あなたが変われば子どもは伸びる![池上正コーチングゼミ]

2018年6月29日

心が弱い今どきの中学生。短期間で強くするにはどんな指導をすればいい?

全国を目指す中学生チームのコーチからご相談をいただきました。「今どきの子どもたちは心が弱いと感じる」とのことですが、みなさんのチームの選手はどうですか? 試合に勝つためにも、サッカーがもっとうまくなるためにも強い心を育てることは大事なことです。

これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんは今回どんなアドバイスを授けたのでしょうか。(取材・文:島沢優子)

※写真はサカイクキャンプの写真です。 質問者及び質問内容とは関係ありません

<<小学生の指導との違いは。 ボールを蹴ったこともない年少さん、どう教えたらいい?

<お父さんコーチからの質問>

いつもアドバイスありがとうございます。
全国を目指す中学生のコーチです。

指導の中で今どきの子ども達は心が弱いと感じているのですが、短期間で心を強くする方法があれば教えていただけませんでしょうか。

 

<池上さんのアドバイス>

ご相談、ありがとうございます。

今の中学生に対し、どういうところを指して心が弱いと表現されているのか。どこをどんなふうに感じられているのかは、ご相談の文章だけではわからないので、ここは私の想像の範囲でお答えしましょう。

試合で負け始めるとすぐに下を向いてしまう。
相手が強いと、練習してきた自分たちのサッカーをしなくなる。
例えば、そんなことでしょうか。

■点を取りにいかないのはフェアプレーじゃない

ジェフ千葉で育成に携わっていたある時期、中学1年生の担当コーチを務めたことがあります。

同じJリーグ下部組織の中学生に、ある試合で0対9で負けていました。選手は全員下を向いています。表情は暗く、声は出ず、動きも緩慢。プレーしていない状態でした。
「どうしてプレーしないの? 大差で負けているからって点を取りにいかない、あきらめてしまうのは、フェアじゃないよ。最後までフェアプレーしよう」

そんなことを話しました。ほかの試合で劣勢になっても「フェアプレーをしよう」と声をかけ続けました。そのうち、彼らはどんなに負けていても取り返しにいくようになりました。タフになったのです。

コーチの皆さんの多くは、目の前で自分が教えている子どもたちが大差をつけられると感情的になって怒鳴ったり、嘆いたりしていないでしょうか。

でも冷静に考えると、0対9で負けるのは悪いことではありません。たまたま相手とは力の差があった。それだけのことです。失点したことを責めるのはおかしなことだと私は思います。

そうではなく、点を取り返しにいかないことに対し、前述のように「どうして取り返しにいかないの?」と追及すべきです。

■「これをやったらもっと強くなる」と感じれば自ら取り組む

私は昨年から中学校のサッカー部の外部指導員として、住んでいる町の中学校2校を指導しています。

ひとつの中学校は、全員1年生というかたちでスタートしました。試合をする中学は3年生がいるので、最初のころはいつも5点差くらいで負けていました。なかなかゴールも奪えません。

でも、中学生はみんなサッカーが大好きです。顧問の先生が用事でいないときなどに私が「こんな練習してみる?」と誘うと、「やります!」と言って興味を持って取り組んでくれます。

「こんなプレーを覚えてみようか」
「こんなふうに早くボールを動かすと、もっとシュートチャンスが生まれるよ」

そうやって練習しているうちに、試合で先制点を奪うようになりました。成功の秘訣は、それまでよりも早く判断する・早くパスを出す・早くサポートする。そういったスキルを磨く練習を重ねてきた結果、彼らはぐんぐん強くなりました。

とはいえ、まだスタミナ不足の1年生。序盤こそ点を取りますが、疲れてくると足が止まって逆転されたりします。

そのような状況になると「体力がないからだ」と走り込みをさせる指導者もいますが、私はその選択はしません。

「フレッシュなときのようにいっぱい動かなくても、賢く動くとパスはつながるよ」と話し、それに対応できるトレーニングをしてもらいます。
「これをやったらもっと強くなる」「もっとうまくなる」「勝てるかも」と思っているのでしょう。一生懸命取り組み、声も出てきます。なにより、その姿は楽しそうです。

どのようなトレーニングかというと、まず数的優位をつくることを理解してもらいます。
「サイドにボールがいくよね。相手が縦を抑えにくると、どうずらすと2対1の状態になる?」そんなふうに話しながら、いくつかの状況を見せます。

「これは何対何?」「この状態だと何対何になる?」
そういった考えるベースを与えると、彼らは自分たちで取り組み始めるのです。
「知らなかった。これ、やろうぜ」と、エネルギーを満タンにして走り始めます。

いかがでしょうか。
そのような彼らの姿に、心の弱さは感じられません。

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