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「1から10まで教えてしまったら選手が伸びない」高校サッカー強豪、矢板中央・高橋監督の指導哲学

公開:2020年4月21日

キーワード:サッカー部チャレンジトレーニング助け合い精神小沼貞雄矢板中央高校社会で生きる力高校サッカー選手権大会高橋健二

サッカーは一人ではできないからこそ助け合いを大事にしている矢板中央高校。前編では高橋健二監督がどうしてそのような指導哲学に至ったのかをお伺いしました。

多くの選手がいずれ社会人になるからこそ、サッカーを通じて社会で生きる力を身につけさせたいという監督の育成についてさらに深くお話を聞きました。

(取材・文・写真:松尾祐希)

<<前編:サッカーは一人ではできないから助け合いが大事。選手権常連の矢板中央高校が大事にする「サッカーを通じて社会で生きる力」

 

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大まかなコンセプトは指導者が伝えますが、選手たちが自分たちで考えて動けるようになることが大事

 

 

■あえて教えすぎないことで自ら成長する余地を残す

大切なのは指導をする中で型にはめ込まない点だと高橋監督は言います。

「矢板中央のサッカーはこういうスタイルだ、ということは最低限伝えますが、後は自分たちでミーティングをするのが大事だと思っています。1から10まで教えてしまうと、選手が伸びないんです

しかし、中にはそういった監督の意図を知らずに「矢板中央はアバウトなサッカーしか教えていない」と言われることもあるそうです。

ですが高橋監督は、高校卒業後もサッカーをやりたいと言う気持ちを残してあげないと意味がないと言います。

サッカー漬けにして1から10までガチガチに指導者が教えこんでしまったら、サッカーを嫌いになってしまいかねないからです。それは決して指導者が楽をするとかではなく、教えすぎないことがサッカーを好きでいられ続けるポイントだと考えている、と持論を明かしてくれました。

その上で自分が必要だと判断しながら、自ら練習をする余力を残してあげたいとのことで、大学などそれぞれの進学した環境でさらに肉付けできるように成長する余地を残すことを心掛けているのだそうです。

普段の指導では「ヘディングが得意」、「俺は絶対にキックだけは負けない」、「コーチングや声には自信がある」など自分の得意なプレーはどんどんやろう、と促しており、一人ひとりの個性が出せた上で、矢板中央のコンセプトの中で自分の特長が出せれば良い選手になれる。それは社会も一緒だと話す監督。

遠方から矢板中央に入部した選手たちが生活する寮でも、がっちり1から10まで厳しく指導しているわけではないと言います。

点呼や門限は決めているそうですが、サッカーと同じく生活面でも、がんじがらめにしてしまうと子ども達が伸びないからという理由で、ストレスを溜めないようにしつつ、けじめをつけさせることを意識しているそうです。

学校では生徒指導部長をやっている高橋監督ですが、着任してからいくつかのルールを変えたそうです。

例えば、携帯電話の持ち込みを禁止にしている学校も少なくないですが、仮に持ち込みができても電源を切らないといけないなどの規則がある学校もあります。ですが、矢板中央高校では話し合って、携帯電話の持ち込みOKで、尚かつ電源を付けていてもいいというルールを作ったのだそう。

ただし「授業の時はケジメをつけよう」と、使用していい状況をきちんと意識させているそうです。また、着任してから校門で身だしなみのチェックをする事を止めたことも教えてくれました。

ある程度自主性に任せたいというのがその理由で、違反している生徒がいれば厳しく指導しますが、基本的には「君たちの自主性に任せたいから最低限のルールは守ろう」と生徒たちに伝えているそうです。

生徒たちが考えて行動して、自分たちで良い環境を作って行くのが大切であり、がんじがらめにするのは伸びないと語る監督。

「でも、緩すぎてもダメ。指導者として、どこまで許せるかは全体で見極めたいですね」と、締めるところと緩めるところのバランスが大事だと言います。

そうした点を踏まえながら、いろんな仕事や得意分野で良さを出していくことを身につけてもらいたい。それはサッカーとリンクしているし、社会で役立つ力になる、と育成哲学を語ってくれました。

 

■サッカー以外の経験を通じて社会で生きることを実感してほしい

矢板中央のサッカー部では、地域の方々との触れ合いも大事にしているそうで、最近は特に関わりが増えてきたそうです。

「よく頑張っているね」と言ってもらえたり、「子どもたちが見ず知らずの私に挨拶をしてくれる」、「自転車に乗っていても挨拶してくれるから元気になれるよ」という市民の声が多くなったことが本当に嬉しいと顔をほころばせる高橋監督。

サッカー部はボランティア活動も積極的に行っており、地域の花火大会の片付けなどにも参加してい流のだそうです。そのような活動を通じて地元の方々といろんなコミュニティができているのかもしれません、と監督は語ります。

今後もサッカーと関係ない地元の人々に、サッカーを通じて勇気付け、新しいコミュニティを作れれば最高だと言います。県外から入学してきた選手たちにとっても、部活や学校のクラスメイトだけでなく、地元の方々との交流を通じて「矢板のお母さん」、「矢板のおじいちゃん」などと呼べるぐらいの関係を築くことができれば、卒業しても矢板に遊びに来る一つのきっかけになります。そのようなことも県外から来る寮生に対して矢板中央でサッカー以外の体験をして成長できる一つの魅力になるのではないか、と将来に期待を寄せていました。

