考える力

2018年7月10日

子ども扱いしすぎると責任感が育たない!? ドイツで10年間を過ごしたコーチに聞く日本とドイツの保護者の大きな違い

ドイツ・ブンデスリーガの1860ミュンヘンのアカデミーで指導をし、帰国後は湘南ベルマーレのジュニアユースなどを経て、現在は長野県で『ドイツサッカースクール』を主宰する西村岳生さん。日本とドイツの育成現場を知る西村さんは、両国の保護者の違いをどのように感じているのでしょうか?

ドイツで7シーズン育成指導をした経験を持つ西村さんに、日本とドイツの保護者の違いを尋ねると、少し考えて「ドイツの保護者は、自分の人生を楽しむことを大切にしている印象を受けました」と教えてくれました。
(取材・文:鈴木智之)

(写真はサカイクキャンプ)

■親の夢、願望を子どもに押し付けていないか

「私がホームステイをしていた家庭には、2人のお子さんがいました。後にグランドホッケーのドイツ代表として、五輪で金メダルを獲る選手になるのですが、その家庭では毎週木曜日の夜になると、お母さんが家を出ていきます。食事を作ったり、家のことをするのはお父さんの役目でした」

ドイツには「Frauenabend(フラウエンアーベント)」という、直訳すると「女性たちの夜」という習慣があり、西村さんが住んでいた地域では木曜日に母親が外出し、友達と会って食事をしたり、集まってお酒を飲んだりするそうです。

「毎週木曜日はホームステイ先のお父さんが作ったご飯を、その家の子どもたちと一緒に食べていました。反対に『男性たちの夜』もあり、お父さんはその日になれば、自分の時間を楽しんでいます。親として、子どもの成長を見守るのは楽しいですし、大切なことではあるのですが、同時に親自身が自分の趣味や生活を楽しんでいました。そこは、日本との違いなのかもしれません。日本の場合、大人が自分の趣味の時間を確保するという考えは、それほど一般的ではありませんよね」

ドイツから帰国後、Jリーグクラブも含めて、幼児から高校生まで、現在は長野県を拠点に指導を行ってきている西村さん。試合会場で子どものサッカーに熱くなりすぎる保護者を目にするたびに、親としての在り方を考えるそうです。

「日本の場合、親が子どもに過度に期待をしたり、『プロになってほしい』という親の夢を押し付けているように見えることがあります。意識が子どもに集中してしまっていると言いますか...。試合会場でレフェリーや相手選手、ひどいときにはチームメイトに対して誹謗中傷する親もいますが、なぜそうなるかと言うと、自分の子どもしか見えていないからだと思います」

サッカーはチームスポーツであり、対戦相手がいて成り立つもの。チームメイトや相手チーム、レフェリーがいないとサッカーの試合は成立しません。

「保護者も自分の人生を生きると言いますか、好きなことや趣味に熱中する時間を持てば、お子さんと良い距離感で接することができると思うんですよね。子どもはサッカーの試合に行って、自分は映画を見たり、スポーツをしたり、趣味を楽しむ。子どものことを把握しながら、付かず離れずの距離を保って、必要なときに手助けをする。そのスタンスで良いのではないでしょうか」

■決断する余地を残すことが子どもの責任感を生む

保護者と子どもの距離が近すぎると、些細なことが気になってしまい、事あるごとに口出しをしたくなるもの。親心として、それは仕方のない事なのかもしれません。でも、そこでグッと我慢することが大切なようです。

「ある程度の距離感が必要で、土が乾いてきたら水をやればいいわけです。前もって水をやりすぎると枯れてしまいます。理想的なのは『子どものことを把握している放任主義』です。子ども自身が考えて、決断する余地を残すこと。子どもに決断させれば、そこに責任が生まれます。それがポイントなんですよね」

西村さんのサッカースクールでは、たとえば子どもが転んでひざから血を流していたとしても、子どもに「続けるか、休むか」を決めさせるそうです。

「幼稚園や小学校低学年の子でも、なるべく物事を自分で決めさせるようにしています。ケガをして痛かったら休めばいいし、応急処置をしてできそうだったら続ける。そこでコーチが『休んでおきなさい』や『それぐらいならやれるだろう』などは言いません。『できそうだったらコーチに言ってね』と、自分で決めさせます」

西村さんはドイツでの指導を振り返り、「ドイツの子どもたちは自己主張をしっかりします」と印象を語ります。それは「社会全体が、子どもの頃から自分で考えて発言をしたり、行動をすることを促すような環境があるから」だと言います。

「日本も、子どもを子ども扱いせず、自分で考えて決断する習慣を積み重ねていけば、自己主張ができるようになると思います。自分で決断をすることで、子どもながらに責任を感じますよね。それは、コーチや親に『こうしなさい』と言われて、そのとおりに行動するだけでは、感じることのできないものです」

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