考える力

2019年7月 4日

どんなに正論を語っても、相手に聞く耳が無ければ何も伝えてないのと同じ。近年で選手権2度制覇の青森山田高校・黒田監督が実践する選手に届く指示の出し方

高体連屈指の強豪であり、過去3大会で2度の高校サッカー選手権大会優勝を果たした青森山田高校柴崎岳選手、室屋成選手などの日本代表選手を始め、数多くのJリーガーを輩出する名門でもあります。サカイクでは、ゼロからチームを作り上げ、強豪へと育て上げた青森山田高校の黒田剛監督にロングインタビューを行いました。

育成について、子どもの伸ばし方について、試合で勝つことについてなど、興味深いお話を全4回に渡ってお届けします。
(取材・文:鈴木智之)

親に求められる覚悟とは


今年の高校サッカー選手権の優勝旗

――サカイクでは「考える力」「チャレンジする力」「感謝する力」「コミュニケーション力」「リーダーシップ力」という人生で必要な5つのライフスキルは、サッカーを通して身につけることができると提唱しています。ライフスキルについて、どう考えていますか?

たしかに、サッカーそのものに真摯に取り組んでいると問題解決やコミュニケーションといったスキルもある程度は身につくとは思いますが、サッカーをやっている子が全員その能力に優れているかというと、決してそうではありません。生まれた環境や親の育て方、関わり方、そして持って生まれた性格こそが、上達に不可欠な「究極のスキル」だと感じています。その上で、サッカーやチーム活動を通して本人の意識や自覚のもとに身についていくもので、何も考えずにプレーしているだけで身につくスキルではありません。

 

――黒田監督は青森山田中学校の副校長をされていますが、最近の中学生の傾向はどうですか?

うちの中学には、夢や目標を持って入学してくる子が多いと思います。3、4年前からスポーツだけでなく、「勉強意識や習慣を身につけさせよう」ということで、部活動をしている生徒は、中長期の休みに勉強会を実施しています。午前中は部活動に励み、午後は2時間以上の勉強をする。この取り組みを中学時代に3年間積み重ねてきた生徒が高校生になっているので、勉強に対して意欲的な子が増えてきました。中長期の休みを利用し、苦手な教科(単元)を確実に克服しておかなければ新学期に入ると躓きになってしまいます。一人ひとりの学習意欲を低下させることがないよう、良い習慣作りの一貫として取り組んでいます。

 

――小学6年生の段階で、中学校に入るまでに準備しておいたほうがいいことはありますか?

何か習い事をするとか小手先の知識やスキルだけではなく、どの家庭でも小学6年生の段階でしっかり話し合いをして、青森山田中学を受験すると決めているので、家族の中での「確固たる覚悟」が欲しいですよね。絶対に逃げない、親が介入しすぎない、自分の力で責任を持ってやらせるという。親は「突き放す勇気」が必要で、子どもに入り込まない覚悟ができるかどうか。親は誰しも、子どものことが心配なのです。でもそこで安易に手を貸さず、口を出さずにどこまで我慢ができるか。いつでも親が何かをしてくれる状況を作ってしまうと、子どもは必ず親を頼ります。いざ問題解決の局面で、判断を求められる時になるとその場で自分の判断を優先せずに、親に相談して親が決断する。親の口を介して説明しないと、うまく伝えられない。親は子どもの話を鵜呑みにするので、子どもは自分の都合のいいことしか話さないことも多々ある。子どもの話を鵜呑みにした親が、意気揚々と学校を訪れ、実際に自分の息子の粗相や不始末を聞いて、ひたすら頭を下げ、涙を流し、恥ずかしい思いをして帰っていくということもよくある話です。

 

――サカイクは保護者に向けたメディアなので、耳が痛い人も多いと思います。

これはサッカーに限らず、他のスポーツもそうですよね。ほかにも、親が子どものチャレンジの先回りをして、危険やリスクを排除し、子どもに失敗をさせないよう動き回ることがあります。当然、命にかかわる危険やどん底まで行くような失敗は回避させる必要があると思いますが、親がある程度どうなるか見えているのであれば、あえて失敗させてもいいと思います。子ども自身に失敗を気付かせて、その後に導く方法や声のかけ方などフォローのしかたをシミュレーションしておくなどの準備しておけばいい。失敗しないと学びはありませんから。あえて失敗を経験させたいですね。

 

――失敗した時に、どのような声をかければいいのでしょうか?

