こころ

2013年8月22日

プロ生活33年で警告ゼロ! フェアプレーを貫いた選手

 
 世界最高の選手は誰か? メッシ? クリスチアーノ・ロナウド? 過去に遡るならペレか、マラドーナか? 『最高』の定義は難しいものですが「紳士のスポーツ」サッカーにおける最高の選手は、この人なのかもしれません。
 
 今日は初代バロンドールの栄誉に輝き、17歳のプロデビューから50歳!現役を退くまで、ただの一度も警告を受けなかったというスタンリー・マシューズの名言を紹介します。
 
 
子どもの頃のサッカーにはレフェリーなんて必要なかった。ルールは全員で決めていたからね。
子どもの頃はルールを守ろうと意識なんてしなかった。遊びながらやるサッカーがすべて教えてくれた。
                 スタンリー・マシューズ(イングランド)
 
 

■フェアプレーは当たり前 真の紳士が残した言葉

 誰からともなくはじめた校庭のサッカーは、不思議なものでレフェリーもいないのになぜかみんなの中に“決まりごと”ができていき、自然に不公平にならない独自のルールが作られていくものです。校庭の形に合わせて特別ルールを作ったり、場所が狭くてゴールがひとつしかなければ、ハーフコートの交代制になったり……。こういうときの子どもたちは“遊びの天才”の本領を発揮して、なんとか楽しくプレーできる方法を探します。
 
 マシューズは700試合ともいわれる出場試合で、ただの一度も警告やそれに類するラフプレーを犯さなかったことで知られる本物の紳士です。彼は自身のフェアプレーについて問われると「なぜそんな当たり前のことを?」と、いつも不思議そうに答えました。
 
「レフェリーは必要なかった。もし、レフェリーがいなくてもルールはルールだ」
 
 これもマシューズが残した言葉です。ルールがなければサッカーは成立しない。レフェリーがいるからルールを守るわけではない。このことは、どんなにサッカーが進化して、技術的にも身体的にも激しさを極めたとしても、変わることのないたったひとつの真実です。
 
 サッカーの王様ペレをして「すべてのサッカー選手のお手本となる名選手」と言わしめたマシューズにとってフェアプレーは特別なことではなく、サッカーを愛し、プレーをし続けていくための、ごく自然な行動でした。
 
 

■マシューズ・フェイントの生みの親

 17歳にしてストーク・シティでプロデビューを果たしたマシューズは、右サイドのウイング・ポジションで抜群の存在感を見せました。「ドリブルの魔術師」と呼ばれ、彼の切れ味鋭いフェイントはいまも「マシューズ・フェイント」として、クリスチアーノ・ロナウドやディ・マリアら多くのドリブラーに使われています。
 
 右サイドでボールをキープしながら左肩を入れ、同時に右足でボールに触れてフェイント。相手が重心を移したのを見るとすかさず、右足のアウトサイドで突破を仕掛ける。一見、単純なこのフェイントは、わかっていても止められないフェイントとして脈々と受け継がれています。マシューズは生前このフェイントについて「どうすればできるようになるかと聞かれても困るんだ。あれは身体が自然に動いているんだよ」と答えたそうです。
 
 選手としてのキャリアを着実に積み上げたマシューズは1956年、欧州最高の選手を決めるバロンドールの初代受賞者となります。このときマシューズは41才。同じく伝説の名選手、レアル・マドリードの“ドン”ディ・ステファノを抑えての受賞でした。現在は世界最高の選手に贈られる栄誉となったバロンドールも「マシューズに何かの賞を与えるためにできた」と言われるほど、マシューズは傑出した選手でした。
 
 マシューズはナイトの称号『サー』を授かった初めてのサッカー選手でもあります。しかも、彼がこの称号を授かったのは第一線でプレーしている現役時代のこと。引退前に『サー』の称号を授与されたのは後にも先にもマシューズ以外にはいません。
 
 食事に気をつけ、自らをコントロールして節制に務めたマシューズは、なんと50歳まで現役を続けました。日本の生ける伝説、キング・カズこと三浦知良選手は現在46歳。カズ選手にもあと4年は現役でいてほしいものですが、マシューズのすごさは十分わかってもらえるでしょう。
 
 一部リーグでの最年長出場記録、イングランド代表としての最年長出場記録などいまも色褪せない記録を保持しているスタンリー・マシューズ。数々の伝説に彩られたマシューズは、その不滅の記録とプレーで人々の記憶に残っています。しかし、彼を「世界最高」に推す人が絶えないのは、33年間に渡る現役生活で、後ろ指を指されるようなプレーを一度もしなかった“真の紳士”だからこそ。サッカーはやはり、技や強さを競う以前に、紳士のスポーツなのです。
 
 
大塚一樹(おおつか・かずき)//
育成年代から欧州サッカーまでカテゴリを問わず、サッカーを中心に取材活動を行う。雑誌、webの編集、企業サイトのコンテンツ作成など様々 な役割、仕事を経験し2012年に独立。現在はサッカー、スポーツだけでなく、多種多様な分野の執筆、企画、編集に携わっている。編著に『欧州サッカー6大リーグパーフェクト監督名鑑』、全日本女子バレーボールチームの参謀・渡辺啓太アナリストの『なぜ全日本女子バレーは世界と互角に戦えるのか』を構成。
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