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ベテランの金言「言わずに死ねるか」-今だからこそ、若い指導者・保護者に伝えたい-

「サッカー以外からの学びが大事」三浦知良らを育てた静学・井田勝通総監督が語る、指導者として成長するためすべきこと

公開:2020年6月29日 更新:2020年6月30日

キーワード:サッカー部ブラジルペレ井田勝通個人技優勝包容力寛容川口修心のスイッチ教養遊び静学静学スタイル静岡学園高校サッカー選手権

令和最初の全国高校サッカー選手権で優勝を果たした静岡学園高校サッカー部の総監督、井田勝通さん。見る者を魅了する「静学スタイル」を長年かけて作り上げた名将が、今だからこそ若い指導者に伝えたいこと。

前編では、若いころは小嶺忠敏監督(現:長崎総合)の朝練を学びに通ったお話や、マニュアル通りの指導ではコピーを生むだけだということ、オリジナリティを生み出すことが大事だという考えをお伝えしました。

後編では、子どもたちの心のスイッチを入れられる指導者になるために大事なことをお伺いしたのでご覧ください。

(取材・文:元川悦子 写真:森田将義)

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(C)森田将義

<<前編:マニュアル通りの指導ではコピーを生むだけ。見る者を魅了するサッカーを貫く静学の井田勝通総監督が若い指導者に伝えたいこと

 

サッカー以外の世界から学ぶことで、相手を思いやる心や寛容さも養われる

指導者がマニュアル通りに指導しても、アイディアや独創性を持った選手は出てこない...。静岡学園の井田勝通前監督がそういう信念を持っていることは前編で説明しました。では、どうすれば指導者はマニュアル依存から脱皮できるのでしょうか。これだけ世界中から情報が入ってくる時代だけに、いかにしてオリジナリティを出すかというのは、誰もが悩む点ではないでしょうか。

「指導者の多くは『子供たちにサッカーだけを教えていればいい』と考え、必死にグランドで練習させている。ミーティングではボードを使ってモダンな戦術を教えて、やらせようとする。そういう意識の高さも必要だろうけど、それ以上に『人間力』がなければ、子供たちの心に火を灯すことはできない。俺はずっと前からそう思ってやってきたんだ。

人間力を養うためには、美術館に行っていい絵を見たり、博物館へ足を運んで歴史を学んだり、いい音楽を聞いたりして教養を養わないといけない。伝記や古典を読んで、歴史的偉人や将軍や政治的リーダーなどのさまざまな生きざまを知ることだって大切だ。俺は将棋の唐津久雄九段(故人)から勝負の神髄を教わったし、水墨画でダルマの絵を描くことにも挑戦した。

他の競技に興味を持つことも必要じゃないかな。実際、俺自身もバスケットボールの強豪校だった秋田の能代工高の加藤廣志元監督の取り組みを調べたことがあるけど、大いに参考になるところはあった。1月の全豪オープンテニスを見ていた時も、ジョコビッチが8度目の優勝を飾ったけど、彼からは勝者と敗者をリスペクトした発言が自然と口をついて出てきた。それにも大いに学ぶべきところがあったんだ。

そうやって知識や教養が身について初めて指導者としての風格や相手を思いやる包容力が出てくる。失敗したり衝突したりする人間を許す寛容さも養われる。それは一朝一夕に身に付くもんじゃない。やっぱり努力が必要なんだよ」

 

■サッカーに追試はない「今やらないで、いつやるんだ」大事なのは心のスイッチを入れる言葉

長年、さまざまな経験を積み重ねてきた名将・井田前監督の発言が場の空気をガラリと変化させたシーンがありました。それが1月13日の第98回高校サッカー選手権決勝・青森山田戦のハーフタイムです。1-2の劣勢の中、川口修監督に促されて、井田前監督はこう言いました。

「こんな消極的な戦い方をしていたら意味ないぞ。お前らは3年間、一生懸命やってきたんだろ。サッカーに追試はないよ。今やらないで、いつやるんだ。後半45分間に全てを賭けて戦え!」

