こころ

2014年2月13日

子育ての参考にもなる!? ボトムアップ指導の綾羽高校から学ぶ

 昨年11月、これまで野洲高校など公立高校しか全国大会に出場していなかった滋賀県で、初めて私立の綾羽高校が全国高校サッカー選手権大会の出場を決めました。滋賀県草津市にある綾羽高校はガンバ大阪のジュニア、ジュニアユースで指導を行っていた岸本幸二監督が2000年に就任して以来、メキメキと頭角を表して選手権予選の決勝にこれまで3度出場してきましたが、いずれも野洲高校に敗戦。4度目の挑戦をするために取り入れたのが、練習方法・戦術・出場メンバーや選手交代に至るまで、選手主導で行うボトムアップ指導でした。 

 
 導入によって、念願の選手権出場を掴んだだけでなく、「選手たちが大人になった」と岸本監督が口にしたように、心の成長も促進するのがボトムアップ指導の特徴。今回、お聞きした岸本監督の話には子育てにも参考になる大事な考えが溢れていました。
 

■ボトムアップ指導を始めるために大事な3つの軸

 岸本監督がボトムアップ指導を始める際に、まず「挨拶、返事、整理整頓」という3つの軸を選手たちに提示しました。ただ選手たちの自主性に任せるのではなく、これらの軸に沿った考えを促し、選手として、人として正しく成長させていくのが狙いです。3つの軸にはそれぞれ選手として成長するための意図が隠されています。
 
【挨拶】
 挨拶はコミュニケーションツールの中で、一番簡単な手段。「ここにボールが欲しい」「何番にマークにつけ」など、サッカーには絶えず相手に自分の思いや考えを示す必要があります。そうしたコミュニケーション能力を身につけるための第一段階として、挨拶は重要です。
 
 知らない人でもサッカーの試合会場などで顔を合わす人は、保護者や大会関係者といったほとんどの人が何らかの形で選手たちと関わりのある人ばかり。そうした人たちがいるから、試合会場や対戦相手を用意してもらえるという感謝の気持ちを込めて挨拶をします。 
 
「強制するのではなく、自発的に挨拶が出来るようになると、人前で話す事が恥ずかしくなくなり普通に話せる」 と岸本監督は挨拶による、選手として、人としての成長を説明します。
 
 
【返事】
 相手の問いかけに返事をする場合には、“イエスとノー”という判断が伴います。分からない事には分からない、出来ない事には出来ないと返事をするためには、自分の意見を発する事、つまり“考える力”が必要になります。
 
 曖昧な返事ではなく、自分の意思を伴った返事が出来るようになる事は判断力が高まっている証であり、試合中に良いプレーなのか、悪いプレーだったのか把握出来るようになると岸本監督は話します。 
 
 返事がしっかり出来るようになった結果、成果として表れるのが、選手主体で行うハーフタイムのミーティング。始めた当初は「誰かが話しているし、話さなくてもいいや」という考えから、間違った意見が出ても流される事も多かったようでしたが、自然と自分の意見を口にする事が出来、有意義な議論が出来るようになったそうです。
 
 
【整理整頓】
 整理整頓が上手くいくコツは“細かい部分まで拘れるか”が重要です。サッカーでも、単に相手にパスを出すのではなく、相手の右足に出すか、左足に出すか、数センチの違いに拘りを持って、プレー出来るかが大きな違いとなります。
 
 綾羽が取り組んだのが、“見てもやっても気持ちいい整理整頓”。靴を並べるのでも、どういう並べ方がいいのかを選手たちに自由にやらせながら、「もっと綺麗になるんじゃない?」と岸本監督が問いかけながら、ただ整えて並べるだけなく、“一列なのか二列なのか”など、 場所や状況に応じた並べ方を考えるように促しました。
 
 どう並べれば綺麗に見えるか?という部分は、どうすれば良いプレーができるのかなどの発想力にも繋がる要素でもあります。
 
「わずかな違いに気づき、細部に拘れるかがサッカーでは得点や失点に繋がる。成功や失敗はほんの些細な事の積み重ねで変わってくる。整理整頓をしたから結果がついてくるのではなく、そこに“拘り”を持っているかが大事」
 
 岸本監督のそうした意図が選手たちに伝わった結果、選手権初出場に繋がったのかもしれません。
 
 

■ボトムアップ指導を上手く進めるための心構え

 選手主体という言葉を聞くと『ほったらかし』にしているかのように思われる方もいるかもしれませんが、選手や子どもを常に“見ている”ことが重要です。綾羽がボトムアップ導入当初は、選手たちが楽な練習メニューばかりを選んでしまったように、選手たちは良くない方向へ進んでしまいがち。
 
 1から10まで教えないボトムアップ指導では、そうした時にどう正しい方向へ導くか指導者のきっかけ作りが大事です。どのタイミングでどう声をかけ、子どもたちを正しい方向へ導くのかは、選手たちを見ていないと出来ない指導の一つです。
 
 そして、子どもが100人いれば100通りの子どもがいるように、導き方も100通りあります。その子に合った問いかけやきっかけを与えるためにも、常日頃から子どもを見て、どういう性格の子なのかを知る必要があります。
 
 もう一つ大事なのが、成長を見守る“長い目”です。選手主体で全てを行う事は、試行錯誤の連続でもあります。指導者が思った通りにならない事もあります。上手くいかない時に「こうすべき」と答えを押し付けていても、「言ってしまえば、またいつか同じことを言わなければならない」(岸本監督)可能性があります。
 
 岸本監督が「学校の授業と同じで、聞いてノートを取っていれば、勉強したつもりで終わって、 身につかない。ただ、自分たちが何度も失敗しながら考えて、身についたモノは忘れない」と 話すように、思うように進まなくても、子どもたちの成長に大切な事と思える心を持ち、気づくまで待ってあげる姿勢が指導者や親には必要なのではないでしょうか。
 
 
高校選手権初出場の綾羽高校から学ぶボトムアップ理論>>
 
 
綾羽高校
全日制・昼間定時制・通信制の3課程をもち、学業とともにインターンシップや実習、部活動などを重視する実学に力を入れる。サッカー部は1997年に創部。に指導者としてドイツ・国立ケルン体育大学に留学、帰国後はガンバ大阪のジュニア・ジュニアユースの指導を行っていた岸本幸二監督が2000年に就任。着々とチーム力をつけ、昨年は初めて全国高校サッカー選手権に出場。新チームで挑んだ県新人戦でも初優勝を果たした。
 
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