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男の子とはココが違う! サッカー少女の育て方

パスを磨くが女子の道

2014年6月19日

キーワード:女子指導

「この監督はすごい! 練習もすごいけど、こんなサッカー見たことない」
 
以前に配信した「いつも私を見ていてくれる。その思いが子どもを伸ばす」の記事で紹介した故・阿満憲幸さん。なでしこジャパンの安藤梢は子どもの頃、その指導法に心から信頼をよせていました。そして、さらに阿満さんのサッカーに驚かされます。今まで見たことのないプレースタイルを目の当たりにしたからです。それがパスサッカーでした。
 
今回は日本女子サッカーの真髄であるパスサッカーをテーマにします。ここで描かれている、ある指導者の情熱と少女チームへの愛情は、娘を育てる親にとっても胸を打たれるのではないでしょうか。サッカーの指導は、どこか家庭の中の教育と通じる部分があるかもしれません。
 
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(取材・文/上野道彦 写真/金子悟)
 
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■走って蹴るサッカーだけは絶対にやりたくない!

1992年、女子チーム『河内SCジュベニール』を作った阿満さんは悩みに悩んでいました。もともと少年サッカーを教えていたなかで、女子チームをつくるにあたり、女の子に合うサッカーを探していましたが、答えが全く見つからなかったからです。
 
当時の様子を奥様である文子さんはこう話しています。
 
「少女に合うサッカーはなにか。主人は相当考え込んでいましたね。サッカー雑誌や映像なんかをすべて見ていました。何日も何日も悩んでいましたね…」
 
日本のサッカーだけにとどまらず、世界のサッカーの試合映像を片っ端から見ていたそうです。阿満さんはセリエAが大好きでしたが、ヨーロッパの映像のみならず、南米のサッカーも観ていました。その中にはトレーニングビデオもあって、その内容を細かく書き写して子供たちにやらせたりもしていました。
 
「女子にはどんなサッカーが合うのか…なにが一番向いているのか…。男子のフィジカル(体力)やスピードに勝てるものはなにか? 「蹴って走るサッカー」だけは絶対にやらせたくない。あれは見ていてもおもしろくないし、好きじゃない」
 
日本の女子に最も合うスタイル。悩み続けた末、ついに阿満さんはひとつの答えを出しました。それがパスサッカーです。細かくパスをつないで、チーム全員でボールを回す。相手にボールを持たせず、パスを回しながら相手の守備をかわしゴールを目指すというものです。
 
「これだ! これが女子に一番合っているスタイルだ」
 
驚くべきことに、なでしこジャパンが世界一になったサッカーがパスサッカーでした。阿満さんはそれより約20年も前、女子サッカーがまだ蹴って走るサッカーだった時代に、たったひとりでこの答えを導き出しました。
 
栃木県の小さな田舎町で、日本の女子サッカーの『未来』が産声を上げました。
 
 

■女の子の教育では大事な要素―練習メニューで飽きさせない工夫

「あそこの女子チーム、おもしろいんだよ。ほかじゃやってないサッカーをやるって」
「え!? でもサッカーって男の子がやるものじゃないの?」
「そんなことないって。見ればわかるって。今度の休み、いっしょに見に行こう!」
 
この頃、ジュベニールの噂は広まり、チームに入りたい女の子がどんどん増えていったそうです。メンバーも20人以上となり、ひとつのチームができ上がりました。
 
安藤もチームもパスサッカーを習得し、ますますサッカーの面白さに取り付かれていきました。その頃から安藤のポジションはFW。ワンツーなどのパスワークから練習試合で得点を重ねていました。阿満さんの指導もあり、選手もチームも急成長していきました。その頃、阿満さんが掲げたチームのモットーがあります。
 
見て楽しい、やったらもっと楽しいサッカー
 
安藤も、ジュベニールでの練習は楽しくてしょうがなかった、と思い出しながら話します。少年以上に感情の起伏が激しい傾向にある少女を育てるのに、特にこの感覚は大事でしょう。練習メニューで飽きさせない工夫は指導者にとってなにより重要です。また、勉強や習い事などでも、女子には「楽しい」という要素が大事だと思われます。
 
 

■チーム結成から半年で関東大会ベスト8へ!

チームが作られて半年が経ち、安藤は小学4年になっていました。チームの完成度を見た阿満さんは大会に出場することを決めます。JFA(日本サッカー協会)主催の全日本少女サッカー大会の関東大会です。それを聞いてメンバー全員が驚いたそうです。
 
「チームはまだできて1年も経っていないし、試合も数えるほどしかやっていない。いきなり大会なんて…」。
 
ところが、この大会でジュベニールはサッカー関係者を驚かせることになります。関東大会は神奈川県厚木市で開催されました。参加者には全国的に有名なクラブや強豪チームも入っていました。ジュベニールは一番若いチームでした。
 
試合が始まると、ジュベニールの選手はボールを奪った選手から次の選手へパス、さらに次の選手へとパスがおもしろいようにつながりました。相手選手がボールを奪いにいこうとすると、すぐサポートに入っている選手へパスが通る。
 
「ボールが奪えない、どうして…?」
 
相手チームは翻弄され、最後はただ見ているだけに近い状態になってしまいました。安藤が公式戦で初めてのゴールを決めるなどチームは快進撃、なんと初めての大会参加でベスト8へ進出しました。阿満さんが考え出したパスサッカーは間違っていないことが証明されたのです。
 
しかしサプライズはこれで終わりませんでした。
 
 

■パスサッカーの奇跡―中学生が大学生に勝利した日

安藤が中学1年生になった時です。
 
全日本女子サッカー選手権大会(現・皇后杯)―
 
JFA(日本サッカー協会)に登録した中学生以上の選手により編成された、クラブ・大学・高校などが参加する大会。これにジュベニールは参加しました。関東予選の2回戦、チームはあの筑波大学とあたり、1-1からPK戦の末、見事勝利したのです!勝因はパスサッカーにありました。勝利が決まった瞬間、選手は一斉に阿満さんのもとへ走って行きました。阿満さんは子供たちを抱きしめました。
 
「よくやった。みんな、よくやったぞ!」
 
チームメイトは全員泣いていました。
 
残念ながら3回戦はLリーグ(現・なでしこリーグ)のチームにあたり、大差で敗れました。しかし、この快挙は地元新聞でも取り上げられ、ジュベニールの名前は一躍全国的なものになりました。阿満さんの下には、多くの指導者が練習見学など教えを請いに訪れてきたそうです。こうやって、パスサッカーは全国の少女チームが参考にするようになり、現在の日本のスタイルへとつながっていきます。
 
阿満さんというひとりの指導者が日本の女子サッカーの流れをつくりました。そこにはサッカーへの情熱と溢れんばかりの子供たちへの愛情がベースにありました。今後の日本において、サッカーは少年のものだけでなく、少女の成長にも大きな役割を果たすスポーツとなっていきます。
  
ひとりでも多くの少女にボールを蹴る喜び、サッカーの楽しさを知ってもらい、またサッカーでしか学び得ないことを学んでいってもらいたいものです。それはきっと、彼女たちにとって、かけがえのない財産となっていくことでしょう。
 
 
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取材・文/上野道彦 写真/金子悟

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