あなたが変われば子どもは伸びる![池上正コーチングゼミ]

2018年10月 9日

上手い子たちが後片付けをしない。「ドリブルが上手ければそれでいい」の空気を変えるにはどうすればいい?

上手い子たちが試合の後逃げるようにして片づけをしない。子どもたちの中には「自分さえよければ」という雰囲気がはびこっているが、上手ければいいのではなく、チームへの感謝や思いやりを持ってほしいと考えているコーチからのご相談です。

ドリブルをする目的は何か、みなさんは子どもたちに教えられていますか?

これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが授けるコーチングを参考にしてみてください。(取材・文:島沢優子)

※写真はイメージです。 質問者及び質問内容とは関係ありません (C)吉田孝光

<<説明しても理解できず味方とかみ合わない子。ポジションの役割や動きを教えるには?

<お父さんコーチからの質問>

U-12年代の指導をしているのですが、サッカーの上手い子は、試合の時に必要な部の荷物やグランドの後片付けを逃げる様にやらない選手が多いです。

個人のドリブル技術向上を目指すチームですが、子どもたちの中では「自分さえ良ければ」という雰囲気がはびこってます。

たしかに個人技は大事なことなのですが、サッカーはチームスポーツであることを理解して、感謝の気持ち思いやりを持ってほしいと思っています。

「上手ければそれでいい」ではなく、個人の技術をチームの為にという気持ちの醸成に必要なポイントがあれば教えてください。

<池上さんのアドバイス>

サッカーが上手い部類の子どもが、グラウンドで片付けや雑用をしない。
チームのなかに「サッカーが上手ければそれでいい」という空気が充満している。
それをどうしたらいいかというご相談ですね。

結論から申し上げると、これらは子ども個人の問題ではなく、チームがつくりだしているのではないでしょうか。
なぜなら、相談文のなかに「個人のドリブル技術向上を目指すチーム」と書かれていたからです。

■チーム内にカーストができていないか

質問者様にお会いしてはいないので想像の域になりますが、子どもたちは以下のような状況ではありませんか?

「僕はあいつよりドリブルがうまい」
だから、片付けなんかしなくていい。下手なやつにやらせておけばいい――そうなったら、「上手ければそれでいい」という感覚になります。

「個人のドリブル技術向上」に重きを置いているため、その技術を選手同士が比べあって、「ドリブルが下手な人は片付けする人」といったカーストができてはいないでしょうか。つまり、ドリブルの上手い下手で、チームに序列ができ階層化されてしまうわけです。

そのことを証明する文献も出ています。
10年以上も前に、ドイツの心理学者が「サッカーで個人のトレーニングをたくさんやりすぎると、チームメイトのことを考えられなくなる」という論文を書いています。サッカーは選手が協力し合って戦うチームスポーツなのに、練習のもって行きかた次第で弊害が起きることを証明。警鐘を鳴らしたのです。

論文の影響は定かではありませんが、ドイツサッカー協会は個人技術を上げることに特化せず、ほとんどの練習メニューを他者とのコンビネーションのなかで個人技術をアップさせる方法を考えました。

日本では「ボールコントロール」と位置付けられているトラップ練習などが、ドイツでは「コンビネーション練習」として扱われています。他者とかかわりを持ちながらスキルを上げていく工夫がなされているわけです。

■ドリブル=相手を抜き去るだけのスキルになっていないか

日本は今でも、ドリブル練習と言えばコーンドリブルを長くやらせるチームが少なくありません。私のなかでコーンドリブルは、自分で自分の体をスムーズに動かす神経系を鍛える「コーディネーション」のトレーニングと位置付けているので、たくさんやらせません。行うときは、ふたりで交差したり、ボールを交換するような他者とかかわるものに変えています。

そもそも、コーンドリブルの動きはサッカーの試合では使いません。サッカーのドリブルは、周囲の状況によってどこに運ぶか、どの方向でどんなスピードで、どんな目的をもって行うかが重要です。

私は指導者講習会でみなさんにそのことを説明します。

「みなさんの感覚では、ドリブルがアタックのみになっていませんか。だから、ドリブルが選手にとって相手を抜き去るだけのスキルになっている。そうではなくて、ドリブルでどこに移動すれば相手に獲られないか、とか、どうドリブルすればパスコースが探せるかといったトレーニングを増やしましょう」

サッカーは、チームで協力し合ってボールをゴールに運ぶスポーツなのに、日本は「目の前の相手を抜きなさい」「(ドリブルで)勝負しろ」と大人が指示しています。そうなると、ドリブルがうまい子が一人で抜いていくことになります。

周りも、その子がボールを持ってドリブルを始めると任せきりになります。「○○君が抜けなくなったときにサポートしよう」という空気が無くなってしまいます。

それに、ドリブルしている選手をサポートするのは非常に難しいものです。自分のタイミングで抜いて行くのでどこでサポートに行けばいいか測りかねます。ここぞのタイミングで「こっち、こっち」と呼んだとしても、本人は目の前の相手だけを抜くことに執心しているため気づいてくれません

せっかく動いても見てもらえないので「もういいや」とあきらめて見ていると、相手につかまってボールを奪われてしまう。そこで、大人から「他の子、サポート行けよ」とか「他の子はなにやってるの?」と叱られてしまうのが現実です。


そんな選手やチームを、私もたくさん見てきました。

よって、ここはまず、指導者がドリブルの技術を少し整理してみてください。

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