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こころ

選手とサポーター、サッカーファミリーをつなぐリスペクトの精神

2014年2月 6日

キーワード:フェアプレー

 フェアプレーとともに忘れてはいけない『リスペクト』の精神。相手を敬う、尊重するという意味なのは、サッカーファミリーの一員である皆さんはもうご存じですよね。日本サッカー協会(JFA)やFIFAも積極的に打ち出しているリスペクトの精神は、サッカーと私たちをつなぐ大切な合い言葉です。
 
<<若きバルサの選手たちが見せた、世界に賞賛されたフェアプレーとは
 
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■“名もなき”偉大なプレイヤー

 ヨゼフ・ソヴィネツというサッカー選手をご存じの方はいるでしょうか? おそらくどんなサッカー好きの人でも、彼のプレーを見た人はいないと思います。というのも、彼はスロヴァキアのアマチュア選手。ヨーロッパの舞台で活躍した経験があるわけでも、国際大会に出場したわけでもない“名もなきプレイヤー”です。そんな彼が、FIFA世界最優秀選手、ブラジルの怪物、ロナウドと並んでブラッターFIFA会長から表彰を受けたのは1997年のこと。
 
 73歳の彼が手にしたのは「フェアプレー賞」でした。1930年代にサッカーをはじめたというソヴィネツさんは、1993年に引退するまでの約60年間の現役生活の中で一度もイエローカードやレッドカードを受けませんでした。サッカー界にはプロ生活33年で警告なしというスタンリー・マシューズや同じく20年間警告すらなしというゲーリー・リネカーのようなレジェンドたちがいますが、FIFAはアマチュアとして生涯サッカーをプレーしてきた無名のプレイヤーにも『リスペクト』を示しているのです。
 
 このとき、フェアプレー賞を受賞したのは彼だけではありません。アイルランドのサポーターも、98年フランスW杯欧州予選でのフェアな振る舞いを讃えられ、表彰を受けています。
 
 有名選手だけでなく、すべてのサッカー選手に、そして選手だけでなくすべてのサッカーファミリーに。フェアプレーとリスペクトの精神はサッカーと私たちの間にあるとても大切なものなのです。
 
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■中村俊輔の元同僚とサポーターの絆が生んだ“リスペクトの1分間”

 どんなときでもフェアな応援で選手を励まし続けたアイルランドサポーターの例のように、スタンドとピッチが一体になって織り成すシーンもあります。
 
 2012年、セルティック時代に中村俊輔選手ともプレーした経験のあるブルガリア人、スティリアン・ペトロフに病魔が襲いかかります。
 
 プレミアリーグ、アストンビラのキャプテンとして攻撃の一切を仕切っていたペトロフは、ある日突然、試合中の高熱でピッチに立っていることすらままならなくなりました。試合を終え、診断を受けたペトロフは急性骨髄性白血病を患っていることが判明しました。すぐに治療のための療養に入ったペトロフですが、その知らせを聞いたアストンビラのサポーターたちは、彼を一人にはしませんでした。
 
 病気発覚後、初めてのホームゲーム。スタジアムを訪れたペトロフはスタンドから同僚たちのプレーを観戦していました。試合開始から19分、突然スタジアムが静まり返ります。一転、どこからともなく湧きおこる万雷の拍手。1分間続いたこの拍手はアストンビラの愛すべき背番号19、ペトロフのためにサポーターたちが送ったエールだったのです。
 
「言葉もない。孤独な闘病生活を送る人がほとんどなのに僕には多くのサポーターがついている」
 
 見慣れないスタンドからの眺めをさえぎるのは、ペトロフの目に滲んだ涙でした。
 
 2013年、ペトロフは、現役引退を表明します。1年をかけた治療は順調に進み、ほぼ回復状態にありましたが、33歳になったペトロフは復帰を果たすことはできませんでした。
 
 ブルガリア代表最多キャップ、欧州の舞台でも輝きを見せたぺトロフは引退に当たり「サッカーとともに過ごしたこれまでの人生には、感謝の念が尽きないね」と自らキャリアを振り返っています。
 
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■選手の命の危機を救ったサポーター

「お客様の中にお医者さんはいらっしゃいませんか?」
 
 ドラマでしか見たことのないようなシチュエーションですが、偶然居合わせたドクターに命を救われたサッカー選手がいます。
 
 2012年3月17日、FAカップの準々決勝、ボルトン対トッテナムの試合で事件が起きます。ボルトンワンダラーズのザイール共和国出身のイギリス人選手、ファブリス・ムアンバが突然ピッチに倒れ込みました。接触プレーもなく、崩れるように倒れたムアンバを見て、2003年のマルク・ヴィヴィアン・フォエ(マンチェスターシティ)や07年のアントニオ・プエルタ(セビージャ)、09年のダニエル・ハルケ(エスパニョール)の悲劇を連想した人も多くいました。
 
 この時、観客席からピッチに降り立ったのが、アンドリュー・ディーナーさんでした。ディーナーさんは心臓疾患が専門の医師。トッテナムのサポーターとして試合を観戦していました。「ムアンバの命が危ない」尋常ではない倒れ方に、ディーナーさんは係員に申し出て、救命治療にあたります。
 
 人工呼吸やAED、救急車が来るまでさまざまな救命治療を行いましたが、ムアンバの心臓が再び脈打ったのは搬送中の救急車の中だったと言います。およそ78分もの間心停止状態にあったムアンバは、奇跡的に助かりました。再び選手としてピッチに立つことは叶いませんでしたが、初動治療が命を左右するのが心臓疾患。ディーナーさんの的確な指示で一命を取り留めるに至りました。
 
 ムアンバとディーナー医師の話は、リスペクトやフェアプレーとは少し離れてしまいましたが、サッカーは選手やボール、レフェリーがいても成立しないスポーツだということがわかっていただけたはずです。
 
 子どもたちのサッカーでも、指導者や見守る大人、サッカーにかかわるすべての人がフェアプレーや、リスペクトの精神を持って行動し、子どもたちの活躍の場を作っていかなければいけないのです。
 
 
大塚一樹(おおつか・かずき)//
育成年代から欧州サッカーまでカテゴリを問わず、サッカーを中心に取材活動を行う。雑誌、webの編集、企業サイトのコンテンツ作成など様々 な役割、仕事を経験し2012年に独立。現在はサッカー、スポーツだけでなく、多種多様な分野の執筆、企画、編集に携わっている。編著に『欧州サッカー6大リーグパーフェクト監督名鑑』、全日本女子バレーボールチームの参謀・渡辺啓太アナリストの『なぜ全日本女子バレーは世界と互角に戦えるのか』を構成。
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文/大塚一樹 写真/新井賢一(U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2013より)

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