中村憲剛の「KENGOアカデミー」

2020年12月16日

中村憲剛の「相手に予測されない蹴り方」と「状況に応じたキックの使い分け方」

「KENGOアカデミー」では、中村憲剛選手がサカイクを読む保護者のみなさんと、子ども達に向けて、これまでのサッカー人生で培ってきたサッカーがうまくなるヒントをお伝えしてきました。
 
そして今回からはQ&A形式で質問に対して中村憲剛選手本人がお答えしていきます!
 
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【質問】
中村憲剛選手はシュートやパスなど、キックを振り切るときどこから動かす意識をしていますか?
 
 
【憲剛選手の回答】
サッカー少年・少女から「どうすればケンゴ選手みたいなキックが蹴れますか?」という質問を受ける機会は本当に多いです。やっぱり中村憲剛=キックというイメージがあるんだろうし、キックにこだわってきた人間としては、こういう質問をされることはうれしい。
 
だけど、実を言うと聞かれるたびに「う~ん」と答えに詰まってしまっています。
 
自分の技術を教えたくないというわけではありません(笑)。できることなら、軸足をここに踏み込んで、足をこれだけ振り上げて、こうやってボールに当てて……と詳しく教えてあげたい。でも、そうやって教えたとしても、その選手にとって果たして良いアドバイスになっているのというと、疑問だからです。
 
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■キックがうまくなるコツは、自分に合った蹴り方を「見つける」こと

DVD(サッカーがうまくなる45のアイデア)の中でも繰り返し言っていますが、キックの蹴り方は本当に人それぞれ違います。人間というのは、足の長さも違えば、パワーも違えば、足の付き方だって違う。全く同じ蹴り方をできるわけがないんです。
ちなみに、僕の場合は普通にしていても、足が英語の「O」という文字のように開いてしまう「O脚」と呼ばれる形をしています。ガニ股とも言われますが(笑)。
 
O脚の人の足の特徴として、膝が最初から外側を向いているので、インサイドが蹴りやすいという利点があります。僕が試合中のキックのほとんどをインサイドで蹴るのは、それが一番自然に蹴りやすいからです。O脚な分、他の人よりもインサイドの面を作って、ボールにミートするまでの動作が、ちょっとだけ速くなる。
 
逆に、僕の場合はアウトサイドをほとんど使いません。アウトサイドで蹴るときは、膝を中に向けて、足の外側を押し出すようにしてインパクトします。でもO脚の僕の場合、膝が外側を向いているので、その動作がちょっとやりづらいし、他の人よりも余計に時間がかかってしまう。
 
だから、アウトサイドで蹴るのは相手が寄せて来ていなくて余裕があるときや、アウトサイドで蹴った方がパスを受ける味方にとって良いパスになると思ったときぐらいです。
アドバイスする指導者や保護者の方も、そこは十分に気をつけて下さい。例えば、好きな選手のキックフォームを見て、真似をする。これ自体は悪いことだとは思いません。だけど、同じように蹴ったからといって、同じようなボールが飛んでいくかというと、そうではない。むしろ、体格に合わない蹴り方をしていると怪我にもつながります。
 
キックがうまくなるには、自分に合った蹴り方を「見つける」ことが重要です。どうすれば見つかるのか? シンプルですが、2人で向き合って対面パスをやってみましょう。そのとき、ピシッと勢いのあるボールを蹴れることがあります。それこそが、自分に合った蹴り方です。でも、普通はまた同じように蹴ろうとしてもうまくいかないはずです。
 
大事なのは、うまく蹴れたときの感覚を覚えておいて、何度も何度も繰り返すこと。最初は10本中2本しか思い通りのボールが蹴れなかったのが、3本、4本、5本……とだんだん増えていく。そうやって、10本中10本になるようにしていきましょう。僕自身もまだまだ完璧ではありません。10本中10本を目指して毎日練習しています。
 
 
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■相手に予測されない蹴り方とは?

キックについて、僕が心掛けているのは、相手に読まれないように、できるだけコンパクトな振りで蹴ること。ボールを蹴るときは、勢いをつけるために足を後ろに振り上げる「テイクバック」と呼ばれる動作が入ります。
 
同じ場所から、同じようなキックでパスを出しても、相手にカットされてしまう選手と、ちゃんと味方につながる選手がいます。その大きな要因はテイクバックの違いにあると思います。
 
テイクバックというのは、いわば「これからキックをする」というメッセージを相手に伝えているようなもの。その時間が長ければ、守る側の選手は準備もできます。だから、テイクバックの時間が長いパスは出してもカットされる確率が高くなってしまう。
 
僕は10メートル以内の味方にパスを出すときは、ほとんどテイクバックをとらないように心掛けています。テイクバックの幅としては、50センチぐらいでしょうか。そうすることで、守る側の選手に準備する時間を与えず、気がついたときにはパスを出されていたという状況を作るよう努力しています。
 
小さいテイクバックで、ピシッとしたボールを蹴るには、正確にボールを当てる技術が必要です。それができないと、ボールに十分にパワーが伝わらず、スピードも出ません。テイクバックを小さくしようとして、弱いパスにならないように気をつけましょう。
 
ただし、シュートのときテイクバックは大きめになっています。なぜかというと、僕の場合、シュートはペナルティエリアの外から打つことが多いからです。なのでしっかりとテイクバックをとってインステップにボールを当てて飛ばすことを心掛けています。
 
 
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■足の振り抜き方もキックによって使い分けよう!

もう一つのポイントは蹴った後の足です。キックをするときは、蹴った足を「振り抜く」というイメージを持っている人が多いですが、振り抜いたほうがいいときと、振り抜かないほうがいいときがあります。
 
20メートル先の選手に、相手の頭の上を越えるロングボールを蹴るときは、振り抜くべきです。でも、5メートル先の選手に、グラウンダーでつなぎたいときに、大きく振り抜く必要はありません。むしろ、大きく振り抜くとボールに余計な回転がかかったり、パスのスピードが強くなり過ぎたりして、ミスにつながります。
 
僕は、グラウンダーのパスを出すときは、蹴った足を「振り抜く」のではなく、その場に「止める」イメージで蹴っています。そうすることで、ボールにかかる回転が少なくなって、味方の足下にピタッと収まるようになります。
 
このような蹴り方も人から教わったものではなく、自分で蹴っている中で発見したものです。自分で見つけて、考えて、深めていく——。それこそがサッカーが「うまくなる」ということだと、僕は思います。
 
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