テクニック

2021年4月 2日

「どれだけ練習したか」ではなく「試合でどれだけ使ったか」サッカー少年を育む4つの栄養素

「フォルカー・フィンケがこんなことを言っていたよ。『選手の立場に立って練習を考えてみろ』と。自分がやりたいと思うトレーニングこそが、子どもたちにとっても楽しいトレーニングのはずだ。子どもがサッカーの練習に来るのはなぜだ? それはサッカーがしたいからだ。それならばできるかぎり多くサッカーをさせることだよ。そこでコーチが複雑にいろいろなことを考えてやろうとするから、子どもたちのサッカーを壊してしまうんだ」
 
ブンデスリーガの名門1.FCケルンで育成部長を務め、ケルン体育大学やドイツサッカー協会で指導者養成をしてきたクラウス・パブスト。彼に練習メニューを考えるときはどういった点に注意した方がいいかと尋ねると、即座にそう指摘しました。子どもたちをうまくしてあげたいという気持ちは素晴らしいものです。その熱意から「サッカーを楽しむのはいいとしても、ただ楽しんでいるだけではうまくはなれない。何事も基本が大切なのだから、まずはみっちり基礎技術を叩き込むべき」という意見もよく聞かれます。しかし、子どもたちの技術力をつけるうえで大切なのは「どの技術をどれだけ練習したのか」ではなく、「ゲームの中でどんな技術をどれだけの頻度で使ったのか」なのです。(取材・文 中野吉之伴)
※この記事は2015年10月配信記事の再掲載です。
 
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■上達する練習には楽しさと喜びが不可欠

クラウスも「練習の間ずっと4対4や5対5を続けて、子どもたちがすごく楽しそうに集中して取り組んでいたら、それはありきたりのドリルトレーニングを延々と繰り返すよりも1000倍、子どもたちを成長させる」と強調します。集中するのに何よりの秘訣は楽しさと喜び。やっていて楽しいから、ずっとがんばれる。時間がたつのを忘れるほど夢中にさせることができたら、それは素晴らしい練習と言えるでしょう。
 
もちろん、「技術トレーニングをする必要がない」というわけではありません。技術は選手としての大切なベース。ボールを止める、運ぶ、蹴るという技術は常に取り組む必要があります。それにミニゲームだけをやっているとだらけてしまうこともあるでしょう。練習に様々なバリエーションがあったほうが、選手もリフレッシュすることができます。その際に気を付けなければならないのは技術練習をサッカーと切り離しすぎないこと。インサイドキックならインサイドキックだけと単純化すればするほど、練習は退屈になってしまいます。
 
クラウスは「ボールコントロール、キック、ドリブル、パスといったベーシックテクニックをシュートや1対1と組み合わせることで、子どもたちが退屈することなく、モチベーションを持って取り組むことができる」と話します。集中する秘訣が楽しさならば、退屈は子どものモチベーションを奪う一番の悪因です。待ち時間の長いトレーニングをアレンジしておいて、「集中しろ!」「我慢が足らない!」というのはあまりにも理不尽。選手それぞれが頻繁にボールに触れるように考慮されなければなりません。それに子どもたちは競争が好きですから、そうした特性を利用することも大切でしょう。リレーやポイントを競うゲーム要素を加えることで、自然と子どもたちのモチベーションを高めることができます。特にシュートは最も熱中するもの。準備の段階で子どもたちのレベルに応じて難易度を調整できるようにしておくことも必要です。
 

■サッカー少年を育む4つの栄養素

まとめると「それぞれのボールタッチ頻度を多くするようにオーガナイズする」、「競争要素を入れる」、「難易度を調整する」、「シュートと結びつける」の4点が退屈させないためのポイントとして挙げられます。
 
 さて、基本技術と言っても、選手それぞれ得手不得手があります。得意なプレーはやればできるのだから楽しい。苦手なプレーはやってもできないからやりたがらない。あなたのチームでもそうした傾向は見られるのではないでしょうか?クラウスは苦手なことにも取り組む大切さを認めたうえで、子どもに対してはうまくトリックを使うことが大事だと説きます。
 
「苦手意識のある子にただ”やれ!”といってもダメ。自然とやりたくなる環境を作り出さないと。例えば利き足じゃない方のキックを鍛えようとするなら、ミニゲームの時に利き足でゴールしたら1点、逆足でゴールしたら3点というルールを加える。あるいはマーカーにボールを当てるチーム対抗戦で、利き足で当てたら1点、逆足なら3点というルールにする。子供は基本負けず嫌いだし、向上心があるんだから、挑戦するようになる。苦手なことに取り組むのは大人でも大変なんだ。わかりやすいルールを加えることで、モチベーションアップにつなげる」
 
こどものチャレンジしたいと思う気持ちをくすぐる。苦手だけどチャレンジしたら少しずつできるようになった。できるようになったら、なんでできたほうがよかったのかがわかった。そうやって少しずつ成長へと導くことが大事なのです。
 
Photo by PROUSAG - Humphreys
 

■がんばった量だけで成長率は決まらない!

がんばるというのは大切なことです。できないことを怒鳴りつけて子どものやる気をなくさせるというのは論外。でも、頑張ることだけが目的になるというのもどうでしょうか。「これだけがんばったんだ」という量だけで評価したら、子どもたちは本当に成長できるのでしょうか。量をこなすことで戦える世界とは暗記の世界と一緒です。ものを覚えるためのコツや力は身についても、それをどのように使えばいいのかがわからなければ、実社会に出た時に応用することができません。どれだけがんばったかを主張してもそれだけでは勝負できないのです。みんなが頑張っているんですから。世界のグローバル化は今後ますます進みます。日本を出て世界に進出する人も増えることでしょう。ドイツにきて16年目の僕も日々実感していますが、そのあたりの感覚は格段にシビアです。そこで問われるのは頑張った量ではなく、どのように頑張ってきたかのプロセス。頑張ることはあくまでもスタート地点なのです。
 
子どもが「がんばったよ!」ということに、「がんばるだけじゃダメなんだ!」と返すべき、ということではありません。子どものがんばりにはしっかり応えてあげるのが、大人として大切な姿勢。前述のクラウスのトリックのように子どもが知らずにがんばり方を学べる環境を作ることが大切なのです。
 
例えば、サッカーで言うと決まりきったリフティングを毎日100回やるだけより、座った状態からとか、強めのパスを出してもらってからといった様々な状況からのリフティングを10回正確にできるようになる方が将来的に生きる技術となるはずです。どのように頑張ればいいのか。それをどのように伝え、そのためにどのようなサポートが最適なのかを、我々コーチは常に真剣に考え、子どもたちの支えとならなければならないのではないでしょうか。
 
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