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こころ

W杯で日本代表も陥った!ポジティブ思考の落とし穴

2014年7月29日

キーワード:コントロールトレーニングメンタルワールドカップ大会日本代表本田圭佑

1分2敗でブラジルワールドカップを去った日本代表。今後に向けて改善すべき点は多く、その中でも特に聞かれるキーワードが“メンタル”です。
 
ザッケローニ監督は「メンタルに問題があった」とコメント。選手も「失点してから受け身になってしまった」と語るなど、各人がメンタルに関する反省を口にしています。
 
では、具体的にどのような点においてメンタルの反省、改善すべき点があるのでしょうか? 本稿は『スラムダンク勝利学』の著者であり、メンタルトレーニングの第一人者である辻秀一先生に、ザックジャパンの評価を伺いました。
 
日本代表 メンタル
聞き手・構成/清水英斗 写真/田川秀之・サカイク編集部
 

■“優勝宣言”が、チームに与えた影響

 
今回のワールドカップについて、ぼくが疑問に思っているのは、日本代表は本当にフラットな気持ちで、何にもとらわれずに「コロンビアに勝つ」、本田圭佑ならば「ワールドカップで優勝する」と言っていたのか、ということです。
 
スラムダンクで言えば、山王工業を相手にゴリ(赤木剛憲)が「全国制覇」と言った。高校生が何にもとらわれずに、「日本一になる!」と言う。それはもちろん大事です。もしも、本田が本当にゴリと同じような気持ちで“無垢(むく)に”、「ワールドカップ優勝」と言っているのなら、それはそれで素晴らしいと思うんです。
 
ただ、日本代表は高校生の集まりじゃない。大人になって、それぞれが認知の経験を積んできたわけですよね。仮に本田自身は、ゴリと同じような気持ちだったとしても、他のメンバーは桜木花道のように、たとえば山王工業相手に前半で24点差をつけられても「ヤマオーは俺が倒す!」と言えたのか。そういう厳しい状況でもメンタルの状態がとらわれずに、メンバー全員が純粋に優勝を目指せるのだったら、チームは一つになれるでしょう。大切なことはその時の自分たちの心の状態です。
 
だけど、ぼくらの場合、発言に“強がり”があると、そこに“嘘”があることになる。たとえば野球で160キロの球を投げる相手に「4割打つ」と言ったり、ラグビーで世界ランキング8位のチームに「5トライして勝つ」とか。もしも、日本代表の中に“強がり”のようなものがあって言葉を発しているのだとすれば、どうしてそんな強がりをしてしまうのか。
 
本田はポジティブ思考すぎて、無理がある感じをすごく受けます。一言で言えば、疲れるんです。もし、純粋無垢に言っているのなら、コートジボワール戦で先制しても、あんなに“とらわれる”はずがないんです。勝つことが本当に当たり前だと思っている人は、1点取ったことに、とらわれは起こらない。でも、頭のどこかで「勝てない」と思っている人が1点リードすると、とらわれや不安が起こる。
 
――おっしゃるとおりで、長友佑都など複数の選手は「1点を取った後に受け身になってしまった」とコメントしていましたね。
 
これはゴルフで言えば、前半をいつもアンダーで回れていない人が、たまたま前半を終わって35で回ったとき、「これはいいんじゃないか」ととらわれて、後半に自分のプレーを崩して、結局、終わってみればいつも通りのスコアに落ち着いてしまう。
 
経験を積んだ大人は、いろいろな状況にとらわれるんです。それが当たり前なんですよ。そういうことを加味して、それこそフィギュアスケートの羽生結弦のように、「金メダルを考えすぎてるんですよねー」「緊張してるんですよねー」「不安なんですよねー」と、もっと自然に、自分のメンタルの状況に気づくことができるライフスキルを持っていればいい。
 
――そういう不安や緊張に気付いて、自分で笑い流すくらいのコントロールができれば、どんな状況でもとらわれずに自分の力を発揮できそうですよね。
 
羽生は、10回に1回しか跳べていない4回転サルコウを「絶対に今日は失敗するはずがない」という“強がり”は言わない。それは、言えなくなってきた大人だからです。10代前半の羽生君が「今日も絶対4回転跳ぶぞ!」と無垢に言うのならわかる。だけど、19歳の羽生君ですら、それはもう言えない。
 
本田はどっちでしょうか? 本田が無垢な気持ちで「優勝」と言っているようには見えないんです。だから苦しそう。チームメートも、そうやって本田が「優勝、優勝」って言っているのに対して、「絶対優勝するって言ってるけど、そもそもランキング46位じゃないか。もっと自分たちの力を、ただ純粋に出す意識を持ったほうがいいんじゃないの? そうしたら勝機が見えるんじゃないの?」と、本田に言える選手がいたのだろうか。
 

■本田流ポジティブ思考のメリットとデメリット

 
――どの選手も、本田のことは「メンタルが強い」と一目置いてますし、それを“強がり”ととらえて、たしなめる選手はいなかったと思います。それはザッケローニ監督を含めて。
 
ぼくからすると、本田はメンタルが強いわけではなくて、強がっている。メンタルトレーニングを勉強して、言葉を大事にしているのかもしれないけど、もっと根底に、自分に気付いて認めて受け入れるライフスキルがあった上で、言葉を大事にしていかないと。無理矢理なポジティブワードで、嘘の上塗りとして言葉が作られていくんです。
 
