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蹴球子育てのツボ ~サッカーで子どもは一人前になる~

やめたり戻ったり。移籍を誘導し息子を傷つけてしまった問題

公開:2020年10月28日 更新:2020年11月30日

キーワード:ほどよい母親ウィニコット移籍自分で決める試合に出られない過干渉

全国を目指すレベルなので、日々の練習や土日の遠征などいろんな面で過酷だからと親の判断で移籍させたが、退団したことを後悔し、前のチームに戻ったけど1年のブランクは大きく下の学年にも抜かれ試合に出られそうにない。

自分が先導して移籍させた選択が良くない方向に行ってしまい、わが子を傷つけた。卒業まで2年半ぐらいあるけどどうすれば......。というお悩みをいただきました。

親の判断で移籍させるかどうか、悩んだことがある方もいるのでは。

今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、取材で得た知見をもとにアドバイスを授けますので参考にしてください。
(文:島沢優子)

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写真は少年サッカーのイメージです

 

<<スパルタ母のしごきで息子がやる気喪失。父はどうすりゃいいの問題

 

<サッカーママからのご相談>

はじめまして。 このような相談できる場所があり、ありがたく思います。

小4の息子はスポ少に所属しています。全国を目指すチームなので、まあまあレベルは高いです。

1年生からサッカーを始めましたが、3年生から4年生までの1年間、毎朝学校が始まる前の1時間の練習と土日の県外遠征などあまりに過酷だと感じ他のチームに移籍しました。
ですが、少年団を辞めたことを後悔し、4年生になった今年の春、また全国を目指す今のチームに戻りました。

しかし1年のブランクは大きく、同学年の子どころか下の学年の子にも抜かされてしまっており今後も試合には出られそうにありません。

それもこれも全て私が移籍を誘導をしてしまった結果だと思います。私が良かれと思って選んだ道が最悪な方向に行ってしまい、我が子を傷つけることになってしまいました。

息子はまた頑張ったらみんなに追いつけると思っていますが、全国を目指すチームなのでそう甘くはありません。周りの子どもたちもみんな頑張っていて日々上達しているので、1年間緩い練習をしてきた息子との差が縮まるとも思えません。

こんなにも厳しい現実が待っているとは気がつかず、またチームに戻してしまいとても後悔しています。辞めて後悔、戻っても後悔。

あと2年半どのように過ごせばよいでしょうか。 よろしくお願いいたします。

 

 

<島沢さんのアドバイス>

ご相談のメールをいただき、ありがとうございます。

「あと2年半どのように過ごせばよいでしょうか?」

お母さんは、私にそう問われていますが、2年半をどう過ごすかを決めるのは、息子さんご自身です。

まず、その考え方を変えましょう。

 

■サッカーも勉強も子どもが自分の意思で決めること、と胸に刻んで

サッカーも、勉強も、進路も、もっと言えばその日をどう過ごすかも、息子さんの意思で決めることです。息子さんの人生は、息子さんのもので、お母さんのものではありません。

そこをまずは自分の胸に刻んでもらえませんか? そうしなければ、過度な干渉をやめるスタート地点に立てません。この連載や、それ以外でも、子育てが上手くいかないケースの大きな要因は、親御さんの過干渉であることが非常に多いです。ぜひ、「過干渉な親からの脱却」を目指してください。

いまは、非常にお辛いですね。自分が指図しなければ、とか、干渉しなければこうならなかったと後悔の日々かと思います。しかしながら、お母さんはご自分の力で、子育ての失敗にすでに気づいています。

「私が移籍を誘導をしてしまった結果だと思います。私が良かれと思って選んだ道が最悪な方向に行ってしまい、我が子を傷つけることになってしまいました」とご自分で書かれていますね。

このように、大人になって自分自身の行いを否定するのは勇気のいることです。

ところが、お母さんはそれができている。お母さんは、人を育てる力があるのです。どうか自信を失わず「今から過去のダメ親だった自分にリベンジするのだ」という勇気を持ってください。

