[いつでも、だれでも、ずっとサッカーを楽しむために]JFAグラスルーツ推進

2021年12月 6日

「人生を豊かにするための手段としてサッカーがある」グラウンドをイチから手作りした女子サッカーチームの展望

「JFAグラスルーツ宣言」に賛同するチームを認定し、つながりを作ることで、グラスルーツの環境改善を目指すJFAグラスルーツ推進・賛同パートナー制度。引退なし、補欠ゼロ、障がい者サッカー、女子サッカー、施設の確保、社会課題への取り組み、という6つのテーマに、それぞれ賛同するチームが認可を受けています。

今回グラスルーツ推進グループの松田薫二さんがお話を聞いたのは、埼玉県桶川市にある桶川クイーンズ少女サッカークラブ代表の築根英樹(つくねひでき)さん。後編では練習場の確保や、今後の活動についてお送りします。

(取材・文:中村僚)

取材当日親子サッカーに参加していた6年生の選手たちと

 

<<前編:「私はサッカーをしに来ている!」とある女子チームの指導者を我に返らせた子どもたちの声

 

<グラスルーツ推進6つのテーマ>

 

■グラウンドをイチから手作り

松田:グラウンドを築根さんが畑を整備して、手作りで整えたと聞きました。

築根:実は以前にもひとつグラウンドを作っていて、女子チームのために作ったのがふたつめです。土を慣らして固めて、まわりに杭を打ち込んでネットを張って、トイレもメーカーと契約して設置して、ゴールも持ち込んでラインも引いて......と、すべてイチから作りました。いずれは天然芝のグラウンドにしたいですが(笑)。

元々は畑だったので、ここは水道が引けないんですね。そうすると飲み水が確保できないので、ダイドーさんと話をして自動販売機を置いてもらいました。自販機を置いてもとても売上が期待できない立地なのですが、クラブの理念を話したら共感してくれて、電線を引く工事もすべて請け負ってくれました。ありがたい限りです。

もちろん、グラウンドを作る前に、近隣の方にはあいさつに伺ってグラウンドを作ることを報告しました。後出しで報告してもいい気はしませんから。幸いみなさん共感してくれて、中には「うちから水道を引いてもいいよ」と言ってくれる人もいました。

このグラウンドは、平日は近所の方に開放しています。お年寄りの方がグラウンドゴルフをやっているみたいですね。私は平日は会社員として働いていますが、出勤前にグラウンドを見るとみなさん楽しんでいます。

 

■実力より練習参加率、入団間もない子も全員試合に出す


取材当日に開催されていた親子サッカー。保護者もプレーを楽しんだり審判を務めたりしていた

松田:クラブ作りにそこまで尽力されたとなると、築根さんとしても続けていく覚悟がいりますね。

築根:本当にそう思います。今のところ、事務手続き、練習試合の手配、チームの指導まで、ほとんど僕1人で運営しています。他の保護者が「やりますよ」と言ってくれることもあるのですが、それを始めてしまうと当番制があると思って敬遠してしまう保護者もいるので、僕ができるうちは自分でやろうと思っています。

ただ一方で、自分の子どもの卒団とともにチームへの関わりが終わる人も当然のことだと思いますし、その方々を責める気はありません。

入団希望のお子さんや保護者がいたとき、まずは「うちは勝ち難い(にくい)チームです」と説明します。純粋な実力よりも練習への参加率を重視しますし、試合に来たらなるべく全員を出場させるからです。まだ入団して間もない子でも、接戦の公式戦に出場させたりしますから。

松田:入団前にチームの方針を説明するのは大事ですね。

築根:そうですね。それに、チームを卒業した後もサッカーにこだわる必要はないと思っています。うちの娘は高校生で、サッカーはもうやっていませんが、何か機会があればチームのイベントに顔を出してくれます。また、卒業した後にテニスで結果を残した子もいます。

このチームの目標は勝つことじゃないんです。楽しむことなんです。楽しんだ結果、勝つこともあるでしょう。そしてもちろん負けることもあります。負けたからといって悪いことは何もありません。私も試合中はそんなに大きな声は出しません。選手が楽しむことが第一です。

 

■「私たちにダメ出しする親に、大変さを知ってほしい」という子どもたちの声で開催

松田:保護者と子どもがプレーする「親子サッカー」はなぜ始めたのですか?

築根:親子サッカーは毎年開催しています。始めたきっかけは、保護者同士の交流がないからです。うちは当番制がないので、試合も練習も現地集合現地解散なのですが、保護者が他の保護者と交流がないと、自分が行けない時に送迎ができないんです。そこで保護者どうしが顔見知りになって連絡を取り合うことができるようになれば、自分が行けない時に他の方にお願いできるだろうなと。

ちなみにある子は「うちのお母さん、試合に来ると『ちゃんと走ってない』って言うけど、実際に走るとどれだけ大変なのか知ってほしい!」と言うんですね。確かにそれも一理あるなと(笑)。

 

■人生を豊かにするための手段としてサッカーがある

松田:この先の活動はどのように考えていますか? 小中学生のカテゴリーがあるようですが、そこからユースなどに広げる予定はあるのでしょうか。

築根:基本的に今の構成のまま活動を続けていくつもりです。高校は、女子サッカー部がある高校へ進学してもらうのが一番いいと思っています。このチームを始めたきっかけも、女子サッカー部がある中学校がないことでしたから。広げるとしたら、小学生以下のキッズと、大人の一般女子ですね。これは最終的に目指したいところです。

ちなみにうちのチームは、学校で他の部活に入っていいし、塾にも通っていい、むしろ他の競技や習い事は積極的にやったほうがいいと言っています。プライベートで遊びに行くならそれもOK。それによってうちの練習に参加できる子が数人になったとしても、子どものためになるならその方がいいし、たとえ数人でもその数人のためにグラウンドを開けてサッカーができる環境を整えることが、僕がやるべきことだと思います。

学生の本分は勉強ですよね。この年代にサッカーばかりに打ち込んで勉強が疎かになってしまうと、いざサッカーを辞めたときになにもできなくなってしまいます。サッカーで生活ができる人なんてほんの一握りで、それが女子ともなればさらにごくわずか。うちのチームの選手たちにはそうなってほしくないんです。

サッカーは人生の一部として重要な役割を持つと思いますが、サッカーが全てになってはいけません。人生を豊かにするための手段としてサッカーがあるのであり、仮にそれがサッカーでなくてもいいのです。子どもたちにはそうした思いを伝えていきたいですね。

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