が大事だと思います。
特にリフティングは練習あるのみだと私は考えており、短い時間でも日々練習を「継続して」行うことが、一番の方法だと思っています。
私自身サッカー経験は無いですが、SNS等で自分なりに勉強し、時々息子と一緒に練習動画を見る等してアドバイスしたり、自主練するという意欲を持ってもらえるように努めているつもりです。
「向上心」「自主性」「継続性」どれも本人次第だと思いますので、極力私は口出しはしたくないのですが、一週間程何も言わないと結局何もせず、YouTubeばかり見ていて、最近イライラしてしまいます。
私は、息子がサッカーよりも優先したいことがあるなら本人の価値観なのでそれでもいいと思っているのですが、それなら上手くなりたいなどと言って欲しくもないと思ってしまいます。
より上手くなろうと向上心を持てないなら、プロになるなどと気軽に言って欲しくもないです。息子の周りには、上手くなろうと自ら考え、行動している子はたくさんいて、羨ましいと最近思い始めました。
子どもの「向上心」「自主性」「継続性」を育むために、親としてどう行動すべきだとお考えになりますか。意見を伺いたいです。
<島沢さんからの回答>
ご相談いただき、ありがとうございます。
メールの文章だけでの判断なので、理解が届かない部分があるかもしれませんがどうぞご理解ください。
結論から申し上げますと、息子さんがしたいようにやらせてあげてください。その理由を二つほどお伝えします。
■息子さんの判断が正解 委縮させる指導者の下にはいない方が良い
まず1つめ。
息子さんの姿がとても具体的に描かれ、お母さんの本音も素直に伺える文章でした。素直で一所懸命な方なのだと推察します。
そんなお母さんに3つほどアドバイスさせてください。
■8歳の子に対し、大人の部下を相手にしているかのような発言が目立つ
お母さんはご自分のもつ「子ども観」を一度学び直さなくてはいけないようです。ご勤務先では管理職をされているのでしょうか。目の前にいるわずか8歳の息子さんを、ご自分の部下のように考えておられる印象を持ちました。なぜならば、まるで大人を相手にしているような発言が目立つからです。
「上手くなりたいなどと言って欲しくもない」
「より上手くなろうと向上心を持てないなら、プロになるなどと気軽に言って欲しくもない」
息子が上手くなりたい、プロになりたいと言うので期待していたのに。息子から裏切られた――そんな感情ではありませんか。それは例えば、期待を寄せていた会社の部下が残業せずに仕事を放り出して帰ってしまい、そのことを怒っている上司と似ています。
大人は自分の発言や行動に責任を持たなくてはなりませんね。しかしながら大人でもそれができない人はたくさんいます。私も締め切りを守りますと宣言しながら、時々破っています。編集者には申し訳なく思っています。大人でさえ、有言実行は難しいのです。だからこそ「有言実行」というキラキラまぶしい言葉があるわけです。
■相手は8歳の子ども 大人用の物差しでジャッジしないこと
先日、ある場所で遅刻の話になりました。するとある人が「私は生まれてこの方遅刻をしたことがない」と若干誇らしげに言いました。時間を守ることを親から厳しく言われて育ったそうです。それは素晴らしい教育ですねと伝えましたが、常に親に急かされて動く様子が目に浮かび少しだけ気の毒になりました。
私は遅刻したことはありますが、ここぞという場面では用意周到に準備をします(原稿の締め切りは編集者が待ってくれるという甘えがあります)。大人ですから、主体的になればしっかりと動くものです。
そう考えると、小学2年生の息子さんは大人ではありません。まだ成長過程にいます。もっと「相手は子どもだ」という前提で考えましょう。お母さんという立派な大人の物差しには合わないかもしれないけれど、物差し自体が大人用なのです。
■練習に関しての意見は正論だが、子どもにはそれぞれの成長スピードがある
「リフティングは練習あるのみだと私は考えており、短い時間でも日々練習を『継続して』行うことが、一番の方法だと思っています」という意見は正論でしょう。
が、子育てと一番相性が悪いのが「正論」です。子どもそれぞれに性格があり、成長の早い遅いもあります。早熟な子どもなら、お母さんが見ているときにわざとリフティングの練習をして喜ばせるのでしょうが、息子さんは8歳なりの成長をしているようです。
■子どもに難題を強いて上手くできない姿にイライラしているようなもの 8歳ならムラがあって当然
つまり、子どもに大人の靴を履いて早く歩けと急かしても歩けない。それなのに、お母さんは息子さんがうまく歩けない姿を見てイライラしているようです。大人用の物差しを手に、息子さんをジャッジしてしまうからではないでしょうか。
なぜなら、ご相談文には「チームやスクールではそれなりな評価はもらえているものの、息子より上手い子は普通にいます」とか「気分屋な性格のようで、やったりやらなかったりなので、結局上達していません」などと、わが子をお母さんの主観でジャッジする表現が多く見受けられます。
まずは、この物差しを捨てましょう。ありのままを受け止めること。
「まだ8歳だからね。気分にはムラがあって当然だよね」と子どもの姿を受け止めましょう。
■「本人の価値観だから」と言いつつ「それなら上手くなりたいと言って欲しくない」など相反する発言はやめよう
2つめは、「ダブルバインド」(二重拘束)をやめること。
ダブルバインドとは、二つの相反する価値観を同時に子どもに発信してしまう状態を指します。
皆さん、子どもには自由な環境でのびのび育てたいと言います。よって「自分の好きなことを好きなようにやってごらん」と伝えますが、子どもが水泳教室をやめると言い出すと急に「中学、高校とスポーツを続けていく上で大事な土台になるからやめないで」と説得したりします。
そうなると子どもは「え? お母さん、どっちなの?」と迷います。戸惑うだけでなく、一貫性のない意見を言う親に対し、子どものなかに不信感が生まれます。親は子育ての軸を変えてはいけません。
お母さんのご相談文を振り返りましょう。
「極力私は口出しはしたくないのですが、一週間程何も言わないと結局何もせず、YouTubeばかり見ていて、最近イライラしてしまいます」
「本人の価値観なのでそれでもいいと思っているのですが、それなら上手くなりたいなどと言って欲しくもない」
口出ししたくない。本人の価値観でいい。でも......と相反する価値観は、大人同士であれば「頭ではわかってるんだけどねえ」と慰め合えます。しかし、子どもは、大人の言葉を額面通り受け取る素直な生き物です。
スポーツの指導現場で暴言を浴びせて子どもを自死に追い込んだ事件をいくつも取材しましたが、大人たちはそこを理解していなかったと考えられます。
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