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「体幹トレーニング」だけやってもダメ! Jクラブが実践する、当たり負けない身体を作る学校や家庭でできるトレーニング

公開:2018年11月27日 更新:2024年4月18日

キーワード:いい姿勢体幹を鍛える体幹トレーニング少年サッカー正しい姿勢清水エスパルス骨盤

「小学生におすすめの体幹トレーニングを教えて」 サカイクにも多く寄せられる要望です。スペイン1部で10年トレーナーを務めた松井さんや他の様々な指導者が「いわゆる体幹トレーニングとして認識されている、体の前面の筋肉だけ固くするようなトレーニングはケガの原因にもなるし小学生には不要」とおっしゃっていても、保護者に深く刻み込まれた「身体を強くするために体幹トレーニングが必要なんだ」という意識を変えるのは中々難しいもの。

海外選手との違いは身体の強さと言われますが、骨盤の傾きをはじめ、生活習慣の違いによりそもそも同年代の小学生でもお腹周りの強さが違います。

Jリーグの清水エスパルスの育成組織では、身体を強くするための興味深い取り組みをしていました。クラブの理学療法士およびアスリート育成コンディショニングコーチを務める齋藤佳久コーチにお話を伺ったのでご紹介します。
(取材・文:出川啓太)

 

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■「正しい姿勢」は良い選手の条件

お子さんは、普段、ご自宅でどのように過ごしていますか? ご飯を食べているとき、ゲームをしているとき、勉強をしているとき、学校での授業中に座っているとき、お子さんはどのような姿勢でいますか? 一度、意識して観察してみましょう。

腰が丸まって肩より顔が前に出ていませんか? 歩いているとき、または立っているときに、かかとに体重が乗っていませんか?

じつはその姿勢、サッカーをプレーするうえでも悪影響を与えている可能性があります。

身体を強くするためには、土台となる「正しい姿勢」が大事です。清水エスパルスの育成組織でも、常日頃から正しい姿勢を保つことが意識されているそうです。

海外でプレーするような一流選手の姿勢を見てください。本田圭佑選手や香川真司選手、長友佑都選手は、プレー中も背中がピンと伸びています。いいサッカー選手の条件の一つとして「正しい姿勢でいる」ことが挙げられるでしょう。これは、小学生のころから意識して習慣化することが大切です。

背骨が伸びていて、肩、頭が正しい位置に乗っているのが良い姿勢=正しい姿勢です。立って「気を付け」をしたときに、腕が身体のサイドにまっすぐ降りていること、お尻が後ろに出すぎないこと、耳の位置が身体の真横に来ていることなど、身体のパーツが正しい位置にあることを意識するのが大事なのです。

齋藤コーチは、悪い姿勢でいることには以下の3つのデメリットがあると警鐘を鳴らします。デメリットの最たるものが、ケガをしやすいことが挙げられます。

「ぼくらが接する育成年代の選手たちは学生であり、学校で長時間にわたり座って授業を受けています。ですので授業中に悪い姿勢でいると、練習にきて急に体に負荷をかけたときにケガをするリスクに繋がります」

筋力や体幹のトレーニングが1を2に、2を3にと積み重ねていくものであるのに対して、いい姿勢を保つということは積み重ねるための基盤を構築するような役割になります。

■土台ができてないのに体幹トレーニングだけやっても無駄

「最近、本屋に行くと体幹トレーニングの本をよく目にするようになりましたよね。たしかに体幹トレーニングは小学生から取り入れた方がいいでしょう。実際にエスパルスの育成年代の選手たちもやっています。しかし、それはいい姿勢という土台があったうえで行うことで、はじめて積み重なっていくものなのです。悪い姿勢のままで積み重ねてしまうと、それは過負荷となってしまいます」

日本人は欧米人に比べ骨盤が後傾していることが多いor後傾しやすいため、普通に座っていると背中が丸まりやすく猫背になる子も多いですよね。いっぽう、背筋をピンと伸ばした「良い姿勢=正しい姿勢」を取って見ると気づくと思いますが、その姿勢をキープするにはお腹周りと腰、背中の筋肉を使っていることがわかるのではないでしょうか。

骨盤が前傾している欧米人は、子どものころからの生活習慣の中で、お腹周りを強くすることが自然と身についてるのです。骨盤が後傾している日本人の子どもは、そもそも子どものころからお腹周りと背中の筋肉を使うことが少ないため、同年代の外国人選手と比べると胴体周りの強さが劣る事が多いという実情だそうです。

「じゃあ、たった今から良い姿勢をキープしよう」と思った親御さんもいらっしゃるかもしれませんが、昨日まで悪い姿勢でいた子が、今日からいい姿勢になることはなかなか難しいものです。

