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楽しまなければ勝てない~世界と闘う“こころ”のつくりかた

「強いものには逆らえない」パワハラ指導を受けた子に権力主義を刷り込む「親の沈黙」

公開:2019年12月12日 更新:2020年1月28日

キーワード:ゴルフスポーツの価値スポーツマンのこころバレーボール体罰全国大会暴力権力主義笠りつ子誓約書野球長時間練習隠ぺい

サッカークラブや各種スポーツ団体を対象に「スポーツマンのこころ」と銘打つ講義で、一流アスリートになるための心得を伝え続ける岐阜協立大学経営学部教授の高橋正紀先生。ドイツ・ケルン体育大学留学時代から十数年かけ、独自のメソッドを構築してきました。

聴講者はすでに5万人超。その多くが、成長するために必要なメンタルの本質を理解したと実感しています。

高橋先生はまた、「スポーツマンのこころ」の効果を数値化し証明したスポーツ精神医学の論文で医学博士号を取得しています。いわば、医学の世界で証明された、世界と戦える「こころの育成法」なのです。

日本では今、「サッカーを楽しませてと言われるが、それだけで強くなるのか」と不安を覚えたり、「サッカーは教えられるが、精神的な部分を育てるのが難しい」と悩む指導者は少なくありません。

根性論が通用しなくなった時代、子どもたちの「こころの成長ベクトル」をどこへ、どのように伸ばすか。「こころを育てる」たくさんのヒントがここにあります。
(監修/高橋正紀 構成・文/「スポーツマンのこころ推進委員会」)

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(写真は少年サッカーのイメージです)

 

■「かわいそう」で済ませていけない。暴力暴言指導の被害を被る子どもたちの将来とは

10年以上前に本学のスポーツ経営学科の野球部員のゼミ生から聞いた話です。

彼が所属した少年野球チームは地元の強豪。練習時間は土日の朝6時から夜10時まで続いたのだそうです。途中で休憩や食事はとらせるとしても、合計で16時間です。やり過ぎなどという域を超えている。過剰というより、異常だと思いました。

しかも、「指導者から暴力や暴言を受けても文句は言わない、口外もしない」という念書を最初に書かされるというのです。

前回のこの連載で小学生の女子バレーボールチームで監督が選手に暴力をふるったものの、一部の保護者が全員に口止め誓約書への署名を迫った件を取り上げましたが、もしかしたら全国各地で同じことが起きているのかもしれません。

こういった事件が発覚すると、大人の行動への批判が集まります。被害者の子どもに対しては、同情的な「かわいそう」という感情になります。が、もう少し被害を被る子どもたちの気持ちや将来について掘り下げる必要がありそうです。

例えば、そんなふうに力でねじ伏せられた子どもは、「黙っていろ」と言われて口をつぐむ自分の親や周りの大人たちをじっと見ています。

子どもの自分は、大人で強い権力(試合にだれを出す出さないの決定権など)を持つ監督に抗えない。自分のことを考えてなのか、親も抵抗せずに黙っている――。

この事実は、子どもたちに「どうやら世の中は、力が強い者が何でも思い通りにできるようだ」といった権力主義的な思考を刷り込んでしまう。このリスクが高くなることは決して否めません。

 

■「強い者が上」という傲慢さが出た、女子プロゴルフの「死ね」問題

上記とは異なる、もうひとりのある部の学生は、私の講義「一流のスポーツマンのこころ」を受けてしばらく経ってからこんな話をしてくれました。

「原石と宝石、どっちになりたいですか? と聞かれたけど、僕はどっちでもいいやと思っていました。どうでもいいやって」

彼は高校時代までにある程の実績をあげていたためか、すでに「自分は輝いている」と感じていました。実技の授業をするなかで、身体能力がべらぼうに高いことや、俊足で野球以外でも何でもできてしまう器用さを見せつけてもいました。

よって、別にもう特に自分を磨く必要もない。もうこれ以上のレベルに行くのは難しいだろうし、可能性が低そうな目標を掲げて努力する気はない。だから「どうでもいい」と思ったのです。

事実、その部の中でも、大学の中でも、彼はお山の大将的な空気を放っていました。周囲の学生たちは、彼の中身ではなく、その才能に一目置いていたのでしょう。

ところが彼は、一流のスポーツマンになるこころが「一流の人間になるこころ」であることにその後自分で気づいたようでした。

「先生の講義を聴いて、最初は、輝きたいやつがやればいい、と思っていました。でも、そういう考えは間違っていたと、今は思っています」

こんなふうに若者が自分を変革するきっかけの元となる火をつけること。これこそが、大学教員の醍醐味です。

一方で、「力が強い者が何でも思い通りにできる」という感覚のまま大人になるアスリートは少なくありません。

女子プロゴルファーの笠りつ子選手が、ゴルフ場でのタオルの提供をめぐって会場関係者に「死ね」と暴言を吐いた問題を覚えていますか。子どものころからゴルフをやって才能を開花させてプロになるなかで、「強い者が上」という傲慢さがのぞいた出来事でした。

私がこの原稿に向かっている日、32歳の彼女は都内でプロテストに合格したばかりのルーキーたちと新人研修を受けました。

「(ゴルファーを)辞めることも考えた」笠選手は、長い髪を切っていました。強い覚悟で臨んだのでしょう。

「自分を変えるチャンスをいただいたと思う」とのコメントを聞いて、とてもうれしく感じました。

同じように結果を出しても、努力してトップにたどり着いたアスリートは謙虚さを失いません。人を見下すベクトルを持つようになったとしたら、それは周囲の大人たちも反省しなくてはいけません。

例えば、サッカー場できちんと挨拶をして、掃除や整理整頓をしても、買い物に行ったら触った品物を元に戻さない、店員さんを下に見て横柄な態度をとる。そんな選手は少なくありません。

 

次ページ:「昔はすごかったんだぜ」過去自慢のイタイ大人にしないために

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監修:高橋正紀 構成・文:「スポーツマンのこころ推進委員会」

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