あなたが変われば子どもは伸びる![池上正コーチングゼミ]

2020年11月13日

相手をつかんでまで止める、競り合いで負けると「死ね」と暴言を吐く子、どう指導すればいい?

負けず嫌いで、試合中興奮すると相手をつかんでまで止める、競り合いで負けた時相手に「死ね」など暴言を吐いてしまう子。

負けん気が強いのは良いけど、「負けたくない」という気持ちが強すぎて良くない方向に向かっている。どう指導したらいい? とお悩みのコーチからご相談をいただきました。

これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが、今回も具体的なトレーニングの例を挙げてアドバイスを送ります。参考にしてみてください。
(取材・文 島沢優子)

(チームで連動して動けるようになるには、どんなトレーニングをすればいいのか)

 

<<連携プレーに難あり。DFとGKがイメージを共有して声かけを増やすにはどんな指導をすればいい?

 

<お父さんコーチからの質問>

街クラブでU-10年代を指導している者です。

やり過ぎてしまう子どもへの指導についてご相談です。

身体能力は特に高くないけれど、負けず嫌いの子どもなのですが、試合中興奮して、ボールを奪う、抜かれたくないといったときに、相手をつかんでまで止めようとしてしまいます。

また、わざとではなく競り合いなどで相手に蹴られたときに、相手に「死ね」などの暴言をはいてしまいます。

負けん気が強いのは悪くないのですが、とにかく負けたくない、という気持ちが良くない方向にいってしまっていることがあり、どのように指導していけばいいものなのか悩んでいます。

いいアドバイスがあれば教えてください。

 

 

<池上さんのアドバイス>

ご相談ありがとうございます。

相手をつかんでまで止めようとする。足を蹴られたら暴言を吐く。ご相談者様の教え子のように、サッカーをしているときに「キレてしまった」状態になる子どもは増えている気がします。

 

■生活の中で他人の気持ちを考える場面が少ない現代の子どもたち

すぐキレる子どもの生態を調べている心理学者によると、今の子どもたちは小さいころから勝ち負けが決まる遊びをたくさんしていないからだそうです。つまり、「負けること」にタフではない。これは大人のほうもタフではないことも影響しているかもしれません。

加えて、生活の中で何かを諦めたり、我慢する場面も減っています。例えば、すべていろんなものが個人にいきわたっています。サッカーボール、外国クラブのユニホーム。欲しいものはある程度買ってもらえるような世の中です。

親のほうも、子どもに買ってあげられる状態でなければ、幸せではないと感じています。昭和のある年代までは、他人の境遇をうらやましがると「うちはうち」と親に諭されたり、兄弟みんなで使いなさいと言われたりして育ちました。

京都大学の総長が、個食が広がっていることに警鐘を鳴らしていました。少子化、核家族化が進み、食事の際に大皿に盛ったり、大きなお鍋から取り分けることが減っている、と。

なぜなら、そういう場面に遭遇しないと「これは、食べた? 僕はもう三つ食べたんだけど」とか「最後の一個、もらっていい?」といった気づきを経験しない。そうなると、他者の気持ちを考える感性が生まれづらいようです。

 

■どうしてその行動をとるのか、原因を突き止めること

では、キレる子どもにどう対処するか。

これは、昔のように叱りつけたらいいという話ではありません。本人は、自分がそんなふうにしているということを気づいているかどうかもわかりません。であれば、選手がどう感じ取っているかを、指導者が知る必要があります。この男の子が、どうしてキレてしまうのかをまずは突き止めてください。

彼を呼んで、話をしてください。
「すぐ怒っちゃうよね? 自分でわかってるかな? どう思う?」

もう10歳なので、コーチと一対一でそういう話はできるはずです。

相手をつかむといった行為は反則であること。もし、意識がないのであれば、そうなりそうなときはコーチが止めるようにするね。これまで出されなかったかもしれないけれど、あれはイエローカードだよ。と伝えてください。

そのように話をして、以降は周りが注意してあげてください。2回目のイエローを出されると退場になりますが、退場は頭を冷やす時間です。コートにまた戻ってきてもいいのですから、子どもが変化するのを待ってあげてください。

もうひとつ。できれば親御さんにサッカー以外の生活や、家ではどんな様子かを聞いてみましょう。どんな性格なのか、何かストレスがあるのかなど、子どものことを把握することは大切です。

 

■「悔しいからぶつかってでもとってやる」は負けん気ではない

オーストリアの思想家、シュタイナーは、「忘れることが大切である」と説いています。何かネガティブな出来事があった場合、過去にとらわれていたら次には進めません。忘れてしまって新しいことに向かっていくことが大事なのです。

それなのに、多くのコーチは「この悔しさを忘れるな」と言います。そう言わなくても、そういった感情は子どもの精神のなかに絶対残るものだとシュタイナーは説明しています。

勝ち負けは楽しむけれど、負けたことで自分が完全否定されたという思考回路にさせないようにしてください。負けて悔しい思いを味わっている子には「またチャレンジしよう!」と言ってあげればよいのです。

もうひとつ気になるのは「負けん気の強い子は相手にぶつかっていく」というふうに誤解されていないかということです。相手のボールをとるために執拗に追いかけるのが「負けん気」です。「悔しいからぶつかってでもとってやる」は、いいプレーヤーにならないよと教えなくてはいけません。

競り合いでは体を当てろと言う指導者が多いのですが、そうなるとフィジカル勝負になってしまいます。逃げるな! と言ってはいけません。ボールを取りに行くのは必要だけど、とれると思ったときに行けばいいのです。

 

次ページ:育成の名門アヤックスが行う激しさと冷静さを使い分けるトレーニング

1  2

関連記事

関連記事一覧へ