子どもに「姿勢をよくしなさい」といくら注意しても全然改善されないと嘆くお父さんお母さんも少なくないでしょう。それには理由があると齋藤コーチは語ります。

「悪い姿勢の子がいい姿勢を保つためには、姿勢保持筋を育てる必要があります。正しい姿勢でいるためには、腹筋や背筋、腸腰筋など胴回りを支える筋肉を育てる必要があるのです。胴回りの筋肉を使って良い姿勢を長時間キープすることは慣れない子に対してきついと思います。ですので姿勢を習得するまでには時間を要するので、すぐに改善すると認識していないほうが良いと思います。

正しい姿勢でいることはサッカーのプレー中にも好影響を及ぼします。つまり、いい姿勢=正しい姿勢が当たり前になると、それだけでサッカーに必要な土台となる筋肉を育てるトレーニングになっているとも言えるのです」

その土台のうえに体幹トレーニングを積み重ねていくことで、当たり負けしない強い身体が作られるのだと教えてくれました。

「自分の子どもに熱心に体幹トレーニングを勧めるお父さんお母さんがいらっしゃいますが、何度も言うように、この前提がないと身体の前面の筋肉を固くする体幹トレーニングは、子どものケガのリスクを高める行為になってしまうので注意しましょう」

 

■悪い姿勢はスピード低下だけじゃなく、身長の伸びにも悪影響

また、悪い姿勢は怪我をしやすいという以外にも、「プレーの推進力を低下させる」というデメリットを含みます。なぜプレーの推進力が落ちるのでしょうか?

「悪い姿勢というのは、骨盤が後傾します。すると、人の体は後ろ体重になります。これがプレー中に推進力を低下させる理由で、ドリブルでグッと前に体重移動してスピードをあげたいときや、シュートの際に重心を前に乗せてボールを飛ばしたいときに、前にかかるパワーが弱くなってしまうのです。」

強烈なシュートが打てない、スピード不足。そういう傾向にある選手を観察すると、姿勢が悪いケースが多いと齋藤コーチは指摘します。また、骨盤が後傾するともも裏の筋肉などが硬くなります。これも悪い姿勢でいると怪我をしやすい理由のひとつに挙げられます。

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©S‐PULSE 

また、「たくさん食べられなくなる」というのもデメリットです。

「なぜたくさん食べられなくなるかというと、姿勢が悪いと内臓が押しつぶされてしまうんです。本来あるべきところに内臓がないので、構造的に体に食べ物がたくさん入りにくくなります。これは育成年代の選手にとっては致命的です」

しっかり食べて栄養を吸収することは、身体を大きくするのに必要不可欠です。成長期である小学生にとっては、身体を作っている時期でもあります。正しい姿勢で過ごしていたらあと5cm伸びた可能性もあるのに......とならないよう、ご飯を食べる時も正しい姿勢を心がけましょう。

そのような側面からも、正しい姿勢でいることが重要なのです。体幹トレーニングを取り入れるのもお子さんの為を思ってのことだと理解しますが、まずはお父さんお母さんが悪い姿勢でいることのデメリットをしっかりと理解して、それを伝えてあげましょう。

子どもは「いい姿勢でいなさい」と言われても、なぜいい姿勢でいる必要があるのかわからないので受け入れてくれません。「悪い姿勢でいると、大きくならないしサッカーのスピードも上がらないんだよ」と伝えてあげることで、大好きなサッカーがもっとうまくなりたい子どもたちは、自らいい姿勢を保つ努力をしはじめるはずです。

エスパルスの育成組織では、クラブにいる時は基本的に「正しい姿勢」を取るように指導しているそうです。ベンチに座ってコーチの話を聞くときも、クラブハウスで食事をとるときも、常に正しい姿勢を取れているかコーチたちが気付きを促しています。

最近では選手たちの意識も高まってきており、ハーフタイムで気が緩み、背中を丸めて座っていた選手が「あ、自分だけ悪い姿勢で座っていた! かっこ悪い」と気づき姿勢を正すといった事も見られたそうです。

幼少期からの身体の癖を矯正するのは難しいかもしれませんが、正しい姿勢が当たり前の姿勢になれば、必然的にお腹周りが強くなり、当たり負けしない強い身体になれます。

子どもは無意識のうちに親のマネをします。子どもにだけ「姿勢を正しなさい」というのではなく、子どもの脳にインプットされてしまうお父さんお母さんの姿勢も大事だということも覚えてほしいと思います。

専門的な体幹トレーニングをする前にできることです。家でも学校でも、宿題中にもできるので、子どもにいい姿勢になってもらうアプローチ、はじめてみませんか?

 

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清水エスパルス齋藤佳久コーチ
理学療法士、アスリート育成コンディショニングコーチ

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取材・文:出川啓太

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