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武藤嘉紀だってチームのために水汲みをする!慶應ソッカー部流サッカー選手の育て方

2016年3月16日

キーワード:慶應大学ソッカー部指導武藤嘉紀考える力

「監督がやらなければいいというのであれば、(学生たちに)全部任せる」これは、慶応義塾大学ソッカー部(編集部注:サッカー部の正式名称。慶応義塾大学はこう呼ぶ)を率いる須田芳正監督の言葉です。あくまでも監督はオン・ザ・ピッチでの仕事に専念するということですが、何も不安なく学生たちにさまざまな仕事を任せられる裏には、慶応義塾大学の伝統が大きいと須田監督は語ります。今回はこの名門大学における人間養成にフォーカスを当て、前編では慶応ソッカー部が組織として重んじる“主体性を育む”という点について迫っていきます。(取材・文 竹中玲央奈)

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■グラウンドマネージャーを決めることで一致団結する

一般的に、大学でも部活動でスポーツを続けるためには相当な覚悟が必要です。高校と比べて学校数は少なく全国各地から優秀な人材が集まってくるため、トップチームで試合に出るためには厳しい競争を勝ち抜かなければなりません。それも慶應ソッカー部のような名門となれば、みな大きな決心を持って入部するでしょう。「高校で不完全燃焼だったから、大学で巻き返そう!」というような高いモチベーションを持っている選手も少なりありません。
 
「1年生ってよく見えるんだよね(笑)彼らはがんばるから。“新しい環境でがんばってやろう”と思って、いいプレーが出る」
 
須田監督もこう語ります。ですが、この慶応ソッカー部ではプレーをすることを断念せざるを得ない選手が毎年、確実に現れるのです。それは怪我をはじめとした個人の事情が理由ではありません。
 
かつての慶応ソッカー部には専任の監督が存在せず、特に平日は学生のみでトレーニングをしていた時期がありました。そのため、監督に変わるピッチ内でのまとめ役・管理役となる学生が必要だということで“グラウンドマネージャー”という役職が生まれたのです。このグラウンドマネージャーを決める過程が、組織における一人ひとりの自覚と責任感を生む大きなポイントになっています。
 
「ここに来る子たちはサッカーをやりたいという思いを持ってきていますが、グラウンドマネージャーは各学年から出す流れになっています。そのときにこっち(指導者陣)が決めるわけではなく、学生間で決めるように話しています。このミーティングへの時間の費やしかたがすごい。ここ数年、部員数が多くなってきて、昔よりサッカーをやりたいと思ってくる学生が多い。それでも決めなければいけないので、新入生が集まって30人くらいでミーティングをするんです。もちろん、そこでは全員がプレーヤーをやりたいと言う。でも、誰かが辞めなければいけない。これが1番キツいですよね。
 
Iリーグ(トップリーグに出られない選手を対象としたリーグ戦)もありますから。いろいろと話し合いをして、何人か候補を選んでそこから投票をするんです。そのときに『なんで俺が、やらなければいけないんだよ』と思う人もいるでしょう。どの学年も自分の代でチャンピオンになりたいと思うわけで、その目標のために“その年のグラウンドマネージャーは誰がいいのか”と話し合う。最後は泣きが入ったり言い合いになったりもします。でも、その中で人間との付き合いが深くなっていく。これによって仲間が一丸になれます」
 

■責任感を持ち、チームのためにプレーできる選手が伸びる

須田監督が話すように、こういった形で腹を割って全員で話し合うことで絆も深まり、各個人の責任感も強まります。チームのためにプレーヤーを諦めて支える側に回った選手がいるという事実が、多くの選手を成長させてきました。そういったマインドを持った選手が“伸びる”という確信を須田監督は持っています。
 
「結局、サッカーはチームスポーツだから“自分がよければいい”という考えだと(成長は)無理ですよね。チームのためになにができるか、仲間のためにダッシュおできるか、スプリントを30回できるか。ボールが来るのはそのうちの1回か2回ですからね。チームのために仲間のためになにをするか、が重要です。試合中にボールに触れるのは約2分間。そのほかの88分間になにができるか。仲間のために走れるか、仲間のためにカバーリングできるか、守備をまじめにできるか。守備はチーム全員がやらないとダメな時代ですし、それができない選手は試合に出しません。それは選手にも言っています。自分の価値観だけでサッカーをやる選手は出さない。もちろん大学生なので、ある程度、自身のサッカー観はあると思います。でも、それに固執してそれだけでプレーをしようという選手は絶対に出しません。オープンマインドで自分だけでなく人の意見を聞く耳を持っている素直な選手が伸びます」
 
語気を強めて須田監督は語りましたが、監督がこれを指導の現場で強調し続けたことによって変化を見せた選手も実在します。
 
「手塚(朋克)は“変わった”選手です。彼は静岡学園出身で、この学年ではトップクラスの選手でした。高校まではずっと試合に出てこられた中で、このチームに入ってきたんです。ボールを持ったら抜群にうまい選手で、1年で入っていたときからそうでした。ただ、ボールのないところで消えてしまう。持ったらすごいけど、『あれ、いたの?』と感じる時間帯も多い。そこで“自チームが持っていたらチームの仲間のためにスペースを開ける動きや、無駄な動きをしなければいけないよ”と言い続けたら、昨年の秋ごろから抜群によくなってきたんです。チームのためにこういうことができるんだ、ボールがないときにこういうところに動くんだ、ということがわかったんでしょうね。人のため、仲間のため、チームのために動けるようになったんです。彼は伸びるなと思いましたし、ひょっとするといいところに行くかもしれません」
 
次ページ:武藤嘉紀選手を変えた大学3年の夏

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取材・文 竹中玲央奈

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