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イタリアのサッカー少年が蹴球3日でグングン伸びるワケ

第4回 イタリアの親たちは子どもに期待を押しつけない

公開:2018年12月20日 更新:2018年12月26日

キーワード:イタリアカルチョの休日トレーニング休息子どもたち小学生自己犠牲過剰な期待

朝練なし、居残り練習なし、ダメ出しコーチングなし、高額な活動費なし。ワールドカップで4回の優勝経験があるイタリアの小学生は蹴球3日でグングン伸びる。カルチョの国の少年たちと日本の育成現場は何が違うのでしょうか。

ロベルト・バッジョにほれ込みイタリアに渡って20年、現在は14歳の息子のサッカーライフを通じ、イタリアのサッカー文化を日本に発信する筆者が送る、遊びごころ満載の育成哲学とイタリア流ストレスフリーな子育てを描いたサッカー読本「カルチョの休日 -イタリアのサッカー少年は蹴球3日でグングン伸びる-」から、内容を少しだけご紹介します。

前回はイタリアのサッカー少年の年間、月間スケジュールが休みだらけなことを紹介しました。日本の子どもたちの練習時間との違いに驚いたのではないでしょうか。休養こそ最高の練習というイタリアの指導の考え方は、子どもたちのけが予防のためにも参考にしていただきたいところです。

第四回目はイタリアの親御さんについて日本との違いを紹介します。セリエAという世界最高峰のトップリーグを持ち、少年サッカーの応援現場でも大騒ぎして盛り上がるラテンの国イタリアですが、保護者の子どもにかける期待については日本とは大きく異なるようです。

(テキスト構成・文:宮崎隆司)

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■ネガティブな声掛けをしない"パパ軍団"

日本の親は子どもの勉強やスポーツを熱心に応援します。それはとてもいいことですが、イタリアの親と比べると、「子どものため」という気持ちがちょっと強すぎるようにも感じられます。

「こんなに応援しているのに」
「せっかくお金を出してあげたのよ」

そういった親の過剰な期待自己犠牲は、子どもの重荷になりかねません。サッカーは誰のためでもなく、自分のためにやるもの。そうでなければ楽しめず、結果的に上手くはならないと思います。

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"La partita più bella è quella del figliolo(世界で最も美しいのは我が息子の試合)"。イタリアの父親たちは今日もグラウンドにやって来る。

イタリアの父親たちはいつでも、練習場や試合会場で大騒ぎして盛り上がっています。そんな彼らを目にしながら、私がとてもいいなあと思うことがあります。それは子どもが落ち込むようなネガティブな声かけをしないということ。「なんでできないんだ?」とか「そうじゃないだろ!」といった声は、イタリアではまず聞きません。

イタリアの父親たちは、わが子がグラウンドで弾けているのを見るだけで心が満たされるのです。子どもたちに負けじと大騒ぎする父親たちの姿は、「自由に生きていいんだぞ」という子どもたちへのメッセージなのかもしれません。

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週末の試合を楽しむイタリアのパパ軍団と子どもたち。

■"熱心なサッカーママ"がいない?

イタリアの少年サッカーのグラウンドに集まるのは父親ばかり。たくさんの母親が見守る日本とは、だいぶ雰囲気が違います。

例えば私の息子が所属するフローリア2003では、練習上がりの子どもを迎えに来る"マンマ(お母さん)"はクリスティアンの母親サマンタだけ。リーグ戦を見に来るのは多くて3、4人といったところです。

では試合に来る数少ない母親たちは、どんなふうに子どもを応援しているのでしょうか。

彼女たちは「行け! 決めろ! キャー!」などと金切り声で叫ぶことはありません。ましてや戦術論をぶったりするようなこともありません。イタリアでは「サッカーは男のもの」と相場が決まっているからです。

