考える力

2014年12月 8日

賢いサッカー選手はピッチで何を観て、何を予測しているのか?

スペイン・バルセロナを拠点に、日本サッカー協会のプロジェクトコンサルティングディレクターを務めるなど日本でも活動するサッカーサービス社が監修する『知のサッカー』。その内容を「もっと深く知りたい!」という声に応え、セミナーが開催されました。講師はサッカーサービス社の分析担当、ポール・デウロンデルコーチ。UEFA・A級ライセンスを持つ分析と指導のスペシャリストです。
 
ポールコーチのセミナーに集まったのは、指導者だけでなくサッカーをするお子さんをお持ちの保護者の方など、総勢50人以上。セミナールームは参加者の熱気が充満していました。まず、ポールコーチはサッカーサービスの指導コンセプトを説明します。

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取材・文 鈴木智之

■意図をもってプレーするために周りを観る

「サッカーサービスの指導コンセプトは『賢い選手を育てる』ことです。我々が掲げる理想像はピッチの中で、いま何が起きていて、どのようにプレーをすれば良いかを考え、正しい認知(状況把握)とプレーの決断、実行ができる選手です」
 
自ら進んで考え、ピッチの中で自立した賢い選手。これこそがサッカーサービスが考える理想像です。保護者の方々も、『自分の子どもには、自立して欲しい』と思っているのではないでしょうか。では、そのような選手になるために、必要なことはなんでしょうか? ポールコーチが説明します。
 
「まずは意図をもってプレーすること。常に何も考えず、直感だけでプレーすると、なかなかうまくはいきません。意図をもってプレーするために必要なのが、周りを観ること。つまり、認知です。我々が提唱する“エコノメソッド”は認知力や判断力など、頭の中を鍛えるトレーニングです。ボールを使った練習をしながら、技術やフィジカルだけでなく、インテリジェンスも同時に鍛えていきます」
 
ポールコーチによると、エコノメソッドは次の4つのポイントが含まれた指導法だと言います。
 
1:習得テーマを伴ったトレーニング
2:気付き(問いかけ)
3:コンセプト
4:認知
 
そして、選手の年齢に合わせて、段階的にトレーニングを組み立てていきます。
 
「U13の年代はトレーニング初期に当たります。ここでは身体の動かし方、周りを観ること(認知)、そしてテクニックと関連した個人戦術の基礎を作ります。将来、サッカー選手になるための基礎作りとなる、重要な段階と言えるでしょう」
 
 

■周りを観る力を高める4つのポイント

今回のセミナーのテーマは『認知力を高める』です。指導者の方は選手に「周りを見ろ!」といったコーチングをしていると思いますが、子どもたちは「なにを、どう観ればいいのか?」を教えてもらわなければ、周りを観て効果的なプレーにつなげることができません。ポールコーチは、認知のポイントを4つ挙げます。
 
(1)スペースの変化を認知しておく
(2)情報を集めるために首を振る
(3)味方に有利なスペースを認知しておく
(4)近くにいる相手選手の状況を認知しておく
 
サッカーの試合中、ボールの動きに合わせて選手の動きが変わり、スペースができたり、消えたりします。この「スペースができる、消える」というのがスペースの変化です。選手が密集している場所にスペースはありませんが、誰もいない場所はぽっかりと空いています。ポールコーチは、スペースの認知に対して、重要なことは次の部分だと言います。
 
「すでに大きくなっているスペースよりも、今後、大きくなるスペースを優先すること。いま、どこにスペースがあるかではなく、1秒後、2秒後、3秒後、どこにスペースができそうかを選手の動きやボールの動きから予測すること。これがとても大切なことです。世界のトップレベルでプレーする賢い選手の多くが、この視点を持っています」
 

■相手にとって危険なスペースを予測せよ!

ポールコーチは具体的に、スペースの認知について説明します。
 
「まずはフィニッシュゾーン内のスペースを優先すること。相手にとって危険なスペースは、ペナルティエリアの中です。ここのスペースに侵入することができれば、ゴールを決める可能性が高くなります。そして、より効果的なのはピッチのサイドではなく内側にあるスペースです。もし、チームのコンセプトとして、サイドのスペースのみを使おうとすると、相手は前方を塞げばいいので、守備はしやすくなります。一方で、ピッチの内側(中央)のスペースを使うことができれば、守備側は的を絞ることが難しく、生まれたスペースを見逃さずに突けば、シュートまで持ち込むことができるでしょう」
 
 
ポールコーチはそう言うと、知のサッカー第2巻に収録されている、浦和レッズ対柏レイソル戦のプレーを再生しました。柏レイソルのMF大谷秀和選手は中盤のスペースに入ってボールを受けると、前方にいるレアンドロ・ドミンゲス選手にスルーパスを通しました。大谷選手が最初にボールを受けた時、レアンドロ・ドミンゲス選手の前にはスペースがありませんでした。しかし、大谷選手がボールを受けて前方を見た瞬間、レアンドロ・ドミンゲス選手が相手ゴール前へとダッシュで進入しました。
 
二人のイメージがシンクロした結果、ディフェンスラインの裏にできたスペースを使うことに成功したのです。残念ながら大谷選手のパスの精度が低く、GKにキャッチされてしまいましたが、ボールを受けた時点では生まれていなかったスペースを予測し、使うプレーとしてはすばらしいものでした。
 
これはひとつの例ですが、保護者のみなさんも、子どものプレーを見るときに、ただドリブルをした、パスをしたというプレーの現象ではなく、「何を観て、どう判断をしてパスをしたのか」「どのような判断のもとにドリブルをしたのか」といった、頭の中について、考えてみてはいかがでしょうか。
 
そして、試合の後に「あの場面は、何が観えていた?」「なぜ、あそこにパスを出したの?」とプレーの選択について、質問をしてみるのも良いかもしれません。その繰り返しが「考えてプレーする選手」になるために重要なプロセスです。それは試合に勝った、負けたという結果よりも、成長に大切な気付きになるでしょう。次回の更新では、『認知に必要な、ピッチ内の情報を収集する方法』について、ポールコーチが解説します。

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