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楽しまなければ勝てない~世界と闘う“こころ”のつくりかた

大船渡高校佐々木君登板回避に反対する人の共通点 「物扱い」にされる子どもたちが成長できない理由とは

公開:2019年8月 7日 更新:2019年8月21日

キーワード:スポーツマンのこころデュアルキャリア大船渡高校登板回避非日常高橋正紀

サッカークラブや各種スポーツ団体を対象に「スポーツマンのこころ」と銘打つ講義で、一流アスリートになるための心得を伝え続ける岐阜協立大学経営学部教授の高橋正紀先生。ドイツ・ケルン体育大学留学時代から十数年かけ、独自のメソッドを構築してきました。

聴講者はすでに5万人超。その多くが、成長するために必要なメンタルの本質を理解したと実感しています。

高橋先生はまた、「スポーツマンのこころ」の効果を数値化し証明したスポーツ精神医学の論文で医学博士号を取得しています。いわば、医学の世界で証明された、世界と戦える「こころの育成法」なのです。

日本では今、「サッカーを楽しませてと言われるが、それだけで強くなるのか」と不安を覚えたり、「サッカーは教えられるが、精神的な部分を育てるのが難しい」と悩む指導者は少なくありません。

根性論が通用しなくなった時代、子どもたちの「こころの成長ベクトル」をどこへ、どのように伸ばすか。「こころを育てる」たくさんのヒントがここにあります。
(監修/高橋正紀 構成・文/「スポーツマンのこころ推進委員会」)

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選手を「物としてしか扱えない」日本のスポーツ文化の問題点とは(写真は少年サッカーのイメージです)

 

■登板回避議論に含まれる2つの問題点

夏の高校野球岩手県大会決勝で、大船渡の佐々木朗希投手(3年)が登板を回避し、チームが35年ぶりの甲子園出場を逃した日、同校には150件を超える電話が殺到。大半は佐々木選手を登板させなかった国保陽平監督(32)への抗議だったそうです。

最速163キロを投げ、メジャーも注目する大投手を甲子園出場のかかった大一番で投げさせなかったこの一件は、波紋を広げました。

私は国保監督の判断に大賛成だったので、張本勲さんがテレビで国保監督に"喝"を入れて「絶対、投げさせるべき。ケガを怖がるのなら、スポーツをやめた方がいい。みんな宿命なんですから」と発言したのには驚きを通り越して、悲しくなりました。しかし、すぐにダルビッシュ有投手がSNSで「このコーナーを消してください」と一蹴してくれ、ほかのアスリートも賛同していたので少し安心しましたが。

この問題、国保監督への賛同派は投手の肩や肘を壊さないようにという部分がひとつの論点。

一方で、選手を「物としかとらえていない」日本のスポーツ文化が浮き彫りになったと感じました。

この「子どもを物として見てしまう」点が、登板回避を反対する人たちのひとつの共通点です。

この問題についてスポーツジャーナリストの方とも話しましたが、国保監督を否定し「私が監督なら投げさせた」と臆せず発言しているのは、甲子園で優勝したり勝ってきた60~70代の高校野球の監督や元監督が多いようです。

チームメイトの勝ちたい気持ちはどうなる! 彼自身も投げたいはずだ! 親も、みんな投げてほしいと思っている!と。

大船渡高校にクレームの電話を掛けた人たちも同様です。高校野球の選手を、「自分たちを感動させてくれる物」ととらえているのです。ただ、そういった人々を否定する気にはなれません。私たち日本人は、高校球児をずっとそのようにとらえる文化の中で生きてきたのですから。

 

■親や指導者のために「物扱い」された子どもが、人として伸びるのか

少年サッカーやほかのスポーツも、同じことが綿々と繰り返されてきました。先日、サッカーや野球などさまざまな競技を行っている少年団指導者に講演をしてきました。

そこの指導者は困り果てていました。
「厳しくやりすぎると、親がクレームをつけてくる。そこで、厳しさを緩めると、今度はそんなやり方では試合に勝てないと、文句をいう。僕ら指導者はどうやっても責められる。どうすればいいんでしょうか?」

保護者も、指導者も、スポーツのとらえ方を考えなおしてほしいとお願いしました。スポーツをなんのためにやらせていますか? 子どもに成長してほしいからですよね? と。

原理原則はみんな知っている。それなのに、試合になると熱狂して原理原則を忘れてしまう。

かわいくて、大きな未来と可能性を持った子どもたちが、あっという間に「勝って、親や指導者を喜ばせてくれる物」にすり替わるわけです。そんなふうに「物扱い」にされてしまう子どもたちが、人として伸びていけるでしょうか?

その熱狂を、「そうではありませんよ。佐々木君の人としての未来を考えましょうよ」とある意味冷静に押さえこんで、登板を回避したのが国保監督です。彼は立派に大人の役目を果たしたのです。子どもがやりたい! と言っても、今だけを考えずに将来を考えよう、と指南することができるのは大人だけなのです。

 

■日本では8割が知らないこと/頑張ってきたスポーツをあっさりやめてしまうワケ

とはいえ、このことは日本ではまだ8割が理解できていないことです。これは私の感覚です。なおかつ他のコーチングデベロップメントを実践している人たちに聞いても、そう言います。

8割の方が、スポーツが非日常の領域にある遊びの一種であるということを理解できていません。遊びの一種であることによって、人として成長するための様々な刺激を与えてくれる素晴らしいコンテンツだということも学んでいません。

したがって、大人は世話を焼きすぎたり、口を出しすぎたりすることで、子どもたちの自立的、内発的な成長の芽をつんでしまいます。

勝つためなら楽しさを壊すことなど気にしないし、補欠もあり。下手な子どもには価値がないと考えるし、楽しんでいる余裕など持てません。負けたら、子どもも、大人も世界が終わってしまうと感じるから、グッドルーザーにもなれません。

負けると次は勝ちたいと大人が懸命に作戦を練り、その通りにやらせようとします。そうなると、自分で決めさせてもらえない子どもたちは、物扱いなわけですから考える力を養えません。物扱いの果てには、勝てなければ世界が終わると思わされているので"もう十分"だと、がんばってきたスポーツを中学や高校であっさりやめてしまったりもします。

欧米では、このことを知っている割合が8割になります。つまり、8と2が逆転しています。ですので、講演では「日本中の8割が気づいていないのだから、関わる大人の皆さんが本気になって先取りすれば成功できますよ」と話します。

経営の世界のイノベーションの理論で、大きな変化が起きる時に最初に新しいことに取り組むチャレンジングな3%の人々を「イノベーター」、イノベーターの様子を観て取り組み出す賢明さを持つ13%の人々を「アーリー・アダプター」と呼びます。

つまり、後に当たり前となる大きな変化も最初は3%程度の人しかやっていない。そのほかの人も、それが良いらしいという情報は持っているのにも関わらず、です。

そして、16%が取り組み出すと、所謂普通の人々が一気に追随をはじめます。ところが、そうなるとビジネス的にはもう遅い。経営の世界ではそう言われています。だから、先取りしましょうよと私は呼びかけます。

次ページ:欧米のスタンダードが日本に根付くためには

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監修:高橋正紀 構成・文:「スポーツマンのこころ推進委員会」

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