サッカーに励む子どもが同時にフットサルもするようになるとサッカーが下手になる――。
一部のジュニア年代のコーチは、そのような認識を持っているようです。
曰く、フットサルによってプレーが小さくなる――。
曰く、フットサルをプレーすると足裏でしかプレーしなくなる――。
このような見方は、正しいのでしょうか。フットサルによってサッカーが下手になることはあるのでしょうか。
今回は、元フットサル日本代表で、現在は子どもたちにフットサルの指導もしている小宮山友祐選手(Fリーグのバルドラール浦安に所属)にお話をうかがってきました。(取材・文/杜乃伍真)
■サッカー少年がフットサルをする利点とは
「『フットサルをプレーするとサッカーのプレーが小さくなってしまう』。確かにぼく自身もそのような声を聞くことがあります。しかし、それは何を基準にしてプレーが小さい、と言えるものなのでしょうか。全日本少年サッカー大会は11人制から8人制に移行しピッチが狭くなりました。もっと大きな視点からいえば、日本代表はザッケローニからアギーレに変わり、サッカーのスタイルが変わりました。サッカーはつねに変わっていくし、サッカーの正解はひとつではありません。であるならば、選手たちはその変化に対応していかなければいけないのですから、それに必要な技術や判断力、視野の確保、空間認知能力などを子どものころから引き上げていく必要があります。ぼく自身、江戸川区でフットサルのアカデミーの指導をさせてもらっていますが、フットサルにはそれらの能力を引き上げる要素が詰め込まれています。
サッカーでは、どんなに速くて強いプレッシャーをかけられても、いつもどおりにプレーできる選手が重宝されます。その意味では、フットサルはサッカーよりも狭いエリアで、つねに激しいプレッシャーを受けた状態でプレーをするわけですから、サッカーをプレーする育成年代の子どもたちにとって非常に有効な競技といえます。子どものときにさまざまなグリッドや競技人数やルール設定でプレーすることは子どもの成長につながるでしょう。大事なことは、周囲の大人が子どもの成長を長い目で見て、U12年代の指導では一体なにが大事なのかということを、しっかり念頭に置いて指導できているかどうかだと思います。大人たちの偏見によって、子どもからフットサルが奪われてしまうことほど、不幸なことはありません」
子どもがフットサルをプレーすると、ボールを足の裏で足下に止めるようになってしまう――。
これも一部の現場で囁かれる声のようです。しかし、小宮山選手も言及していますが、“フットサルは足の裏でボールを止めることが一番”だというような指導をしているわけではありません。相手にボールを奪われずに次にプレーしやすい場所が足元であることが比較的多く、足元に止めるための有効な手段として足の裏でのコントロールが用いられるのです。
「重要なのは、次のプレーをしやすい位置にコントロールする、という状況判断が伴ったうえで、足の裏を使ってボールをファーストコントロールすることです。そのときにアウトサイドでも、インサイドでも、足の裏でも、足のどこを使おうとも、子どもが次のプレーをしっかり考えて足の裏を使うことを選んだのかどうか、それを見極めてあげればいいのです。足の裏を使ってプレーすること自体は、プレーする技術や幅が広いということですから悪いことではありません。子どもが、足の裏を使うときに、つねに足下にボールを置くようであれば、コーチや周囲の大人が正しい方法論を教えてあげればいいのです」
フットサルによってサッカーでも活かせるスキルや戦術を身につけられる。これは世界の常識です。フットサルのプロリーグが盛んなブラジルやスペイン、ポルトガルといったフットサル強豪国では、子どものころは、フットサルとサッカーをどちらもこなしながら、自分自身の適正を見極めて、高校生になるころにどちらを優先するかを決めるといいます。それほど日常にフットサルが浸透しているのです。仮にあなたの子どもが通うフットサル教室が「フットサルでは必ず足の裏でボールを止めよう」と、子どもの判断を尊重せずプレーの幅を限定してしまっているとすれば、それはそのコーチの指導が有害なのであり、フットサルという競技自体が子どもの成長を阻害するということには当てはまらないのではないでしょうか。
取材・文/杜乃伍真