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弱小チームのチカラを引き出す! 暁星高校林義規監督の教え

暁星高林監督の魅力とは?「だから、みんな先生に会いに来る」

公開:2015年1月 2日 更新:2020年3月24日

キーワード:暁星高校林義規監督選手権高校サッカー

■「無理」と言えないことをわかってくれた

戦列から離れている間の試合はいつも林監督の隣で見ていた。チームが上手くいかないたびに「自分があそこにいたらな」という思いに苛まれたという。
 
「攻撃が成り立たなくて、もうパスサッカーじゃなくなっていました。僕はセットプレーのキッカーもやっていたので、本当に迷惑をかけちゃったなって」
 
それでも関東大会はベスト8で敗退だった。時おり、林監督がベンチでボソッと「お前がいればな」という独り言のような言葉が、かすかに伊東の胸を突いた。
 
復帰には4カ月かかった。
 
なんとか7月の合宿やフェスティバルには参加でき、少しずつ慣らしながら8月の選手権地区大会に向けて練習に励んだ。その甲斐もあり、伊東は初戦に間に合った。
 
「地区大会の初戦には間に合ったんですよ。ちゃんと先発で出られて。出たんですけど……」
 
伊東は後半開始に肉離れを起こしてしまうのだ。
 
「ショックでしたね。ちょっと気負い過ぎていた部分はありました。その時の心境は人生ってこんなもんかなって……」
 
ショックを受けた林監督もベンチでうなだれていたという。
 
「その初戦は勝って、チームメイトも『もう一回待ってるからな』と言ってくれて、先生からも『焦らなくていいから仲間を信じて治せ』と言われました」
 
復帰には1カ月以上を要した。
 
その間、チームメイトは勝ち続けてくれ、伊東はどうにか大会中に復帰することができた。そして西が丘での準決勝前日、伊東は林監督に呼び出される。
 
「明日、先発でいけるか?」
 
身体のコンディションは問題ない。けれどブランクが長く、ボールの感覚は取り戻し切れていない不安はあった。でも出たい気持ちも強い。伊東は一瞬返事に躊躇しながら答えた。
 
「大丈夫です」
 
その場で林監督は「わかった」と、一言だけ残した。
 
翌日、先発メンバーに伊東の名前はなかった。林監督は伊東の心情を見抜いていたのだ。
 
「先生は僕に自信がないことはわかってたと思います。顔色とか、答えるタイミングとか。でもチームに迷惑をかけた責任も感じていて、そこで『無理です』とは言えなかったんですね。名前を呼ばれなかったときは『あぁ、わかってくれたんだ』って。さすがだなと思いました」
 

■20年前のOBの名前を忘れない

準決勝の相手は強豪・成立学園高だった。
 
暁星高は0―1のビハインドで後半を迎えた。こう着状態が続き、チームは攻撃の糸口を見つけられずにいた。残り15分、伊東が呼ばれた。そのとき、林監督は伊東を引き寄せてこう言った。
 
「おい、ハルキ。いいか。ここは男の見せどころだぞ。お前が決めるしかねえんだ」
 
行ってこい、背中をバシッと叩かれてピッチに送り込まれた。そしてワンプレー目である。伊東のパスを受けた味方選手がミドルシュートを放ち、暁星高は同点に追いついたのだ。
 
「それで勢いは出たんですけど、結局もう1点追加されて1―2で負けてしまいました」
 
負けたことは悔しかった。けれど、復帰してサッカーをやれた喜びを感じる自分もいた。それでも、正直に思うことがあった。
 
「最後は……なんていうか、先生の情けじゃないですけど、そういうので出してもらえたのかなって、そういう気がします。6年間頑張ったご褒美というか、そんな気持ちでした」
 
1年生から辛抱して使ってもらった。監督としても、そしてなにより自分が一番期待していた3年生時に、公式戦に出た時間は1試合分もない。今振り返ると、この高校3年間は伊東にとってどんな意味があったのだろうか。
 
「まぁ……そうですね。この怪我が、自分が本当に医者になりたいと思えるきっかけだったんですよ。リハビリメニューを一生懸命考えてくれた先生や、リハビリに付き合ってくれたトレーナー、そういう人たちを間近に見て『あぁ、良い仕事だな』って、素直に思えたんですよね。サッカーという面ではマイナスでしたけど、人生という面ではプラスに見ても良いのかなって。サッカーが人生のすべてではないですから。将来のものを見つけられたという意味ではプラスでした」
 
卒業後の浪人生活は、暁星高の練習と比べればまったく辛くなかったという。改めて、林監督はどんな人だったのかを聞いた。
 
「卒業生で先生のことを悪くいう人はいないし、今日みたいに暇があれば会いに来るんですよ。サッカー部の生徒を息子のように思ってくれて、本当に親父であり、人生の師匠だと思っています。僕が高校生の頃から一番凄いなって思っているのが、先生はOBの誰がいつ来ても名前がすぐ出てくるんですよ。20年前に卒業した人が久しぶりに来ても、パッと出てくるんです。今日の僕のときもそうでした。嬉しいですよね」
 
だから、みんな先生に会いに来るんだと思います。
 
第9回につづく>>
 
 
【大好評!!短期集中連載第3回】弱小チームのチカラを引き出す! 暁星高校林義規監督の教え
[第1回]コンクリートのグラウンドから全国高校サッカー選手権大会出場
[第2回]干されたことが大きな財産に!「出てるやつだけの力じゃねえんだ」
[第3回]高校生からではなく小学生から教える利点
[第4回]右手を失うと左手で箸を持つ「人はヤバいと思うからやるんだ」
[第5回]文武両道の実践こそ暁星の強み!上手くやるより上手くさせない
[第6回]選手権は簡単じゃねえな!暁星の土台を作ってくれた初代
[第7回]暁星流メンタルコントロール!目の前のゴミを捨てられること
 
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取材・文 篠幸彦 写真 サカイク編集部

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