インタビュー

2019年10月 2日

インターハイ5回、選手権でも2度優勝の強豪校サッカー部監督が明かす「私がオラオラ系指導をやめたワケ」

2012年にインターハイで女子サッカーが正式種目になって以来、掴んだ日本一の回数は5回。高校選手権でも2度の優勝を果たし、高校女子サッカー界屈指の強豪校として知られるのが兵庫県の日ノ本学園高校です。

チームを率いるのは、就任8年目の田邊友恵監督。自身もアルビレックス新潟レディースの選手として活躍した指揮官に女子選手への指導法に関してや、育成について考え方をお聞きしました。

(取材・文・写真:森田将義)

 


オラオラ系指導者から変化したキッカケとは......

 

■目に見える成果を求める"オラオラ系"指導者からの変化

指導者として輝かしい経歴を誇り、多数のなでしこリーガーを育てた田邊監督ですが、指導者として自信を持ち始めたのは、指導歴が10年を超えた近年から。「頑張ると人は成長するんだなって自分で自分を認めてあげたいと思うようになりました」と笑みを浮かべます。

人には成長曲線があり、毎日頑張っていれば右肩上がりで成長するものだと信じがちですが、実際には自身も周りも気付けないほど些細な上がり下がりを繰り返しながら、ある物事をきっかけに急成長するものです。

監督に就任した当初の田邊監督はすでに強豪だった日ノ本を勝たせ続けなければいけない、選手を入学した時よりも成長させなければいけないというプレッシャーの中で指導を続けていました。自身が求めるプレーができない選手がいれば、「ちゃんとやれよ!」といった厳しい言葉をかけることも少なくありませんでした。

いわば"オラオラ系"の指導者で選手と自らを追い込んでいましたが、指導を続ける中で「選手は自分で気付いたら成長する」ものだと気付いたと振り返ります。「毎日練習していると昨日より良くなっていない。まだそんなレベルかって自分自身を苦しめてしまうし、選手にも言ってしまう。日々の成長を求めすぎて、選手も指導者も追い込まれていく。悩む人は目に見える成果とか、わかりやすい成長が欲しくて悩んでしまい、結果的に頑張ることに疲れてしまう」。

選手の急激な成長曲線が訪れるのは、高校での3年間ではないかもしれませんが、成長するための種まきと水やりを続ければ高校を卒業した以降にグッと花を開く瞬間が来るかもしれません。焦らず気長にその時を待ち続けるのが指導者としての大事な心構えだと理解できたのです。

 

■指導者としての手応えを掴んで、初めて褒められる喜びに気付いた


ただ褒められても心に響かないことも。褒めるポイントも大事にしていると田邊監督は語ります

 

こうした考え方は指導者としての成長が訪れる瞬間も同じと言えるかもしれません。田邊監督が指導者としての成長に気付けたのは東京都の十文字高校に敗れ、決勝戦で涙を飲んだ今年のインターハイでした。外部コーチに任せていた守備は機能したものの、田邊監督が担当した攻撃はうまく行かず、0-1で敗退したため、「自分の努力が足りなかったと反省しました」。

敗戦を機に「なでしこJAPANの監督を本気で目指すくらいの努力を日々、自分がしたら、今いる子たちにもっと良い物が与えられるかもしれない」と思った田邊監督は、周囲に「私はいつか、なでしこJAPANの監督になるから」と口にするようになりました。多くの人に公言しても、恥ずかしくない指導や行動を心掛けようと決めたのです。ただひたすら勝利と優勝に向かって日々を努力し続けてきた以前とは違い、明確な目標を立てた上で逆算して何をすべきか考えて指導するようになりました。

目標に向かい自らの指導力を更に上げるため、今夏に日本サッカー協会が行う女性指導者のスキルアップ研修会に参加したことも一つの転機でした。「以前の指導実践は人に見られることを意識しすぎていたけど、気付いたらその場にいる選手にたちに何かを残すために一生懸命やろうという姿勢に変わっていた。初めて指導実践を怖がらずにできて楽しかったし、初めて自分で自分を褒めてあげたいと思えた際に、周りから『良い指導をしているね』と言われたのが嬉しかった」。今までは常勝軍団を率いるプレッシャーの中で指導を行っていたため見落としていた、自身の成長に気付いたのです。

同時に「褒められるって本当に嬉しいことなんだなって気付きました。逆に、褒められても自分に実感がないと嬉しくないんだってことにも」。監督に就任した翌年からインターハイで3連覇。選手権でも2連覇を果たすなど傍から見れば我が春を謳歌しているように見えた田邊監督ですが、周りに「凄いね」と言われても心から喜べなかったと振り返ります。

「女性が陥りがちな詐欺師症候群になっていたんだと思うんです。自分はそんな器じゃない、自分は何もしていないって。選手が頑張ったから偶々優勝できただけで、自分の力が役にたっていると実感がないのに褒められても嬉しくなかった」。

ただ、今夏は自分でも指導に手応えを感じたタイミングで褒められたため、素直に嬉しかったそうです。

子どもたちへの指導も同じです。選手を伸ばすために褒めることの重要性が認知されてきましたが、何もかも全てを褒めていても心に響きません。田邊監督自身も褒められる嬉しさに気付いてからは、選手がこれまで出来なかったプレーが出来た瞬間やピッチ外での行動に成長が見られた際には言葉に出して選手とコミュニケーションをとるようになったと言います。

こうした褒め方のタイミングはジュニア年代の指導やサカイクの読者である親御さんの子どもへの接し方のヒントになるかもしれません。

 

田邊友恵
日ノ本学園高等学校サッカー部監督。東京女子体育大学サッカー部時代には、関東大学女子サッカーリーグにて得点王、ベストイレブンに選出。2002年結成の「アルビレックス新潟レディース」初期メンバーで、FWとして活躍。2007年現役引退。2008年よりJAPANサッカーカレッジレディースの監督に就任。2012年より現職に。

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