以下、私から三つアドバイスさせてください。

 

■まずは自分の行動の間違いを認め、お子さんに謝ることが重要

まずは、息子さんに謝りましょう。

●チームの移籍をお母さんが誘導し、振り回してしまったこと。
●その際に、息子さんととことん話し合うなど、時間の余裕をもたなかったこと。
●息子さんの意見をじっくり聞かなかったこと。
●「このチームはあまりに過酷だ」とか「やはり元のチームのほうが」などと、お母さんの感覚や考えを基準に移籍を繰り返し、息子さんの気持ちを最優先してこなかったこと。
●過干渉な母親だったこと。

そのあたりをきちんと伝えましょう。その際は「許してね」などと許しを請うのではなく、とにかくご自分の行動の間違いを認め、謝ることが重要だと思います。

二つめは、子育てを勉強してください。

過干渉が子育てにどんな悪影響を及ぼすか、それを学んでください。ネットに「子育て、過干渉」と打ち込んでもいいし、そこに「サッカー」を入れてもいいでしょう。過干渉親についての本もたくさんあります。

同時に、干渉せずに子どもを育てるメリットも学んでください。例えば、子どもは「選ぶ」機会を増やすことで成長していきます。そのためには、小学生段階で親は離れたほうがいいのです。

例えば、私が十数年前に勉強した、イギリスの小児科医で臨床心理の専門でもあるウィニコットの教示をお伝えします。

ウィニコットは、母親と子どもとの関係において「ほどよい母親(good enough mother)」であることが大切だと言います。

「ほどよい母親というのは、初めは幼児の欲求にほぼ完全に応じ、やがて時間の経過につれて、母親がいなくてもひとりでいられるようになってきたら、子どもへの対応を少しずつ減らしていく」

つまり、「初めはしっかりと子どもに関わり、だんだん離れる育児のできるお母さん」が「ほどよい」。このグッド・イナフ・マザーをぜひ心がけてください。

 

■親の言う事を聞いていればいい、という育児は間違い

また、日本の著名な小児科医は、親が手をかけて子どもを「育てる力」と、子ども自身の中にある「育つ力」の関係性を以下のように解説しています。

●0~3歳頃 「育てる力」>「育つ力」(育てる力が上回る)
●4~6歳頃 「育てる力」=「育つ力」(両方の力が同じくらい)
●7歳以上  「育てる力」<「育つ力」(育つ力が上回る)

この説明からわかるように、子どもが小学校に入学したら、「育つ力」を信じて、子どもの成長を見守るような親御さんが、子どもを成長させるのです。ぜひ、そういったことを学んで、過干渉親を脱却する糧にしてください。論理を根っこから理解せず、「干渉しないほうがいい」と他人から言われたところで、人はそうそう変われません。ぜひぜひ、子育てを学んでください。

なんで今更子育てなんか勉強しなきゃいけないの? と思うかもしれません。が、私たちの多くが施された、圧迫して、厳しく言い聞かせて、お母さんの言うことを聞いていればいいのよ、という子育ては、実は間違っています。違う手法をぜひ身に着けましょう。

 

■子どもが自分で考えて決める機会を与えてみよう

そして、三つめ。

干渉をやめるには、まず、上記の考え方をご自分に刷り込んでいく作業が必要です。

日常生活から、「どうしたい?」「どうする?」と問いかけます。お手伝い一つでも、あれやって、これやってと頼むのではなく、何か手伝えることがあるか自分で考えてやってみて、と伝えましょう。

二度の移籍を、親御さんに従い、ついてこられた息子さんは、もしかしたら従順に育っていないでしょうか? よく言えば素直。違う見方をすれば、自分で考えられない、自分で決められないところがあるかもしれません。

ただし、それは彼に能力がないわけはまったくありません。これまで、そういった自ら考える、悩む、決める機会を与えられてこなかっただけです。

ここからが、子育てのやり直しの一歩です。

 

次ページ:親としてのリスタートであり、大きなチャンスでもある

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文:島沢優子

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