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楽しまなければ勝てない~世界と闘う“こころ”のつくりかた

勝って喜ぶ学生に言った言葉とは。スポーツが社会を変える力をつくる理由

公開:2019年9月27日 更新:2019年10月17日

キーワード:グッドルーザーコーチングスポーツマンシップノーサイドノーサイドゲームブラック部活ラグビーワールドカップ大阪なおみ理不尽を変える力W杯

ラグビーW杯、盛り上がっていますね。みなさんもご覧になってますでしょうか。実際に観戦に行かれた方もいらっしゃるかもしれませんね。今回も、ラグビーをはじめサッカー以外のスポーツの例も挙げながらお送りします。

サッカークラブや各種スポーツ団体を対象に「スポーツマンのこころ」と銘打つ講義で、一流アスリートになるための心得を伝え続ける岐阜協立大学経営学部教授の高橋正紀先生。ドイツ・ケルン体育大学留学時代から十数年かけ、独自のメソッドを構築してきました。

聴講者はすでに5万人超。その多くが、成長するために必要なメンタルの本質を理解したと実感しています。

高橋先生はまた、「スポーツマンのこころ」の効果を数値化し証明したスポーツ精神医学の論文で医学博士号を取得しています。いわば、医学の世界で証明された、世界と戦える「こころの育成法」なのです。

日本では今、「サッカーを楽しませてと言われるが、それだけで強くなるのか」と不安を覚えたり、「サッカーは教えられるが、精神的な部分を育てるのが難しい」と悩む指導者は少なくありません。

根性論が通用しなくなった時代、子どもたちの「こころの成長ベクトル」をどこへ、どのように伸ばすか。「こころを育てる」たくさんのヒントがここにあります。
(監修/高橋正紀 構成・文/「スポーツマンのこころ推進委員会」)

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スポーツでは相手への敬意と思いやりをもった態度が求められるのです(写真は少年サッカーのイメージです)

 

■「ノーサイドゲーム」が伝える、今この時代だからこそ必要な精神

初めての日本開催となったラグビーW杯が、予想以上の盛り上がりを見せています。開幕前は、日本代表選手が「今一つ盛り上がっていない」とこぼしていたと聞きますが、始まれば会場はどこも満員で、テレビの視聴率は日本戦以外も高い数字をマークしているそうです。

その盛り上げに一役買ったのが、TBS系で放送されたドラマ「ノーサイドゲーム」ではないでしょうか。ラグビーのゲーム映像もとても迫力のあるものでした。

実はドラマの中で、印象的だったセリフがあります。

「ラグビーはこの会社や日本に必要だろうか」

ラグビー部のGMである君嶋(大泉洋さん)へ、天敵だった上役の滝川(上川隆也さん)が尋ねます。

すると、君嶋はこう答えます。
理不尽がまかり通る時代になっています。ノーサイドという精神は日本ラグビーのおとぎ話かも知れない。でも、今、この世界だからこそ必要なんだと私は思います」

理不尽と言えば、ブラック部活が問題になったときのこと。私の仕事を手伝ってくれているライターさんがブラックな部活で苦しむ生徒の親を取材したところ、「社会が理不尽なのだから、理不尽を経験することは悪いことではない」と言われたそうです。

ライターさんは「理不尽に耐えることが美徳になったら、理不尽な社会を変える力を持てないじゃないですか」と反論したそうです。

理不尽を変える力。

これを身につけることは、スポーツの意義のひとつだと思います。それは、子どもや若者が人としての正しさが求められるスポーツマンシップを学べるからです。

 

■大阪なおみ選手が見せたスポーツマンシップ

私がドイツ留学前、まだグッドルーザーの大義など知らなかったころ。私は接戦で勝って喜び合う学生たちに言いました。背後では敗れた相手が地面に膝をついて泣きじゃくっています。

「喜ぶのはロッカールームに行ってからにしよう。相手も君たちと同じぐらい死に物狂いで練習してきたんだ。気持ちを察しよう」

教育とか、スポーツマンシップ云々ではなく、ただ自分の感覚で自然に出た言葉でした。

加えて、テニスの4大大会最終戦・全米オープンの4回戦で敗れ、大会連覇を逃した大坂なおみ選手が、「全米オープン・スポーツマンシップ賞」に選出されました。

3回戦で15歳の米国選手、コリ・ガウフに勝利したさと、号泣したガウフのもとに歩み寄って慰めたうえ、自分と一緒にインタビューを受けるよう促し会場から喝采を浴びました。この振る舞いがスポーツマンシップのお手本に値するとして、受賞が決まりました。

彼女がプレーするテニスや卓球などは、ポイントごとに歓喜の声を出すプレーヤーがいますが、時にそれは対戦相手に背を向けて行われることがあります。どちらの選手も、対戦相手がミスしたときは基本的にガッツポーズをしません。

また、卓球では、台の角に当たって決まる「エッジボール」の際は、エッジボールによってポイントを手にした選手は相手に対して謝るようなしぐさをします。それは暗黙のマナーです。

女子サッカーW杯で日本代表が米国代表を下して優勝したとき、米国のエースであるアビー・ワンバック選手が涙を流して喜ぶ日本選手のもとへ自ら駆け寄り握手を求めていました。

このように、スポーツの世界では、フェアで相手への敬意と思いやりを持った態度が求められます。それこそがスポーツマンシップです。

スポーツマンシップのひとつの定義がこれです。

「楽しかったから、また君たちと試合をしたいと、相手から言われる振る舞いをする」

それを実現するには、審判に抗議したり、相手を過度に威嚇したり、試合後に勝敗に関係なく相手をさげすむような発言や態度をとることはなりません。

ところが、日本のスポーツ現場では、選手にスポーツマンシップとは真逆の教育をしてはいないでしょうか。

少し前に高校球児が試合後の握手をしなかったことが話題になりました。あるスポーツでは、選手は試合終了後に礼をしたらすぐに自分のベンチに戻って片付けていました。普通は、礼をしたら、握手をして相手ベンチにあいさつに行く習慣があります。でも、どの試合もみんな握手もハグもせず、試合終了の余韻にひたることもなくサッサと片付けて退散します。

その徹底ぶりは、どうやらテレビ中継の時間に合わせるため、試合進行を遅れさせられないのではないか、大人の都合なのではないかと憶測したくなるほどでした。日本の部活動は教育の一環と言われますが、その風景だけを見ると一体何が教育なのかと思ってしまいます。

次ページ:「理不尽を変える力」を育てるために指導者が学ぶべきもの

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監修:高橋正紀 構成・文:「スポーツマンのこころ推進委員会」

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