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こころ

錦織圭のプレーにみる!スポーツをする本当の意味とは?

2014年10月 7日

キーワード:スポーツスポーツマンシップ育成錦織圭

2014年の今年、日本を代表するアスリートたちが国際大会で目覚ましい活躍を見せています。アジア大会における日本の競泳陣の活躍なども記憶に新しいところ。しかし、なんと言っても特筆すべきは全米オープンテニス大会における錦織圭選手の決勝進出でしょう。一方で、残念賞はザック・ジャパンではないでしょうか?
 
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文 広瀬一郎 Photo by Kate
 
<<あなたは子どもに説明できる? 体育とスポーツの違い
 

■サッカーはうまいが子どもだった黄金世代

わたしは、ここ7年ほど体育協会の上級指導者の育成セミナーの講師をしています。このセミナーを受講しないと、バレーボールやバスケットボールなどの日本代表監督にはなれません。わたしの担当は「日本のスポーツをめぐる新しい環境と、適切な対処」です。今年のセミナーでは、各競技団体のエリート指導者たちに「あなたたちは、錦織のような選手を育てたいと思いませんか?」と尋ねると、一様に頷いていました。ところが、「では、あなたたちに錦織を育てる自信がありますか?」と聞くと、みなさん下を向いてしまいました。次にこんな質問をしました。「錦織はアメリカのテニス・アカデミーで育成されました。では、アメリカのテニス・アカデミーが日本校を開き、まったく同じ育成方法を適用したら、日本でも第二の錦織は育つでしょうか?」これにもみなさん、自信なさそうな表情でした。さすがに育成のエリート指導者たちは、問題の本質が分かっているようです。錦織圭は、競技のコーチだけでは育てないのです。
 
かつて、テニスの伊達公子選手と対談したことがあります。伊達は最強のライバル、シュテフィ・グラフと何度も対戦しましたが、「筋力や体格や体力などで、敵わないと思ったことはなかった」そうです。伊達の言い方を借りると、彼女との差は「引き出しの数」だそうです。グラフはレース編みがプロ並みの腕前で、詩が大好きでツアー中もいろんな詩集を持ち歩いていたそうです。ひと言でいうと多趣味。一方の伊達さんは、実家が宝塚の近くだったので、高校生のころ、練習が休みの日に宝塚歌劇を見に行くことがありました。翌日、学校でその素晴らしさを友人に語っていると、テニスのコーチがつかつかと歩み寄ってきて、「宝塚を見に行くヒマがあったら、なぜラケットの素振りをしないんだ?」と言われたとか。
 
これはじつに象徴的な話です。スポーツは単なる"運動競技"ではありません。世界のトップレベルで戦うと、最後の勝負は"人間力"で決まることが如実に分かります(あくまでトップレベルの話ではありますが)。
 
かつて、岡田武史さんが日本の代表監督だった際、ユースレベルも見てほしいと協会に頼まれて、チェックに行ったときのことです。当時のユース代表は、中田英寿や稲本潤一、中村俊輔などがいて、黄金世代と呼ばれていました。視察から帰ってきた岡田さんに「どうだった?」と聞くと、「とにかく、うまい! ビックリするほどうまい。日本サッカー史上、一番うまいでしょう」と。ところが、次にこう続けました。「でもね、声も出さないで練習を淡々とこなしているんですよ。見ていて気持ちが悪かったけど、二十歳になろうという若者が日本代表に選ばれてから『声出せよ』って言われるんですかねぇ。日本代表の監督がそう言わなくちゃいけないのかなぁ」
 

■2006年イタリア代表と錦織圭の"大人力"

もうひとつ、例を出します。2006年のドイツW杯で、ジーコ・ジャパンはグループリーグ戦敗退(今回のザック・ジャパンの敗退の仕方とほとんど同じでしたね。それは、カズ(三浦知良)も某雑誌で指摘しています)。日本協会の強化担当者たちは、日本がグループ2位で通過すると期待して、トーナメント戦のチケットを手配していました。結局それは「オーストラリア対イタリア」戦になったのですが、今後のために観戦。試合は後半になっても0-0で推移。強豪イタリアに対し、ヒディンク監督のオーストラリア代表は善戦。「もしや」という期待が高まっていた時に、イタリアは、ディフェンダーのひとりが危険なファウルでレッドカードをもらい一発退場。絶体絶命のピンチです。もし、ジーコ・ジャパンだったら、おそらくキャプテンの宮本恒靖がベンチに監督の指示を受けに行き、それを他の選手がセンターサークルあたりで待っていたでしょう。ところが、イタリア代表はピッチに残った9名のフィールドプレーヤーの誰ひとりとしてベンチを見ませんでした。センターサークルに集まり、キャプテンのカンナバーロを中心に30秒ほどのミーティングをし、またピッチに散開していったのです。日本の強化担当者たちは全員がその光景を信じられず、お互いの顔を見つめあい、「追いつくのに100年かかるなあ!」と嘆息したそうです。イタリアの選手たちは、「監督が次に誰かを交代させてディフェンスの選手をひとり投入するだろう。それまで失点しないのが、自分たちの役割だ」と全員が自明なこととして理解していたのです。いちいち監督に判断を仰がずに、「自分のすべきこと」を理解し、しかも不測の事態に対しても、まずは自分達が判断する。これが大人です。そして錦織圭は、まさに大人のプレーを示したのです(「サッカーは子どもを大人にする」と言ったのは、日本サッカーの恩人、クラマーさんでした)。ご存知のように、この大会でイタリアは優勝しました。日本の強化責任者だった田嶋さん(現副会長)は、「競技力は物理的なことだけではない」ことを理解し、その後『「言語技術」が日本のサッカーを変える』という本を新書で出しました。
 
 
わたしたちはスポーツの競技力を、運動能力を中心に考えがちです。これは分かりやすいので、仕方ありません。指導者も進歩が分かりやすい身体的な能力の向上に傾きます。そういった指導の結果、ボール扱いはうまいが大人になりきれない選手ができあがります。わたしたちは、ブラジルでのザック・ジャパンの戦いぶりに、大人になりきれない若者が、無惨な姿をさらすのを目撃してしまいました(「ぼくたちのサッカー」などと言ったチームが他にあったでしょうか?)。
 
楽天オープンの決勝で、錦織は明らかに蓄積疲労してました。めずらしくプレーの途中で、膝に手をあてる姿を見せました。しかし、調子の悪い時にはそれなりの戦いをします。自分のサービスゲームをキープし、数少ないブレークを狙います。第1セットは、両者がキープし合い、タイブレークで錦織が制しました。第2セットは、ラオニッチに1ゲームブレークされて取られました。最終第3セット、5ー4で迎えた第10ゲーム、錦織はラオニッチのファーストサーブを全てリターン。このゲームを制し優勝したのですが、錦織は優勝するまで最後のゲームだけ、つまり1ゲームしかブレークしていないのです。
 

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文 広瀬一郎 Photo by Kate

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