W杯出場欧州列強 U-12育成事情

2019年1月24日

サッカーが上手でも生活がだらしない選手は大成しない! W杯最多優勝"王国"ブラジルの育成とは

サカイクで発信している"考える力"の醸成や"サッカーを通じた人間教育"。こういった側面は日本国外、特にサッカーの強豪とされる国々の育成環境においてどのような立ち位置にあるのでしょうか?

これまで、ドイツ、スペイン、クロアチア、イングランドと欧州強豪国の育成環境にフォーカスしてきました。最終回である今回、とりあげるのはW杯における最多優勝回数を誇るブラジルです。"王国"ブラジルがジュニア年代の育成において大切にしていることとは?

ブラジルの名門クラブ「クルゼイロEC」から日本にコーチを招いてジュニア年代の指導を行う「クルゼイロキャンプ」を主催する小林弘典さんにお話を伺いました。
(取材・文:竹中玲央奈 写真:新井賢一)


ブラジル代表/FIFAワールドカップ ロシア大会 (C)新井賢一

 

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■上手くてもだらしない選手は大成しない

もともと小林さんはいくつかのブラジルのクラブと、日本における育成年代のトレーニングキャンプの実施について話を進めていました。その中で文化の違いに直面し疲弊することは多々あったそうですが、その中でクルゼイロは"違い"があったそうです。

「むこうの人はマイペースといいますか、アポイントの時間をしっかり守ってくれなかったり、約束の時間に行ってもいない、というようなことがありました。ただ、クルゼイロの人は違いました。日本人っぽいといいますか、すごくきっちりしていて、ストレスなくスムーズに話すことができたんです。」

日本のサッカーファンの方に"クルゼイロ"と行っても「聞いたことがある」程度かもしれません。

しかし、チェルシーやバルサで活躍したベレッチ、PSG、バルサで活躍したマックスウェル、レアルマドリード所属のルーカス・シウバ(現在はレンタルでクルゼイロにてプレー)、U-17ワールドカップで世界No.1GKに選ばれ、イングランドプレミアリーグ方面からも熱い視線を注がれるガブリエル・ブラゾンらをはじめ、数々の選手を輩出してきた名門クラブなのです。

そんなクルゼイロの特徴として上げられるのが、オフザピッチでの振る舞いです。

「クルゼイロは言うなれば学校のような立ち位置であり、人間的な教育をすごく重視します。実際にここを出て育った選手はそういう側面を持った選手が多いんです。いくらサッカーがうまくても、普段の生活がだらしなければ選手として大成しないという考えが根付いています」とは小林さん。

では、具体的にどういった環境がそういった選手の成長に繋がっているのでしょうか。

■準備、片付けなどトレーニング以外の行動も指導

「セレクションで選ばれた選手は、宿舎やグラウンドが併設されているクラブ保有の施設に通うのですが、ここには学校も併設されているんです。ブラジルということでサッカーの競技向上のイメージが先行するかもしれませんが、選手育成においてクルゼイロは規律というものをとても重視しているんです。特に言ったこと、約束を守るということもそうですし、集団行動ですね。そういった側面を、普段の学校生活から見ています。勉強もしなければいけないので成績も見られますし、どんなに技術が優れている選手でも問題を起こせば練習や試合への参加が出来なくなります」

サッカー選手ではなく人を育てることに重きを置いている様子がこの話から非常によく伝わります。

かつて問題児であった選手がクルゼイロの育成組織に入って更生し、そこから人間的な成長を遂げて選手としても羽ばたいていていった、というような「嘘のような話」(小林さん)もあるそうです。

クルゼイロの育成組織におけるトレーニングでは指定された時間に集合することが義務付けられています。また、準備、片付けを始めとした直接的にはトレーニングに関わることのない1つ1つの行動に対しても全員がしっかりと取り組むようにと指導されています。

■1人1人に向き合って人間力を育む

そんなクルゼイロの指導者が定期的に日本へやってきて、育成メソッドを還元しているのがクルゼイロキャンプです。その中で、小林さんは印象的な出来事があったと振り返ります。

もともとクラブの育成責任者と共に日本選手向けのメニューを作成した質の高い指導内容を準備しており、日程通りトレーニングに向けて準備がなされていました。

しかし、実際にトレーニングをやって子どもたちのプレーを見た後、一度は用意されたメニューをクルゼイロのコーチ陣が見なおした上で「やはりこのままではいけない。もっと良くすべき点がある」と口にし、夜通しでメニューの練り直しをして次の日のトレーニングに臨んだことがあったそうです。

「選手1人1人に向き合う姿勢や、しっかりとしたものを与えようという姿勢には驚かされました」と小林さんは振り返ります。


クラブの名前を冠して共にやっていくと決めた以上、妥協はしない。子どもたちにとって少し守るのには窮屈と感じられかねない規律を重んじるからこそ、指導者はしっかりと実のあるものを提供する。

その責任感は日本の指導者が見習うべき部分かもしれません。

規律や時間を守ることなど様々な部分を通じて「日本と近い部分がある」と小林さんは語りましたが、それはやはりクラブが作ってきた文化と、その理念に共感する指導者の存在だとも言います。

一流のサッカー選手には人間的な素養も必要、という考えは非常に強く共感ができます。そして、サッカー王国ブラジルでもこういった部分が重要視されているという事実もまた、日本の育成現場に広がっていくべき知見であることは間違いないでしょう。

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クルゼイロ・ジャポン
2013年発足。ブラジルの国内トップリーグで「育成No.1」と呼び声が高いクラブチーム「クルゼイロEC」の育成方法を余すことなく日本で紹介するために、本国からコーチを招き、小学生向けのキャンプを開催。優秀選手はブラジル遠征などの特典がある。

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