失敗した時に「頑張ったけど残念だな」というのは、誰でも言えることです。でも、子どもはそういう同情の言葉は望んでないんです。つねに心に刺激を与えることが大切で、そのためには逆の発想でアプローチしてあげることも有効です。試合に負けて子どもががっかりしている時に「負けて良かったなぁ」「これくらいで勝っちゃうと相手に申し訳ないよ」という言葉をかけると、「あれっ」って思いますよね。もっともっと努力をしないと簡単に勝てるものではないということを気づかせなければなりません。サッカーにおいても、前半で5点差をつけて、ハーフタイムに戻ってきたとしますよね。そこで一声目にあえて「全然だめだな」と伝えると、「5点もとったのに、どうしてだろう?」と思うじゃないですか。そうすると、二声目に耳を傾けその理由をしっかり聞こうとしますよね。逆に、前半はあまりうまくいっていないなと、不安そうな顔で戻ってきたときには「結構いいじゃない」「想定内だよ」と安心させる言葉をかける。大事なのは聞く耳を持たせること。どんな正論を言っても、相手に聞く姿勢が無いと伝わりません。だから私は「え!? 監督何を言っているの?」と選手が耳を傾ける、相手の話を聞く姿勢に保つことが指導者のテクニックだと思っています。子どもたちの様子を見て、良いタイミングに適切な言葉(刺激)を与えていく。そのためには選手の心を見る観察力が必要なんです。

 

■どのタイミングで何を言うか。観察してバランスを取る

――選手たちの様子を見て、どのタイミングで、どういう言葉をかければいいかを見ているんですね。

それが一番重要だと思います。青森山田には専属指導者が11人いるのですが、チームの指導をしている時も、トレーニングの空気感やリアリティー、コーチの関わり方を後ろから見ています。コーチが厳しく指導をしている時は、最後に自分が多少緩めればいいし、和やかな雰囲気の時は、最後に自分が締めるという感じでチームをコントロールするように心がけています。コーチは私があえてそのようにしているとは思っていないでしょうけれど、常にバランスをとることはとても重要だと考えています。締め続けるだけでは苦しいですし、張りつめた糸が切れてしまいます。かといって緩みっぱなしでもダメ。そのさじ加減が大切です。


選手の心を観察すること、指導者も常にアップデートすることが必要だと語る黒田剛監督

――家庭での接し方の参考にもなる話です。父親が叱ったときは、母親がフォローをする。その逆もしかりです。監督とコーチのバランスといった、組織づくりがうまくできていることは、近年、多くのタイトルを獲得していることと関係はありますか?

それは間違いなくありますね。コーチ陣のスキルアップと人数の確保によって、試合に対しての準備に余念がなくなりました。選手権で2回優勝した中で、以前と違うのはパソコンを数台持ち込んで、対戦相手の分析が迅速かつ的確にできるようになったことです。相手の特徴、リスタートの場面など、試合映像を取り寄せて、ミーティングの資料を作るのですが、5、6人のスタッフで手分けしてやっています。心強いメディカルチームの協力もあるので、私がチームマネジメントに時間を費やし、選手と多くの時間を共有できるようになったことは有難いことだと感じています。スタッフも含めて、総合力が上がったことが結果につながっていると思います。昔、布(啓一郎/現ザスパクサツ群馬監督)さんが市立船橋で監督をしていた時に、福岡で試合をした後に選手たちがバスで移動する中、自分は新幹線で先に宿舎に移動し、映像を編集して資料を作り、選手たちが宿舎に着くと同時に、その映像を使ってミーティングをするということをしていました。15年以上も前の話ですが、当時、最先端の取り組みをされていて、そのストイックさや熱量は今でも参考になっています。指導者も常にアップデートし、知識や経験を自分の言葉にして現場に落とし込んでいく、それこそが勝ち続ける集団をつくる秘訣だと思います。

 

1年のうち3~4か月は雪でグラウンドが使えないという環境にありながらもこれまで約40人ものJリーガーを輩出してきた青森山田高校。

次回は柴崎岳選手などプロになった選手の保護者に共通することをお送りしますのでお楽しみに。

 

<黒田監督著書 好評発売中>
勝ち続ける組織の作り方 -青森山田高校サッカー部の名将が明かす指導・教育・育成・改革論-

<サカイク初の著書 好評発売中>
自分で考えて決められる賢い子供 究極の育て方

1

関連する連載記事

関連記事一覧へ

関連記事

関連記事一覧へ