彼女たちは、ひたすら子どもの無事を祈っています。ほとんどサッカーに興味がない彼女たちも、このスポーツがとても激しいことだけは知っているのです。

ただフローリア2003の母親には、一人だけ例外がいます。クリスティアンのマンマ、サマンタです。ナポリ生まれの彼女は、オペラ歌手のようによく通る大声で、「ちょっとあんたたち、うちの子をケガさせたら、ただじゃおかないからね!」と、対戦相手の子どもたちを"威嚇(いかく)"して、笑いを取っています。

イタリアの子どもにとって、母親は"ブレーキ"役にもなっています。

「たくさんゴールを決めて、ついでに彼女も見つけてこい!」と息子の背中を押すアクセルが父親なら、「サッカーに行くなら、その前にちゃんと宿題しなさい!」とブレーキを踏むのが母親です。そんなうるさい母親の監視の目をかいくぐり、子どもたちは仲間たちが待つ公園を目指す。

イタリアの家庭では今日も母と子の果てしない駆け引きが繰り広げられています。

■子どもを抱きしめるということ

うちの息子は練習場や試合会場で、クリスティアンのマンマ、サマンタに会うたびに、彼女の"むぎゅー"と"ぶちゅー"の餌食になります。

むぎゅーとはハグ、ぶちゅーとはキスのことです。イタリアでは誰もが挨拶代わりにこれをしますが、ナポリ人サマンタのそれは、とにかく熱烈。うちの息子のほっぺにはいつも真っ赤なキスマークがつきますが、もう慣れたものです。

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息子のチームメイトのマッテオ(右)とその母ロザンナ。イタリアでは親子でハグする光景をよく目にする。

これはコーチと子どもの間でも、よく見られる光景です。

例えば、簡単なシュートを外した子どもを、コーチはハーフタイムに抱きしめながら、「気にしなくていいぞ。次、決めればいいんだから」と励まします。背中をポーンと叩いて送り出してあげれば、さっきまで泣きべそをかいていた子どももキリッとした表情を取り戻してグラウンドに走って行きます。

イタリアのグラウンドには子どもを肩車したり、お姫様抱っこをして走りまわるコーチの姿があります。コーチは怖くて偉い人ではなく、一緒にサッカーをする優しくて楽しいお兄ちゃん。懐の大きなコーチに見守られて、イタリアの子どもたちは成長していきます。

そして、グラウンドの脇ではお爺ちゃんたちがかわいい孫の姿に目を細めています。私の息子が幼いころに通っていたグラウンドでは、あるお爺ちゃんが子どもを近くに呼び、抱っこしながらこんなふうに語りかけていました。「中盤じゃなくて前線の左でプレーしてごらん」。子どもたちに最も適したポジションを一発で見抜くその人の名は、クルト・ハムリン(※)。1958年のW杯決勝を戦ったスウェーデン代表のエースの優しい言葉は、多くの子どもたちの心の中に大切な宝物として残り続けています。

※フィオレンティーナで208ゴールを記録した往年のストライカー。イタリアには一つひとつのグラウンドに名前をつける慣習があり、筆者の息子が7歳当時に仲間たちとボールを蹴っていたグラウンドの名が、まさに「Campo Hamrin(ハムリン・グラウンド)」だった。今年84歳となる名伯楽には筆者の息子もよく可愛がってもらったという。

いよいよ連載最終回となる次回は、愛と情熱あふれるイタリアの指導者の姿をお伝えします。

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※本連載は書籍『カルチョの休日 イタリアのサッカー少年は蹴球3日でグングン伸びる』から抜粋して加筆しています。人物の年齢等は書籍出版時点のものです。

<著者プロフィール>
宮崎隆司(みやざき・たかし)
イタリア国立ジャーナリスト協会会員。イタリア代表、セリエAから育成年代まで現地で取材を続ける記者兼スカウト。元イタリア代表のロベルト・バッジョに惚れ込み、1998年単身イタリアに移住。育成分野での精力的なフィールドワークを展開。圧倒的な人脈を駆使し、現地の最新情報を日本に発信。主な著書に『カルチョの休日 イタリアのサッカー少年は蹴球3日でグングン伸びる』(内外出版社、2018)ほか。サッカー少年を息子に持つ父親でもある。

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構成・文・写真:宮崎隆司

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