考える力

2014年2月 7日

8人制サッカーを通じて子どもの能力を最大限に引き出す取り組み

2011年に全日本少年サッカー大会が8人制に変更されて、今年で4年目を迎えました。なぜ、8人制サッカーなのか? 戦術やシステムは、11人制と何が違うのか? もしかすると「今さら“8人制って何?”とか、聞きづらいなあ…」と思っている親御さんも少なくないのではないでしょうか?
今回は横浜F・マリノスプライマリー(U-12)で監督を務める西谷冬樹さんに、8人制サッカーの取り組みについて、お話を伺ってきました。子どもの成長を引き出すために、大人はどんな工夫ができるのか? 興味深い話がたくさんありました。
 
 

■8人制でも、違う人数でもサッカーのプレーの本質を教えることが大切

――そもそも、“8人制サッカー”は何のためにやっているのですか? 
 
「日本サッカー協会も言っていることですが、子どものプレー回数を確保すること。それがまずは大事ですね。マリノスカップU-10とU-12も、昔は11人制サッカーでしたが、15年くらい前から、U-10のほうを8人制に変えています。それはなぜかと言うと、“子どもは小さな大人ではない”というコンセプトです。11人ではなかなかボールに関われないので、プレー回数が充分に確保できません。それぞれの攻守の役割は、11人制のほうがハッキリしていて良い部分もありますが、8人制ならDFがゴールを決められる状況もあるし、逆にFWも自陣に帰って守備しなければいけない場面もあります。幼い子どもたちなので、プレーエリアをもう少し広げて、子どもの自由な発想やアイデアを引き出してあげようと話し合い、その結果、マリノスでは昔から人数を少なくして8人制でやってきた経緯があります」
 
――全日本少年サッカー大会が8人制になるずっと前から、取り組んでいたんですね。欧州では7人制を採用する国もありますが、なぜ8人なのでしょうか?
 
「フランスは9人制、スペインなら7人制と、国によってさまざまですね。8人の場合は、単純に4-4-2のシステムから真ん中のDF、MF、FWを1人ずつ抜いた形です。だからうちでは、3-3-1が軸になります。人数を減らすと、子どもはやっぱりイキイキしますよね。プレーへの関わり度合や1対1の場面が増えるので、これも少年期には必要なファクターです。13歳になると大人のサッカーになるので、その準備段階として、12歳なら11人でもプレー出来なきゃいけないと僕らは思っていますが、その前のU-10などの段階では、非常に効果的だと思います」
 
――ということは、U-12で行われる全日本少年サッカー大会は、実は11人制のほうが良いと思っていますか?
 
「それはあまり言いたくないですが、どこでポイントを打つのかが、すごく難しいと思うんですよね。我々のようなJリーグのクラブだと、11人制のほうが良いという意見もあるし、まだまだサッカーをやり始めた子が多いチームの場合には、8人制のほうが分かりやすいと思います。8人でも4人でも、何人でやってもサッカーはサッカーなので、指導者はプレーの本質を教えるというところがブレてはいけないですね」
 
 

■フォーメーションありきではなく、子どもの特性を考えてシステムを決める

――8人制サッカーのシステムは、3-3-1をベースにするチームが多いですか? 
 
「最近見ていると、2-4-1も多いですね。DFが2人だと、攻撃のビルドアップはやりやすいと思うんですよね。ボールを持ったときDF2人が外に開けば、GKからボールを受けて、その前のMF4人とFW1人に展開しやすくなります。
守備については、相手がFWを何人にするのかによって変わりますが、たとえばDFが3枚で相手FWが1人のときは、1対1がハッキリするんです。だけど、相手FW1人に対してDFが2人だと、一見、カバーリングが1人余っているように見えて、実はマークの受け渡しが難しかったり、DF2人の両脇のサイドが突破されると、どちらかが引っぱり出されることでマークの受け渡しやコミュニケーションが難しくなります。
逆に言えば、そういう戦術的なところを鍛えたいから、2-4-1や2-3-2のように、あえてDFを2人にすることはあります。僕は指導者だから、そう考えるんですね。子どもを鍛えたいから、後ろ2人にして、ゾーンでマークを受け渡すときにコミュニケーションを取ろうとか、そういう指導をします」
 
――システム選択についても、子どもをどう成長させるか、という手段の一つなんですね
 
「そうです。3-3-1のシステムで、MFの真ん中の子がうちにいるんですけど、ダノンネーションズカップの前の春先には、その子を真ん中で起用するかどうか迷っていたんですよ。3-3-1の真ん中が、簡単に出て行ってボールを取られると、スペースがポッカリ空きます。そこから主導権を取られることがたくさんあるので。その真ん中の子が、攻守のバランスをうまく取ることを身につけると、3-3-1はハマる。すごく重要なポジションなんですよね。守備も攻撃もできて、いつ出て行くのか、行かないのか、すごく考えなきゃいけないんです。
 