たとえるなら、湯のみのお茶がかなり減っていた場面で、ぼくなら「喉がかわいているんだ。やばいぞ、この量で足りるかな」と思います。だけど本田は「いや、これでも多いぞ」と上塗りする。あるいは、ぬるくておいしくないお茶があっても「いや、これも冷たいぞ」と上塗りする。無理矢理にすべてをプラスに変えるのが彼のやり方です。だけど、嘘で自分をだますから、すごく疲れることになる。
 
――目標を立てることは、ものすごく大事だと思うのですが、実際のところはどうなのでしょうか。岡田武史監督は「ベスト4」という明確な目標を掲げてチームを率いて、「ベスト4を目指すのに、ヤット(遠藤保仁)、お前はその腹でいいのか? それでベスト4行けるのか?」と。そういう目標を作ったことで、選手の意識を高めることができたと思うんです。
 
目標を持つのはいいんですよ。しかし、目標は何のためにあるのかというと、やるべきことを明らかにするためです。予選突破なのか、優勝なのか、ベスト8なのか、目標によってやるべきことが変わりますよね。
 
あくまで目標というのは、やるべきことを明確にするための指針として大事。自分で決めたら、やることが変わる。優勝を目指すために何をするのか? それにふさわしい自分作りをしていくわけですよね。だからもう、本番が近くなったら、そんなことは言わなくてもいい。それにふさわしい結果はついてくるわけで、本番になったら「優勝」とか「勝たなきゃ」とか、言う必要はない。磨いてきた自分をいかに出すかに注力すべき。
 
本番になればなるほど、人間の認知の脳は暴走し、結果にとらわれ、マスコミにとらわれ、環境にとらわれ、相手にとらわれ、過去にとらわれ、スコアにとらわれ…。そういう認知に襲われるのが本番だから、そのとらわれからメンタルを解放すること。それがメンタルトレーニングの極意なわけです。
 
そのメンタルができるための準備を、4年間でしてきたのかどうか。メンタルこそ練習して習慣化していなければいけない。後でメンタルが弱いとか言うのは言い訳に過ぎない。大会に行ってから急に「この瞬間に生きるだけ」と習慣を付けても遅いです。
 
――ワールドカップという4年に一度の大舞台だからこそ、メンタルの暴走が起きるわけですよね。ただ、本田の場合、彼は昔からそういうタイプでした。あえてビッグマウスになり無理な目標を公言することで自らにプレッシャーをかけて、その理想に実像を近づけていくやり方を選んできました。それは彼のキャラクターでもあります。
 
わかります。それは物事がうまくいっているときはいいんです。しかし、そうじゃなくなったとき、外側の結果にしかご褒美がない。ワールドカップが終わって、日本に帰ってきたとき、なぜあんなに神妙な顔で帰って来なければいけなかったのか。本当に一生懸命にやり切ったのなら、堂々と帰ってきても、ファンは認めるはずなんですよ。だけど、帰ってきたときの選手たちの暗さや肩にカバンをかけた姿は残念でした。結果がご褒美しかないチームというのは、やはりそうなるものです。“ご褒美=結果”だと悪い流れになったときに現状を打破しにくい。本田のご褒美は、今日を一生懸命に生きるいることに対する“充実感”ではなく“達成感”なんですよ。
 
――なるほど。達成しなければ満たされないわけですね。
 
そういうことです。でも、達成感というのは刹那的、結果に左右される発想だから、そのたびに疲れることになる。なんでもプラスに変えなきゃいけない。だって本田は雨が降っていても「いい天気だな!」と言うわけだから(笑)
 
――ポジティブシンキングで上塗りをするタイプですね。ただ、本田にとってはそれが彼の習慣だったわけで、この3戦の彼のパフォーマンスは直前の親善試合よりもむしろ良かったと、ぼくは思います。さすが本番で上げてきたなと思いました。ただ、他のメンバーはどうか、というところ。実際に本番で「勝たなければ」という殺伐とした空気が漂ったとき、本田の考え方では自分の力を出せなくなる選手が多くなったのではないかと感じました。
 
そう。ぼくは決して本田を批判するわけではないし、実際に成功者の一人であるわけで、誰も否定できないですよ。しかし、メンタルの上げ方として彼のやり方はレアなケース。チーム作りを本田一色のやり方にしてしまうと、ほかのメンバーがついていけるかどうか。それに最近のスポーツ心理学でも流行っていない手法です。最新のスポーツ心理学では、もっと禅に近くて、あるがままに受け入れて、あるがままを見つめながら、今の瞬間の充実感を味わう。それをやれば、結果は後からついてくる。羽生結弦だけでなく、イチローもそういう発想だし、吉田沙保里も、スティーブ・ジョブズもそう。
 
本田が入ってきて、個の強さを主張したのは素晴らしいと思います。ただ、個を主張する人は、チームのトップには向かない。スラムダンクで流川がキャプテンになっても困る。個を突っ走るから。問題は本田自身というより、チームの構造です。本田はメンタルが強いんじゃなくて、ポジティブシンキングで自分をだまして強がっている。
 
そこにみんなが巻き込まれる構造は困るんです。「本田はそう言うけど…」と、もっと年配の選手が言えないのかと。本田は突っ走っていいんです。それも本田らしさですから。しかし、そこにみんなが引っ張られるのはまずいということです。今回は長谷部が直前までケガをしていたのもあって、人選に問題があったと思います。
 

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聞き手・構成/清水英斗 写真/田川秀之・サカイク編集部

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