この言葉が突き刺さったのか、選手たちは目の色が変わり、闘志をみなぎらせたといいます。

「俺はつねにそれぞれの目を見ながら話をする。言葉が突き刺さった瞬間、子供たちの目つきが変わるというのは、長年の経験から分かっていたこと。決勝戦のハーフタイムも選手たちを見て『これなら大丈夫だ』と直感的に思ったんだ。修や興龍(齋藤コーチ)はその後、『中盤を厚くしてボール支配率を高めろ』と戦術的な指示をしていたけど、やっぱり一番大事なのは心のスイッチを入れること。彼らには後悔のないように戦ってほしいということを伝えたかったんだ」と井田前監督は本音を打ち明けてくれました。

その思いが後半のパフォーマンスにつながり、静学は劇的な逆転勝利を挙げました。もちろん現場を預かっている川口監督や齊藤コーチの力も大きかったのは間違いありませんが、名将への絶対的信頼がなければ、選手たちは素直に言葉を聞き入れなかったでしょう。

 

■つねに完全燃焼して生きていくことで、人を受け入れる度量も広がっていく

「人間というのはご存じの通り、人生1回きりしかない。死ぬまで燃え上がって命を全うすることが後悔しない生き方だと俺は思う。つねに完全燃焼して生きていくことで、人を受け入れる度量も広がっていく。『この人についていけば勝てる』という信頼を勝ち得ることは、上に立つ人間にとって非常に大事なこと。『人間はいつか死ぬんだから、どう生きるかの努力をしなさい』と若い指導者には言いたいね」

井田前監督の言う「完全燃焼の生き方」というのは仕事や家族のことだけに集中しろという意味ではありません。遊ぶ時もあっていいのです。ただし「遊ぶ時もしっかり遊ぶ」というのが井田流。それは改めて強調しておきたい点だそうです。

「俺は若い頃からハチャメチャに生きてきた(笑)。酒や女性との付き合いはもちろん、競輪や競馬、麻雀もやった。そうやって一見、バカバカしく見えることが案外大事なんだ。車のハンドルやブレーキに遊びがなかったら、急ブレーキをかけた時に車がひっくり返る。ハンドルだっていきなり回したら事故につながるだろう。余裕を持たせることには意味があるんだ。

人間の生きざまも同じで、ほどほどに遊んでいるやつはしっかりとブレーキをかけられるし、ハンドル操作もできる。震災なんかでも、マニュアル通りにしか判断できないとかえって危険なこともある。東日本大震災の時にも、マニュアル通りの判断をしたことで多くの子どもたちが被害に遭ったという痛ましいことがあった。そして自主的に判断して動いた子が助かったと報道されていた。そういうこともあるから、遊びを忘れちゃいけないんだ」

 

■サッカーは人生の鏡

あらゆる人生経験を駆使して、サッカー指導に情熱を傾けてきた井田前監督。そんな名将にとって忘れられない名言があります。

「サッカーは人生の鏡である。そこには人生のあらゆるものが映る」

指導者の道を踏み出した頃、耳にしたこの名言を今も脳裏に焼き付けている井田総監督。今も静学の公式戦の時にはベンチ入りし、的確な指示を送り続け、腰を痛めながらも時にはサッカースクールで指導に当たっています。そして今後もそれを続けていくといいます。

バイタリティ溢れる偉大な名将にはこれからも要所要所で日本サッカー界に苦言を呈してもらいたいものです。

<<前編:マニュアル通りの指導ではコピーを生むだけ。見る者を魅了するサッカーを貫く静学の井田勝通総監督が若い指導者に伝えたいこと

 

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井田勝通(いだ・まさみち)
サッカー指導者、静岡学園高校サッカー部総監督
1942年3月、満州・奉天(現瀋陽)生まれ。静岡高校、慶応大学を経て、静岡銀行に入行。サッカー指導は慶応大学時代からスタートし、72年12月に静岡学園高校のプロコーチとなる。ブラジルスタイルの個人技時主体のサッカーを追求し、77年正月の第55回高校サッカー選手権で準優勝。96年正月の第74回選手権で鹿児島実業と両校優勝。2020年の第98回選手権で24年ぶりの優勝を果たした。
2009年に監督勇退後、総監督として現在も公式戦のベンチに入っている。

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取材・文:元川悦子 写真:森田将義

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