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こころ

誰が優れている、劣っているではなく選手の特徴を見極める(U-23日本代表 小倉勉コーチ)

2012年1月30日

キーワード:コミュニケーションコーチング五輪日本代表育成

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ロンドン五輪のアジア最終予選が、いよいよ2月5日からはじまります。5大会連続の五輪出場を目指すU-23日本代表チームにとっては正念場といえるでしょう。そんな代表チームを関塚監督の右腕となり支えている小倉勉コーチの講演会(主催:NPO法人 スポーツクラブネットワーク)が1月9日に東京都千代田区でありました。会場には、水泳、体操、サッカーなど、様々な競技の指導者が詰めかけ、熱心に話しに耳を傾けられていました。
 
 

■はじめに

冒頭でジョークを交えつつ、会場を和ませた小倉コーチ。その手には、いつの間にかサッカーボールがありました。そして「お話をする前にちょっとやってみたいことがあります」と受講者のなかから2、3人を前に招いて、「向こう側に立っている人の足の間にボールを通してみてください」とだけ言ったのです。ボールを渡された参加者は、それぞれが思い思いに、ボウリングのようにボールを手で転がしたり、キックをしたりして、3~4メートル先に向かい合った相手の足の間を狙いました。やがて、最後のひとりがドリブルをしてからシュートをし終えると、小倉コーチの話がはじまりました。
 
 

■言葉をかけることの重要さ

これは、20年位前に僕が小学生にサッカーを教えたとき、実際にあった出来事を再現したものです。僕はキックの練習をさせたかったので、「ここにボールをおくので、あそこに立っている友だちの足の間にボールを通してみよう!」とだけ言えば、子どもたちは自然にキックをするだろうと思っていました。そしたら、今皆さんがやったように、子どもたちも全員がバラバラなことをしだしたのです。ボールを蹴って入れようとした子もいれば、ドリブルをした子もいました。ボールを手に持って運んだ子もいました。
 
実はそのとき、僕は小学生の指導経験はほとんどありませんでした。だから低学年の子どもたちが、いっせいに違うことをやりだして、びっくりしてパニックになってしまいました。
 
考えてみれば、サッカーを知らない子どもたちに、何も説明をしないで練習をやらせようとしたら、いろいろなことをやりだしても不思議なことではありません。キックの練習をしたいのであれば、はじめる前に「こういう風なやり方でやってみよう!」とお手本を示したらよかったんです。「ボールをキックしてみようね」と言葉をかけていたら、子どもたちはボールを蹴ったかもしれません。そういったコミュニケーションの大切さを当時の僕は知らなかったんです。
 
 

■なぜ、厳しい環境のなかでも芝生は育ったのか?

それでは、指導者と選手とのコミュニケーションについて、2010年の南アフリカでのW杯のときに思い出深い話がありますのでご紹介しましょう。スイスで事前合宿をしたときのことです。標高1500メートル以上のところでのトレーニングだったのですが、グラウンドの芝生がすごくきれいに管理されていました。芝生を高地で維持するのは相当に難しい技術がいると聞いたので、芝生の管理をするグラウンドキーパーに秘訣を聞いてみたのです。すると「あなたたちコーチがやっているのと同じことをするだけだ」という答えが返ってきました。
 
 

■適切なタイミングと分量を見極めるために必要なのは『知識』と『情熱』

芝生というのは、そのときの気候によって、一日に撒く水の量や回数が全然違うのだそうです。一番大事なのは、“芝生に水をやりすぎてはいけない”ことだと言われました。水をやりすぎると根っこが生えてこない。だから腐ってしまって、弱い芝生になってしまうのです。かといって、水の量が足りなかったら芝生は枯れてしまいます。
 
雨の日も風の日も関係なく、毎日、同じ量の水や肥料を撒くのではなく、その時の状況に合った適切なタイミングと分量を与えるからこそ芝生は強くなるんです。そこが、サッカーの指導者である僕らの仕事は同じという意味だったのです。
 
つまり、指導者と選手のコミュニケーションと一概に言っても、肝心なのは、話かけるタイミングでありアドバイスをする量なのです。タイミングよくコーチングをしてあげると、子どもはとても素早く吸収する。でも疲れて目いっぱいの状態のときや、連日のようにくどくどと言われ続けると、子どもたちも芝生と一緒で弱ってしまう。逆に放任しすぎても、子どもたちは何も習得することはできずに枯れてしまうということなのです。
 
指導者は、その適切なタイミングと分量を見極めるために知識を習得し継続するための情熱をもたなければダメなのです。そのグラウンドキーパーは「俺の芝生に対する情熱は誰にも負けない。だから、ここの芝生は素晴らしいんだよ!」と胸を張っていました。指導者の皆さんも、彼に負けないくらいの情熱をもって子どもたちと接してほしいと思います。
 
 

■どのタイプが優れているのか?

もうひとつお話をしましょう。これもW杯のときのことですが、帯同するスタッフのなかにW杯を3回も経験しているベテラン料理人がいました。その料理人と話をしていたときのことです。「どっちの見習い料理人が一流になれると思う?」 と質問をされました。
 
まず、『レシピを見ないで見よう見まねで料理を覚えるタイプ』。もうひとりは、『レシピ通りに作るのが上手いタイプ』。
 
 

■肝心なのは、それぞれの特徴を見極めた指導をするということ

シェフの答えは、「どちらも一流になれる」でした。前者の自分の舌を頼りに作る料理人にはアドバイスはしにくいのですが、失敗をしたときなどに的確なタイミングでフォローすることができれば、とても伸びる可能性があるということです。
 
一方、後者のレシピを忠実に再現することのできる料理人は、アドバイスはしやすいのですが、それだけでなく、能力を活かせるように事前に状況を整えることが大切となります。今回はこの食材しかない、この条件で料理をしなければいけないなどと、事前に環境を調べることを怠らず、そこで自分の力を発揮できるように努力をすることができれば、一流になれるというわけです。
 
どちらのタイプでも、肝心なのは、アドバイスをする指導者によるところが大きいということです。団体競技であれば、チームのなかに、いろいろなタイプの人間がいるということを把握して、誰が優れているからとか劣っているからと決め付けるのではなく、その選手の特徴を見極めた適切な指導をすることが重要だということです。
 
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小倉勉//
おぐらつとむ
財団法人日本サッカー協会 ナショナルコーチングスタッフ。大阪府出身。府立摂津高校から天理大学を経て、89年に同志社香里高校にてサッカー指導者としてのキャリアをスタートさせる。90年にはドイツに渡り、ベルダーブレーメン(ドイツ)ユース、ジュニアユースの監督に就任。帰国後は、ジェフユナイテッド市原・千葉で育成部コーチ、強化部などを経て、2010年の南アフリカW杯に日本代表チームのコーチとして参加。現在は、U-23日本代表チームのコーチとして活躍している。
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取材・文・写真/山本 浩之、写真/小川博久

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