蹴球子育てのツボ ~サッカーで子どもは一人前になる~

2017年6月22日

新しいクラブで試合に出られない プレーが消極的な息子をどう支えたらいいの問題

■親ができることはただひとつ

ご相談の方の話に戻りましょう。息子さんが全力で頑張れるには、親は何をすべきか。それはただひとつ。息子さんの話をじっくり聞いてあげることです。
 
自分の気持ちをわかってもらえると、子どもは安心します。10歳ということはまだ4、5年生ですね。この学齢は「前思春期」といって、反抗期が始まる直前のころです。親に自分の気持ちを吐露する素直さのかけらが残っています。
 
「今のチームでサッカーするとき、どんな気持ちなの?」
「難しいなって思うところはある?」
「嫌だなって思うことは?」
 
そんなふうに心情を聞きます。せっかちな親御さんは、聞く時間をついつい短縮してしまい「少し自主練したら」などとついお説教に突入しがちです。私もそうだったので、よくわかります。
 
よって、話していて(自分がしゃべり過ぎかも)と感じたら、すぐに謝って聞き直せばよいのです。「ごめんね。お母さん、しゃべり過ぎだわ。君の気持を聞かせて」と。子どもは、親がああ言いたい、こう言いたいといった葛藤と戦いながら自分と向き合ってくれていることにどこかで気づくはずです。そんなコミカルな時間だけでも、絆は十分深まるはずです。
 

■たかがサッカー、親の心が安定していると子どもの心も解放される

ご相談のお母さんが「親としてどう支えてあげれば」と書かれていることは、大きな救いです。チームが無くなって揺れているわが子を支えるという気持ちを忘れずに、ゆったり付き合っていきましょう。
 
4、5年ならば、男の子はここから中学生の間まで、急激に体格が変わってきます。サッカーでも、試合に出られなかった子が急に成長して頭角を現わしたり、逆に追い越されることもあります。
 
「この子は、これからどんなふうになるのかな?」
 
そんなふうにゆったりした目線で眺めてあげてください。お母さんのどっしり構えた態度が、お子さんの気持ちの安定を促します。ちょっと難しいなと感じるかもしれませんが、いわば「たかがサッカーじゃん。楽しくやってくれればいいや」と開き直る感覚。親が開き直った瞬間に子どもは心が解き放たれるのか、案外それが奏功して伸びるものです。
 
手前味噌ですが、拙書『部活があぶない』(講談社現代新書)に、子どもとの向き合い方も書いています。現代の子育ては、主体を「子どもに持たせるか」、「大人が持つか」で、その子の育ちは大きく変わるような気がします。よかったら参考にしてください。
 
 
島沢優子(しまざわ・ゆうこ)
スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実 そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てる テニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。
最新刊は、ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)。

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