ある真ん中の子の場合は、守備が出来なかったので、あえてセンターバックをやらせてみたりしました。ポジションを変えることで、そのポジションの特異性というか、本人の足りないところを補ってもらうために、そうすることはしょっちゅうあります。もちろん勝ち負けも重要ですけど、基本的には選手を育てる方向なので、県大会でも今までの予選では、みんなポジションが違います。右サイドをやってた子が、左サイドとか。前線をやっていた子が、DFとか。
 
子どもの可能性をどれだけ引き出してあげられるかが、重要だと思います。ある子はヘディングが出来ませんでした。でも、ある試合のコーナーキックで頭に当たって入っちゃったとき、ものすごく、はしゃいだ。たまたま入ったんですけど。僕はしめしめと思いながら、“ヘディング苦手だったのに、すごいじゃん!”と言ったものだから、練習し始めたんですよ。それからコーナーになると出て行くんです。まだヘディングはうまくできてないのに。でも、実は自分で苦手と思っていただけで、やり始めると効果が出てくる。そうするとヘディングが出来るようになって、好きになって、最後はその子の武器になりました。僕はこれまでの経験の中で判っているので、最初からやらない人にはよく言います。“やらないから出来ないだけで、やってみたら出来ることはたくさんあるんだ”と。僕ら大人も決めつけてはいけないのです。こいつはこれしか出来ないから、これだけやっておけばいいとか。
 
そして、その前にいちばん大事なのは、子どもの長所を認めてあげること。出来るのが楽しくて、サッカーやって、それが原動力になっているわけだから、まずは長所を認めてあげる。でも、サッカーはそれだけではなく、伝えるべきものはたくさんあります。その後から苦手だと思っていたヘディングとか、他の可能性をどれだけ引き出してあげられるかですね」
 
 

■ちょっとした工夫で子どもたちは考えて創造力を高めていく

――指導者はそうやって子どもの意志をサポートしているんですね
 
「勝ちたいのはもちろんですが、“どう勝つか”も大事だから、そのために指導者がどんな工夫で働きかけることができるかが大事です。
2013年の5月にはスペインに行って7人制サッカーにも参加してきましたが、向こうでやっている7人制も、いろいろな工夫がされていました。システムは最初、3-2-1のツリーですが、GKにボールが入った途端にディフェンスの1人がグッと上がり、センターバックとサイドバックがスッと外に開いて2-3-1に変形します。彼らは常に1人のFWを見てサッカーをしていたので、FWも動きの質が鍛えられます。
特徴的なのはオフサイドライン。ゴールラインから12メートルぐらいのところにオフサイドラインが引いてあり、それを越えない限りはオフサイドにはなりません。だからディフェンスラインをあまり高くすることができず、FWにすごくスペースが与えられて、非常に良いと思いました。マリノスカップは7人ではなく8人制にしていますが、僕らもそういうラインを設定することで、できるだけ縦の深さを増し、1人1人にスペースを与えてプレーさせています。
 
また、フランスの場合は、タッチラインからタッチラインの横幅全部をペナルティーエリアにしてやっています。つまり、その中でファールをすると全部PKとなります。それはおそらく、縦への推進力をつけるため。スペシャルボックスと僕は呼んでいますが、そこにボールが入ったほうが得なので、前へ行く意識がつきます。
 
ちょっとしたことですが、人数やコートの広さ、システムやルール。何を選手に求めたいかで、そういう工夫が変わってきます。いろいろな国でサッカーを学ぶことで、非常に勉強になりました。大人が工夫することで、子どもの能力を最大限に引き出すこと、創造力を高めていくことを僕は常に意識しています」
 
――そういうアレンジしたコートやルールに、子どもたちはすぐにフィットできますか?
 
「いえ、最初はやっぱり理解しきれない子がいたり、ルールを逆手に取ったりする子もいたり、それぞれですね。だけど、僕ら指導者が工夫すると、子どもたちも考えて工夫することにつながります。いつも通りにパッとやらせたら、そのままやらせっぱなし。そういうことも多いじゃないですか。だけど、少しでいいから『スパイス』を振りかけてみる。“今日はこんなルールでやろう”って働きかけると、考える子は考える。考えてなかった子も、考えている子とミーティングさせたり、一緒にプレーさせていくうちに、そういう雰囲気になっていきますね。
コーナーキックも、子どもだと遠くに蹴れないから、ゴールエリアの角から蹴らせるとか。そういう方法で刺激を与えることを指導者が知っておけば、子どもが考えて、アイデアとか工夫が出てきますよね。だから、まずは指導者が考えるべきだと思いますよ」
 
 
西谷冬樹(にしたに・ふゆき)//
・1969年12月18日生まれ、神奈川県出身
・横浜F・マリノス プライマリー(U-12)監督
・日本サッカー協会公認A級コーチ。
第37回全日本少年サッカー大会決勝大会ではベスト16、昨年9月にイギリスで行われたダノンネーションズカップ2013では世界大会の舞台で見事3位という功績を残した。これまでの20年間で多くの選手を育成し、中村俊輔、齋藤学、藤本淳吾をはじめとするプロ選手を輩出している。
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