 

■家庭内でもルールを守ることを癖付けた方が選手として成長する

サカイクの読者層である小学生の保護者に向けたアドバイスを請うと、「中学生までにルールを守る事を癖付けた方がいいと思います」という回答をいただきました。

日常の中で、自分たちで考える癖を付けさせることが大事だからだそうです。

「朝起きたら『おはよう』と挨拶するとか、目覚ましを自分でセットして起きるなど。サッカーでもそうですが、家庭でも習慣を身に付けるのは必要です。絶対にプロになれたのはずなのにプロに行けずに終わった選手もいる中で、成功している子のほとんどは親がしっかりしています」と長年選手とその親と接してきたことで確信していることを教えてくれました。

例えば子どもが「サッカー部を辞めたい」と言い出した時に、環境のせいや人のせいにして文句を言っていた場合に、親がどう接するかが重要になるのです。

伸びる子の親はまず話を聞いてあげるのだそう。子どもの言い分を聞いてあげ、それをプラスに変えて、背中を押してあげられる。そうすれば絶対に伸びると断言する監督。

子どもの心が強ければ、「何を言っているんだ、頑張れ」と激励することができますが、心が折れていたら背中を押してあげるサポートが必要です。子どもの想いを聞きながら背中を押して、サポートしてあげる考え方を保護者が備えていることが大事で、一番良くないのは子どもと一緒になって周囲を批判する行為だそうです。我が子の言い分を全部鵜呑みにして一緒にダメ出しをする親御さんの子が大成した例はほとんどないと語ります。

「悩んでいる子どもやストレスを溜めている場合にガス抜きは必要ですが、壁を乗り越えるためには、子どもの気持ちには共感しつつ『こうしたらどうだ』と、後押しできる家庭は成功しています。Jリーガーになっている生徒の家庭はほとんどそうでした」

 

■子どもだけではなく、親ともコミュニケーションを取る動きが大切

指導者は子どもだけでなく関わります。サッカーだけではありませんが、どの親御さんにとっても家では我が子はチームのエースのような存在でしょう。ですが、学校や部活では、他の生徒と一緒、一人の生徒、一人の部員として平等な存在です。

そんな中で子どもたちを伸ばすためには、学校生活だけではなく、親御さんとどう接するかも大事なのです。どのご家庭もどうしても「自分の子どもが一番」と考えるもので、強豪校ともなるとわが子の起用について要望を出してきたり、本当に千差万別でいろんな保護者がいます。

高橋監督は、時には面と向かってぶつかり、大人同士で本気で言い合いをする時もあるぐらいだと教えてくれました。ただし、言いたいことをぶつけ合うのではなく、チームとしての目標地点を話すのだそうです。そうすることでほとんどの親御さんは話せばわかっていただけるのだそうです。なぜならば、監督も保護者も目標は一緒で、子どもをなんとか成長させたいからなのです。

一時的に考え方がぶつかっても、目標は一緒。選手たちが矢板中央で3年間一生懸命やってくれた取り組みを大切にしたいということをご納得いただいたら握手をして和解するのだと教えてくれました。

本気でやるから、ぶつかることもある。選手を伸ばし、チームとしての目標達成のためには、子どもだけではなく、親ともコミュニケーションを取る動きが大切だと言います。

 

■挑戦し続ける姿を見せることで、チャレンジは怖くないと思ってほしい

やることがいっぱいあります、と笑う高橋監督。教員も監督も選手寮の運営にも携わって忙しい毎日を送っていますが、監督自身が様々なチャレンジをする姿勢、うまくいかなかったことも成功体験も含めて選手たちに見せて、挑戦することは怖くないこと、何かに挑戦する姿勢を促したいと語ります。

「現状に胡座をかいて楽をすることもできますが、現役の指導者は学ぶ姿勢を持たないといけないと私は考えています。経験から学ぶことは、マニュアルだけでは身につかないもので、指導者は体験を通じてさじ加減を覚えていくしかないのです」

矢板中央では、進学後も何らかの形でサッカーに関わるOBが多いそうで、彼らが矢板に帰ってきて指導ができるような受け皿も考えていること、今後もサッカーの技術だけでなく、矢板中央に来て良かったと思ってもらえるような環境を作っていきたいなど、目に力を漲らせてこれからの展望も明かしてくれました。

人は一人では生きていけないからこそ、矢板中央高校のように学生のうちから部活や学校生活を通じての地域社会を体験することは重要なのではないでしょうか。

<<前編:サッカーは一人ではできないから助け合いが大事。選手権常連の矢板中央高校が大事にする「サッカーを通じて社会で生きる力」

 

 

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髙橋健二(たかはし・けんじ)
サッカー指導者 1968年生まれ、栃木県出身。現役時代は矢板東高と仙台大でプレー。卒業後、教員となり、1994年に矢板中央高の監督に就任。2004年度に高校サッカー選手権へ出場し、09年度に初の4強進出を達成。以降も安定した成績を残し、17年度に8年ぶり選手権でベスト4に勝ち進んだ。18年度はベスト8で敗退したものの、19年度は3度目のベスト4入り。多くの選手をJリーガーに育てており、富山貴光(大宮)、星キョーワン(横浜FC)などをJクラブに送り出した。座右の銘は第16代アメリカ合衆国大統領のエイブラハム・リンカーンが残した「意志あるところに道は開ける」。

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取材・文・写真:松尾祐希

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