考える力
2025年7月11日
サッカーノートを書けない子の「理由」と、継続して書けるようになる対策とは? サッカーノートで上手くなる方法
質問形式で進められ、低学年からでも始めやすいと評判のサカイクサッカーノート。
スポーツメンタルコーチであり、ノートの開発者である藤代圭一さんとサカイクキャンプのヘッドコーチを務める菊池健太コーチが、サカイクサッカーノートの工夫の秘密や書くことがサッカー上達につながる理由について対談。
後編のテーマは、書けない子への対応策や家でも書き続けるコツ、さらには未来を見据え、子どもと向き合うことの大切さについて考えます。
(構成・文:木村芽久美)
【前編】ノートに書いて思考を繰り返すことが、プレーの再現性につながる! 考える力を育てるサッカーノートの「使い方」
■書けない子には理由がある。書くことが遅い子には時間を作り、喋ることが得意な子には「会話してから書く」が効果的
菊池:書くのが苦手な子に対して、僕はいつも悩ましく思っていて。一緒にいて書く時間を作ってあげるんですけど、それが本人にとって憂鬱な時間・苦しい時間になっては良くないといつも思っていて。
藤代:なるほど。書けない理由ってどうしてだと思いますか。
菊池:書くのが苦手な子って正解を探し続けちゃったり、結構真面目な子が多かったりすると思うんです。ちゃんと書かなきゃいけないって。
大胆な子って、やっぱりダイナミックにバーっと書いて、パッと持ってきたりするんですけど(笑)、それってグラウンドで見ていても比例するなってすごく思っていて。
考えすぎちゃうとか、正解を探そうとしすぎちゃう傾向があるのかなって。
藤代:書けない理由はいくつかあって、まず一つ目は、菊池コーチが言ってくださったように「ちゃんと書かなきゃ」「正解があるはずだから、それに近づかなくちゃ」という思考から来ている場合ですね。
上手に書かなきゃいけないという思い込みがあると、チャレンジできなくなるんです。
菊池:そういう傾向にある子はいますね。
藤代:二つ目は、書くのに時間がかかるタイプの子。頭の中で考えてから、それを言葉に変換するのに時間がかかるんですよね。こういう子は、まだ慣れていないだけなので、たっぷり時間を作ってあげることが大切です。
「他の子より遅いこと=ダメなこと」ではなく、「じっくり考える力がある」って、ポジティブに捉えられるように。劣等感にならないような環境づくりが必要です。
菊池:「自分は遅れていてダメだ」と感じてしまわないような工夫は大事ですね。
藤代:三つ目は、書くのが苦手で、でも喋るのは得意な子。こういう子にはまず、ノートの質問を読み上げて、それについて自由に話してもらうんです。「それいいね!じゃあ今言ったこと、書いてみようか」と声をかけることで、自然と書くことに移行できます。
菊池:「今日うまくいったところは何かな」(※15ページの質問)みたいな感じで気軽に話したり、グループで話しながらやってみたりしてもいいかもしれないですね。
■言語化することでプレーの再現性を高められる。ネガティブな車内反省会が、ノートを使ったコミュニケーションで、建設的な会話に変わる
藤代:なぜ言葉にする必要があるのか? それは、いいプレーを再現する力がつくからです。
「同じミスを繰り返さない」「良かったプレーをさらに良くする」。 そのためには、自分の中で"何が起きていたか"を言葉にしておくことが有効なんです。
送迎中の親子の会話でも、こうした問いかけがあるとコミュニケーションはさらに深まると思います。ただ、つい「できなかったこと」を探してしまって、車内が反省会のようになってしまうこともありますよね(笑)。
僕もおなじで、つい反省会になっちゃうこと、あります(笑)。
期待や愛情が強いと、それが裏返って「どうしてできなかったの?」と怒りに変わってしまうことがあるんですよね。
だからこそ、まずノートで一度アウトプットしてもらって、それをもとに会話をする方が、子どもの言葉を尊重した建設的な対話につながります。
菊池:それは、もうずっとつきまとうというか、長年の課題ですよね(笑)。
藤代:より良くなって欲しいっていう気持ちや期待って、特に愛情があればあるほど、その裏返しで怒りに変わってしまうことがあるんです。そうすると建設的な質問ができなくなってしまう。ノートでまずは1回言語化してもらって、それについてコミュニケーションする方がいいかな、と。
菊池:僕も子育てしている中で、つい反省会になるような場面があるのでわかります(笑)。
ぜひ保護者には、このサッカーノートを通じたコミュニケーション方法を使っていただけるといいですよね。
■キャンプ中はノートが書けても、家に帰ると書かなくなってしまう...。 習慣化への第一歩は、1分からでも続けること。
菊池:保護者に1番聞かれることなんですけど、キャンプ中は書いていても、家に帰ると書かないっていう......。どうやったら続けられますか?
