こころ

2014年3月19日

怒鳴るはNG。目標設定が子どものやる気を高める

日本のメンタルトレーニング界を牽引するふたりが、コラボセミナーを実施! 東海大学体育学部・競技スポーツ学科・スポーツ心理学教授の高妻容一先生と株式会社メンタリスタ代表取締役の大儀見浩介さんが「スペシャルメンタルトレーニングセミナー」を開催し、たくさんの参加者が詰めかけました。
 
「本気じゃんけん」で参加者をポジティブに変えた日本のメンタルトレーニング第一人者、高妻容一先生
 
 

■スポーツは楽しむものであって、やらされるものではない

高妻先生はメンタルトレーニングの8つの心理的スキルを中心に紹介。講演の中で参加者同士が2人1組になり、「プラス思考そうか、マイナス思考そうか、顔を見て確認してみましょう」と言うと、参加者からは笑顔がこぼれ、会場の雰囲気が一気に和らぎます。「笑顔が出ればOKです。いま、すこし気持ちが明るくなったり、前向きになったりしていませんか? 笑顔を作ることでポジティブな気持ちになります。これがプラス思考や気持ちの切り替えにつながります」と、実演を交えながら説明。「メンタルトレーニングの基本は笑顔です。子どもは1日に400~600回も笑うと言われています。それがスポーツの現場では、指導者が怖い顔しているので、選手たちは笑顔になりません。ですが、緊張とリラックスの中間の心理状態(ゾーン)を作るためにも、笑顔は必要なのです」(高妻)。
 
セルフコントロールをするための8つの心理的スキル
1.目標設定
2.リラクセーション&サイキングアップ
3.イメージトレーニング
4.集中力
5.プラス思考(ポジティブシンキング)
6.セルフトーク
7.試合に対する心理的準備
8.コミュニケーション
 
高妻先生の講演からは、「スポーツは選手が楽しむもの。決して指導者が“やらせる”ものではありません」というメッセージが込められていました。高校時代、指導者が怒ったり、怒鳴ったりするチームでプレーをしていた選手は、怒られることがやる気を出すための条件付けになり、大学に進んで環境が変わると、どうにもやる気が出なくなるケースもあるようです。「大切なのは、選手の内側から沸き上がるやる気を高めること」なのです。
 
続いて、大儀見さんは「やる気を高める」ために重要なテクニックでもある「目標設定」について紹介。「目標には長期・中期・短期と種類があり、短期目標は長期目標を達成するための道標になります。今日すべきことが明確になっていれば、自然とやる気は高まっていきます」と語ります。プレゼンテーションでは、曲がり角にゴールへの矢印がある迷路とない迷路を紹介。「目標はゴールへの矢印を作る作業です。進むべき方向がわかっていれば、目標達成のスピードも上がりますし、迷うことなく進んでいくことができます」と、例をあげて説明していきます。
 
目標設定は「内発的なやる気」を高めるテクニックです。指導者に怒られるからやる、ご褒美がもらえるからやる、といった外発的なやる気ではなく、スポーツが好き、楽しい、面白いという、内側から沸き上がってくるやる気こそが、選手を成長へと導いていきます。
 
 

■プレッシャーは心の準備でコントロールする

ふたりの講演が終わると、Q&Aタイム。参加者から「試合前に緊張します。どうすれば緊張しないようになるのでしょうか? また緊張してしまったときのほぐし方を教えてください」という質問が出ました。
 
高妻氏はこう語ります。「プレッシャーは誰しも感じるもの。適度なプレッシャーを感じることで、理想的な心理状態に入ることができます。プレッシャーを楽しむのが、一流選手です。大事な場面でどんなプレーをしてやろうかなと、チャレンジする気持ち、逆境を楽しむ気持ちを作ってみてください。多くの観衆が注目する場面が回ってきたとして『絶対にヒーローになってやる』『ここで活躍すればプロになれるかもしれない!』とワクワクする選手と、『ミスしたらやばい、どうしよう……』とネガティブになる選手とでは、どちらが活躍できるでしょうか? 一流選手はみんなプレッシャーを楽しみ、力に変えます。日頃からメンタル面のトレーニングをし、準備をしておけば難しいことではありません」
 
メンタルコントロールの具体的なテクニックを提示してくれた大儀見浩介さん
 
大儀見さんは次のようにアドバイスします。「プレッシャーを感じた時に、気持ちを落ち着けるためのテクニックとして、呼吸法があります。まずは口から細く長く息を吐き、鼻からゆっくり吸います。吸い込んだ時間の3倍ほどの長さで、口から細く長く、スーッと音を出して息を吐きます。息を吐く時は、ネガティブな気持ちを吐き出すイメージを持ってください。これを数回繰り返すと、気持ちが落ち着いてきます。ただし本番のときだけやっても効果が無いので、普段の練習から取り入れて、心をコントロールする意識を持ってください。高妻先生も言っていましたが、大切なのは普段の練習から、本番に向けて準備をすること。準備=自信です!」
 
4時間を越えるセミナーでしたが、テンポが良く、飽きさせないプレゼンテーションのおかげであっという間に終了。参加者のみなさんも笑顔で会場を後にしていました。
 
セミナーを主催した、国際スポーツ医科学研究所の金成仙太郎氏は「メンタルの分野は指導者や治療家、トレーナーなど、選手と接する立場の人たちにとっても重要なスキル。もっと多くの人に知ってほしい」と語ります。会場には、スポーツをする子を持つ保護者の方も多く参加していました。子どもと接する様々な立場の人がメンタル面の知識、テクニックを身に付けることで、日常生活やスポーツに積極的にチャレンジする子どもが増えていくのではないでしょうか。
 
 
高妻容一(こうづまよういち)
1955年生まれ。東海大学体育学部教授。国際メンタルトレーニング学会、国際応用スポーツ心理学会など多数の学会に所属。1994年にはスポーツ心理学を背景としたメンタルトレーニングの組織「メンタルトレーニング・応用スポーツ心理学研究会」を設立し、日本でのメンタルトレーニングの正しい理解と情報交換を目的に活動を続けている。
 
大儀見浩介(おおぎみ・こうすけ)
株式会社メンタリスタ代表取締役。静岡県清水市生まれ。東海大学第一中学校(現・東海大学付属翔洋高等学校中等部)サッカー部時代に、元日本代表の高原直泰氏とともに全国優勝を経験。東海大一高ではサッカー部主将として鈴木啓太氏(浦和レッズ)とプレーした。東海大学進学後、高妻容一研究室にて応用スポーツ心理学(メンタルトレーニング)を学び、現在はスポーツだけでなく、教育、受験対策、ビジネス、社員研修など、様々な分野でメンタルトレーニングを指導している。
 
 
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