楽しまなければ勝てない～世界と闘う“こころ”のつくりかた

少年サッカーの天才が消えた本当の理由とは

公開：2019年3月14日　更新：2019年3月27日

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■できなくてもそれを楽しめる、そんな環境が子どもを伸ばす

次に「では今日は、自分を磨きたい人のために、磨くために必要なことを教えます」と話します。

磨くためには挑戦しなければいけない。
これは、日本のスポーツ界でもさんざん「挑戦」という言葉で言われていますが、「挑戦」を少し詳しく説明すると、難しい課題や今現在できないことに向かっていくことが挑戦です。

「だから、いっぱい失敗するぞ。いっぱい負けるぞ。でも、自分の大好きなことを自分のためにやっているから、あきらめる理由はないんだ。一流の人たちは、自分の大好きなことを自分のためにやっているから、あきらめる理由が見つからないんだよ」

そして、あまり好きではないことを親に言われて嫌々やっているなら「それは無理かもしれないね」と話します。

前述したように、人間は生まれたときは何もできないけれど、大きな脳といろいろなことができる可能性を持った身体を持っています。

コンラート・ローレンツという動物行動学者の本に書いてありますが、一定の距離を歩き、ある程度泳ぐことができ、水中に潜って物を拾い、ロープをよじ登れる。こんないくつもの運動を同時にできる哺乳類は人間しかいないのだそうです。

でも、それは学習しなければできるようにならない。学習すれば、全部できるようになる可能性を持っているということです。

このことは最初にお話しした、赤ちゃんの持つ溢れんばかりの好奇心と何事に対しても真っすぐに挑戦するこころと繋がっているのです。自分を大切にして、ベストを尽くしてやり抜いて、自分の可能性を磨ききって一流になった人たちは、このこころをずっと持ち続けているのです。

何かができなくてちょっと壁にぶつかったとしても、彼らはこころのどこかでワクワクしています。

「おおっ、これは相当難しいな。でも、面白くなってきたな！」

戦国時代の話になりますが、山中鹿之助という武将は自分磨きをしたいがために"我に七難八苦を与えたまえ"と神に祈ったと言います。

いろいろなことができない状態で生まれてきて、いろいろなことがどんどんできるようになってくる。できたときは当然うれしい。

でも、できなくても全力を尽くして取り組んでいるからこそその「できない」を楽しめる。そんな環境が、子どもを一番伸ばす場所なのです。

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高橋正紀（たかはし・まさのり）

1963年、神奈川県出身。筑波大学体育専門学群ではサッカー部。同大学大学院でスポーツ哲学を専攻。ドイツ国立ケルンスポーツ大学大学院留学中に考察を開始した「スポーツマンのこころ」の有効性をスポーツ精神医学領域の研究で実証し、医学博士号を取得。岐阜経済大学経営学部教授及び副学長を務めながら、講演等を継続。聴講者はのべ５万人に及ぶ。同大サッカー部総監督でもあり、Ｊリーガーを輩出している。
Ｊリーグマッチコミッショナー、岐阜県サッカー協会インストラクター、NPO法人バルシューレジャパン理事等を務める。主な資格は、日本サッカー協会公認A級コーチ、レクリエーションインストラクター、障害者スポーツ指導員中級など。