藤代:何かを習慣化するには、だいたい60日くらいかかると言われています。 だから最初から完璧を求めず、「1日1分」からでもOK。
菊池:なるほど。ベストは5分、難しい場合は、まずは1分からだったら頑張れそうですよね。
藤代:まずはノートを開く習慣を、親子で一緒に作ってほしいと思います。 お父さんお母さんも隣に座って、可能なら1日5分、それぞれが静かに自分のペースで書く時間を持つ。その時間を「正解を求める時間」にしないで、「続けること」に価値をおく。
子どもに「やりなさい」と丸投げするのではなく、まずは大人も一緒に関わることが大事です。 ゲームや遊びよりノートの優先度が下がるのは当然なので、環境の後押しが必要です。
また、「自分はどんなサッカー選手になりたいか」が明確になっている子ほど、ノートに取り組む意義を感じられます。
サッカー観戦に行ったり、感情を動かすような"体験"がその動機になることもあります。
■子どもに向き合う時間を作ってあげることは、親から子へのギフト。ノートを通して、子どもが「自分らしく」花を咲かせる未来を信じ、支えることが大切
菊池:自分も親なので、これは親の立場から見てですけど、子どもと一緒にいれる時間って実はすごく短いので、1日5分は一緒にノートを書いたりとか、保護者も一緒に成長を見守る、一緒に成長する位のスタンスでやれたら、すごくいいかなと思います。
藤代:1日5分でも子どもと向き合う時間を作るって、僕は"ギフト"だと思っています。
今、僕にも1歳の娘がいて、恥ずかしながら、たった5分でもゆっくり時間を取るのは大変で。でも「書かせる」「やらせる」ではなくて、一緒に座る、一緒に話す。ちょっと肩の力を抜いて、寄り添う時間をつくること。
これが実は、お父さんお母さんができる子どもにとっての一番のサポートなんじゃないかと思うんです。
菊池:そうですね。ギフトって素敵な言葉ですね。
サッカーやノートを通じて、子どもたちとコミュニケーションが取れたり、一緒の方向性を見て、同じ夢を見られるっていうのは、親にとってもそうですけど、指導者にとってもすごく大事なことだし、幸せなことです。
藤代: これからの時代は、AIが台頭してきた中で、「考えて、実行する力」がますます求められるようになりますよね。
サッカーという大好きな活動を通じて、その力を身につけられるって、すごく意味のあることだと思うんです。
それを「こうしろ、ああしろ」と大人が決めるのではなく、「あなたはどうしたいの?」と問いかける環境をつくる。それこそが、僕たち大人の役割なんじゃないかと思っています。
菊池:ノートにも「探究」って言葉が出てきますが、僕も考えるその先に「探究心」があると思っていて。漢字も「求」と「究」の2つがあって、子どもたちがまず「探求」する、それを「探究」していくことで考えることが楽しくなって、理解を深めていくっていうサイクルを、今後キャンプも含めて展開できたらいいなって思っているんです。
藤代:「探究」って、僕は"根っこを縦にも横にも伸ばしていく"行為だと思っています。
土の中に子どもたちの「種」があって、その根がしっかり張っていけば、やがて花は自然と咲く。
でも僕たち大人は、いますぐ花を見たがるんです。「足が速いね」「ボール扱いがうまいね」って。ですがその前に、"今、根を伸ばしてる"っていう認識が必要で。ノートは、その"根っこ"を育てるための大切なツールなんです。
すぐに花が咲かなくても、必ずその子らしい花が咲く。 だからこそ、焦らずに、優しく光を当て続けていくことが、子どもたちの未来を育てることだと思っています。
菊池:そうですね。そんな関わり方ができたら、本当にいいですね。子どもたちを取り巻く環境を考えても、今後ますます、自分で考える力を育てることが大切だと、改めて僕も思いました。本日は貴重なお話をありがとうございました。
藤代圭一(ふじしろ けいいち)
一般社団法人スポーツリレーションシップ協会代表理事。教えるのではなく問いかけることでやる気を引き出し、考える力を育む『しつもんメンタルトレーニング』を考案。全国優勝チームや日本代表選手など様々なジャンルのメンタルコーチをつとめる。2016年より全国各地に協会認定インストラクターを養成。その数は350名を超える。選手に「やらせる」のではなく「やりたくなる」動機付けを得意とする。新刊に「私を幸せにする食事」(東洋館出版)がある。
菊池健太(きくちけんた)
<資格>
日本サッカー協会 C級
JFA公認キッズリーダー
キッズコーディネーショントレーナー
佐倉市立井野中学校サッカー部外部指導員
<経歴>
VERDY花巻ユース 日本クラブユース選手権出場(全国大会)
中央学院大学 千葉県選手権 優勝
千葉県1部リーグ 優勝