蹴球子育てのツボ ~サッカーで子どもは一人前になる~

2019年6月19日

怒るコーチが怖くてサッカーやめたい問題

サッカーは大好きなんだけど、コーチに怒られるのが嫌で行きたくないと言い出した息子。「気にしなくていい」と言っても怒られたくなくて思うようにプレーができない。

今後サッカー以外の場所でも叱られたり注意されることはあるはず。どうしたらわが子を前向きにさせられる? とお悩みをいただきました。みなさんならどうしますか。

今回も、スポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、ご自身の体験と数々の取材活動で得た知見をもとに、ご相談者さまにアドバイスを授けます。参考になさってください。(文:島沢優子)


(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)

 

<<わが子が出てない試合は負けちゃえ!と言ったりする親とお別れしたい問題

<サッカーママからのご相談>

こんにちは。

10歳の息子はサッカーが大好きで少年団に入っています。もっと上手くなりたいからと、1年程前からとあるサッカースクールにも通い始めました。

スクールには元から知っているお友達は誰もいなかったけれど、楽しかったから入りたいと言って始めましたが、最近、コーチに怒られることが多くなり、行きたくないと言い出しました。

怒られても気にしなくていいと言っても、少年団でもコーチに怒られるのが嫌で自分の思うようにプレーできないのです。

理不尽な指導でなくても、ミスしたことを指摘されたり、ちょっと強めに言われることはどのスポーツでもあると思います。年齢的にも「叱る」と「怒る」がまだ区別がついてなくて、指摘されるのを怖がっている可能性もあります。最近の子は親以外に叱られたり大声で注意される機会も少ないので、他人に怒られることが怖いのかなとも考えたりしますが......。

今後もサッカー以外の場面でも叱られたり注意されることがあると思うのですが、どうしたら、怒られることを気にせず頑張れるのでしょうか。

どうすれば前向きにさせることが出来るか助言をいただけませんでしょうか。

<島沢さんのアドバイス>

まずは、お母さんのマインドセット(心構え)を変えましょう。
いまお母さんは、息子さんのことをとても心配しています。と同時に、怒鳴るコーチが怖くてサッカーに行きたがらないわが子に対し、ちょっぴり情けないなあと感じてはいないでしょうか。

気性や性格は親からの遺伝子というか、生まれ持ったものがありますね。お子さんのせいでも、お母さんのせいでもありません。

そして、知っておいてほしいのは、子どもは年齢を重ねるにつれて姿かたちも、心のありようも変化を遂げます。ずっと同じ状況のままじゃなく、少しずつ変わっていく。それが即ち成長するということですね。

■焦る必要なし。ありのままのわが子を認めてあげて

したがって、焦る必要はありません。
いまのありのままの息子さんを認めてあげてください。決して、怒られることにもっと慣れてもらわなくてはとか、理不尽なことにも耐えられるように、などと考えないでください。そういったこととは無縁な環境で育ってこそ、その良さがわかるし、そうではない怒鳴りや強制、指示命令の強い世界をきちんと否定できる大人になれるのです。

おっしゃる通り「ミスしたことを指摘されたり、ちょっと強めに言われること」はスポーツにありがちです。ただ、怒鳴ったり、皮肉を言ったり、強く言うコーチングは決して正解とは言えません。

「最近の子は親以外に叱られたり大声で注意される機会も少ないので、他人に怒られることが怖い」とも書かれていますが、そのような圧迫指導はすべて正しいでしょうか。過去の指導や子育てを必要以上に称賛したり、容認しないこと。

なぜなら、お母さんがお子さんに求めている「やる気」は、叱られるとわいてこないものだからです。

脳科学的には、ある行動をとろうとするときに、その行動の先に快感(良い気分)が予測されることを「やる気」と言います。

この「行動」と「快感」を結びつける働きをするのが、左右の大脳半球の奥にある「線条体」という神経核です。

私たち主婦も、散らかったリビングを片付けると、ちょっとした達成感に包まれますね。いわゆる「イイ気分」になります。

このイイ気分をつくっているのは、やる気のお話によく出てくるドーパミン。線条体とかかわっているドーパミン神経の束は、報酬系とか、快感系の神経といわれます。なにかをしたことでいいものが得られる。報酬があり、快感があるということです。

スポーツであれば、こうやって練習したら上手くなるに違いないと思えば、やる気が出ますね。過去に「こうやったらできた」という経験がもとになるのも、同じ構造です。

やる気にかかわるドーパミンや線条体は、外的要因に極めてだまされやすい神経系です。根拠がなくても「自分は頑張れる」「いける」と思い込んでしまうだけで、線条体が働いて、やる気が高まります。暗示にかかりやすいわけです。

ところが、この線条体、ネガティブな言葉をかけられると活動しません。縮こまって停滞してしまいます。つまり、大人は怒鳴ったり、強い言葉で言えば、やる気を出したり言ったことが浸透すると考えているのですが、実は逆効果なのです。

仮に、叱られて「自分はもっと頑張れるはずだ」と発奮するならば、プラスの自己イメージが起きるそうです。でも、自己肯定感が低い集団にそれは通用しません。であれば、世界の先進国で最も若者の自己肯定感が低い今の日本にはそぐわないやり方だと言えます。あなたの息子さんに限った話ではないのです。

■怖いコーチのいるチームで前向きにさせる方法

今の大人たちは「怒られたおかげでやる気になった」と考える人も少なくありません。でも、科学的にはまったく違います
だから、私はセミナーなどで「叱られてよかった、は、まぼろし~」と人差し指を振ります。(みなさん、戸惑いつつも笑ってくれます)

では、怖いコーチのいる環境で、お子さんの線条体をうまく刺激して前向きにさせるにはどうするか。

それは、一貫してプロセスをほめることです。お子さんがやったことを認めてください。

試合で点を決めたとか、レギュラーになったとか、結果ではなく、努力の程度取り組んでいること自体をほめましょう。

例えば「よく頑張ってるね」「今日は練習行ってきたの? えらい!」とか「お母さんだったら耐えられない。尊敬するよ」などと、彼の行動をほめるのです。

いまもって、日本の少年スポーツは過渡期です。

コーチが子どもの線条体をうまく刺激しても、親が「もっと厳しくしないと勝てませんよ」と言ってしまう。逆に、このケースのように、コーチが怖すぎて親子が困っているなど片方が本質に目覚めていないため、ミスマッチが起きてしまいます。

大人のミスマッチのおかげで子どもからサッカーを取り上げないよう、ぜひお母さんが工夫してください。

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