■選手は自立することで状況に応じた正しい判断ができるようになる
「いざというときに持っている力を出せないのが、日本の15、16歳の選手の特徴。いい時はいいけど、いい部分が出なくなると、ぱったりとトーンダウンしてしまうのが現状。それは課題であり、まだまだ本物ではないという証拠」と吉武監督が語るように、その指針や戦術をこなすことに頭がいっぱいになり、ある程度のレベルまではこなせるが、状況が悪化したり変化した時に対応できなくなってしまう。
準々決勝の韓国戦の前日、吉武監督はこう話していた。
「明日は何が起ころか分からないし、すごくタフなゲームになるのは間違いない。予測不能なことが必ず起きるので、そこをいかに適応するのか。適応力というのを、この1年半ずっと選手と共にやってきたので、不測の事態にいかに対応できるかを見てみたい。どういう表現をするのかを見たい」。
しかし、結果的にはFCバルセロナの下部組織に所属する韓国のエース、イ・サンウの個人技に崩されてしまった。「(イ・サンウは)想像以上に速かった」とある選手が語ったように、彼の個人能力の高さが予測以上だった。そこに対応できずに敗れてしまった。特に2点目のシーンは、ハーフウェイラインの手前から約60mをたったひとりにドリブル突破された。このとき、日本は3人のDFが対応していた。にもかかわらず、誰ひとり彼に触れられないまま、GKも交わされて決められた。ひとりがサイドを切り、ひとりが縦を切り、もうひとりがカバーリングすれば、十分に対応できていた場面だ。こうした判断も、持っている技術を生かす能力であり、応用力である。
「もちろん戦術はあるが、大事なのは自らアクションを起こすこと。次に何を自分がやりたいのか。試合の中で自分が主導権を持ち、プレーの責任を自分が取るという、そういった姿勢をピッチの中で表現してもらいたい」(吉武監督)。
98ジャパンの冒険はアジアで終わった。結果が出なかったことを批判するより、なぜ結果が出なかったのか。何が問題で、何が必要かを考えていかないと、建設的ではない。今回、コーチユナイテッドとサカイクで書いたコラムすべてに共通するのが、98ジャパンが示してくれた課題をみんなで考えていこうという問題提起であり『相対的な視点に基づいた判断』の重要性だ。この相対的な視点に基づいた判断を養うためには、選手が『自立』することが不可欠である。指導者、親、子どもたち、そして我々メディアがしっかりと考えて、今後のサッカーの発展に繋げていかなければならない。
取材・文・写真 安藤隆人