考える力

2013年10月 8日

すべての人にサッカーを UEFAが大切にするグラスルーツの理念

『グラスルーツ』という言葉をご存じでしょうか。grass=草、roots=根っこ。日本語では草の根運動と訳されている言葉です。元々は一部の支配層からではなく、民衆、大衆のつながりで世の中を変えていこうという思想活動から生まれた言葉のようですが、このグラスルーツが、世界のサッカー界をリードする欧州サッカー連盟(以下、UEFA)が、ここ数年特に力を入れて取り組んでいることでもあります。
 
 今日は、世界のサッカーを支える『グラスルーツ』サッカーについて、UEFAの取り組みを中心に考えていきます。
 
 
 

■世界のサッカーを牽引するUEFAが見つめる“サッカーの足下”

 UEFAチャンピオンズリーグにEURO(ユーロ:欧州選手権)を主催するUEFAは、まさに世界のサッカーを牽引するヨーロッパを統括する存在です。そのUEFAが、メッシやクリスチアーノ・ロナウドが君臨するピラミッドのてっぺんではなく、最も競技人口の多いグラスルーツ層に向けてのアプローチを本格させたのは、2004年のことでした。
 
 当時の資料によれば、UEFAはグラスルーツプログラムの哲学に
・誰でもプレーする機会
・サッカーをどこでもプレーできる環境
・差別のないピッチ
・ダイナミックでシンプルかつ、エキサイティングでやりがいのある行動
・安全性の優先
・プレイヤーズファースト
・フェアプレーの尊重
・チームワークと技術の向上
 以上の項目を挙げています。
 
また、この資料では、
「グラスルーツサッカーはすべての、年齢、性別、サイズ、姿、レベル、国籍、信仰、人種、すべての人たちのためにある」
 という、元ドイツ代表のストライカーにして代表監督、ユルゲン・クリンスマンの言葉も紹介しています。
 子どもたちのサッカー、地元で行われるアマチュアのサッカー、障がいを持つ方のためのサッカー、老若男女問わず、すべての人が関わるサッカー全体を盛り上げようというのが、グラスルーツプログラムのねらいです。
 
 UEFAの取り組みが素晴らしいのは、これを単なる“お題目”に終わらせていないところ。「グラスルーツ憲章」を設け、UEFAに参加する各国の協会がこれを批准するためには、一定の基準を満たさなければいけません。宣言するだけではなく実際の取り組みが伴わなければ、グラスルーツ憲章に参加することはできないのです。
 
 さらにグラスルーツ憲章への署名はスタート地点。女子サッカーの普及、障がい者サッカーなどの社会的プロジェクトや参加者数や草の根サッカーの普及に応じて星が与えられて、草の根プログラムが高度に発達している協会には6つ星、グラスルーツ活動のお手本となる協会には最高位の7つ星が与えられます。UEFAでは、こうして各協会の取り組みを評価し、グラスルーツの盛り上げを促しているのです。
 
 

■サッカーの祭典 グラスルーツデー

 みなさんは「サッカーの祭典」と聞くとどんなものを想像するでしょう? W杯? チャンピオンズリーグの決勝でしょうか? それともサッカーにまつわるイベントでしょうか? グラスルーツサッカーに注力するUEFAでは、1年に一回、UEFAチャンピオンズリーグの決勝が行われるのに合わせて「グラスルーツデー」を開催しています。
 
 欧州全土で一斉に行われるこのイベントはまさにサッカーの祭典。子どもたちが一日ボールに触れていられるイベントを開催したり、ブラインドサッカーをする人との交流の場を作ったり、性別や年齢をすべて取り払ってサッカーに興じる会場を設置したりと各協会が工夫を凝らしてグラスルーツの精神を表現します。
 
 UEFAの幹部は、このグラスルーツデーについて「エリート層の祭典であるチャンピオンズリーグの決勝に合わせて行われることは、とても意義深いこと。草の根レベルのサッカーがなければ、トップレベルのサッカーも成り立たない。滅んでしまう」と、その意味の大きさについて語っています。
 
 2013-14シーズンも5月24日のチャンピオンズリーグ決勝が行われる週に合わせてグラスルーツデーが行われます。英語のみですが、UEFAが開設しているグラスルーツの特設サイトで、各国の取り組みが動画配信されています。この動画にある子どもたちの笑顔を見れば、グラスルーツプログラムの取り組みの意義、成果が一目でわかると思います。
 
 クリンスマンの言葉にあった「すべての人たちのためのサッカー」は、サッカー文化の根底にあるものです。日本サッカー協会も、トップオブトップ、ピラミッドの上層だけでなく、サッカーを愛するすべての人を「サッカーファミリー」として捉え、より良いサッカー環境作りに取り組んでいます。
 
 大切にしなければいけないのは、スポットライトを浴びるプロサッカーの舞台だけではなく、今日サッカーボールを蹴っている人たち。サッカーのある環境。UEFAの取り組みは、日本でもぜひ参考にしてほしいエッセンスが詰まっています。
 
 次回は、UEFAがグラスルーツプログラムに取り組む以前から、積極的に「市井のサッカー」と育成に取り組んできたフィンランドの事例をご紹介します。
 
プレーするチャンスを公平に フィンランドの「オールスターズ」>>
 
 
大塚一樹(おおつか・かずき)//
育成年代から欧州サッカーまでカテゴリを問わず、サッカーを中心に取材活動を行う。雑誌、webの編集、企業サイトのコンテンツ作成など様々 な役割、仕事を経験し2012年に独立。現在はサッカー、スポーツだけでなく、多種多様な分野の執筆、企画、編集に携わっている。編著に『欧州サッカー6大リーグパーフェクト監督名鑑』、全日本女子バレーボールチームの参謀・渡辺啓太アナリストの『なぜ全日本女子バレーは世界と互角に戦えるのか』を構成。
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