サッカーIQが高まる言葉 ―格言からサッカーの真理・本質を読み解く―

2019年3月25日

第四回 「『俺には合わない』で終わらせると、選手としても終わってしまう」中村俊輔の言葉の意味

言葉は時として、「何を言ったか」より「誰が言ったか」の方が影響が大きくなります。同じ内容の事を言っているのに、自分が特に関心のない人がいえば「ふーん」で終わらせてしまうけれど、有名な人がいえば深い意味が隠されているように感じることがあるもの。

しかし、有名人が発したからと言って「正しい」と鵜吞みにしてしまっては、サッカーIQは高まりません。表面的で間違った解釈をしないためにも、「何を言ったか」に注目することが大事なのです。

技術習得の練習だけでは良い選手になれません。深い思考力など内面も磨いてこそ選手として伸びていくのです。

西部謙司さんの「ボールは丸い。 サッカーの真理がわかる名言集」より、みなさんに伝えたい珠玉の名言をピックアップしてご紹介します。西部さんの註釈を読んで、サッカーというスポーツの奥深さを味わってください。

第四回目は、元日本代表10番 中村俊輔選手の壁にぶつかったとき、自身の成長に関連する言葉をお送りします。


苦手をそのままにしておくと......(C)サカイク
 

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■苦手をそのままにしておくと、いくら長所が優れていても試合に出られなくなる

イタリアで自分の苦手なことや短所感じて、幅が広がった。
「俺には合わない」とか
「守ってばかりのチームだから」と終わらせると、
選手としても終わってしまう。
―中村俊輔

中村俊輔は「ドM」である。どのチームが一番良かったかと聞くと、「エスパニョール」と答えていた。エスパニョールは中村にとって最も上手くいかなかったクラブだ。「ロンドをやっても皆うまくて、俺が下手から二番目ぐらい」だったそうだ。すでにセルティックで勇名を馳せた後に移籍したエスパニョールだったが、レギュラーポジションすら確保できなかった。

しかし、だからこそ「良かった」と言う。中村俊輔にとって、ぶち当たる壁は乗り越えるもののようなのだ。これまでも壁を乗り越えてきて成長してきたので、壁に当たると悩むと同時にうれしくなってしまうようなのだ。

SMはともかく、プロ選手として成功するには才能が不可欠である。ただし、その選手の特徴や長所は「どこまで行けるか」の可能性にすぎない。可能性を現実のものにするには、逆にその選手の欠点や苦手がカギを握る。

何もかも抜群にできる選手はいない。特別に秀でたものがあれば、反対に大きな弱点も持っているものだ。中村俊輔がイタリアで「幅が広がった」と話しているとおりで、苦手や不得手をそのままにしておくと、長所がいかに優れていても試合には出られなくなる。

苦手分野でもプレーするリーグの平均水準ぐらいはないと、それを得意とする相手に確実につけ込まれるからだ。攻撃力が素晴らしくても守備ができないのでは、相手にそこを狙われる。守備に回されれば長所は発揮できず、短所だけが露わになる。その選手がチームの穴になってしまえばプレー機会は失われるのだ。

■日本で天才と言われた選手がヨーロッパで活躍できない原因

例えば、空中戦でジェラール・ピケ(FCバルセロナ)やセルヒオ・ラモス(レアル・マドリード)を圧倒できるFWなら、リーガ・エスパニョーラでプレーできる「可能性」はある。しかし、その選手が足下の技術がおぼつかない、まるで守備ができないというようなことでは試合には出られない。

少なくとも先発で使われることはない。長所はどこまで届くかの可能性ではあるが、現実にどこでプレーできるかは弱点のレベルによる。日本の育成年代で天才といわれた選手が、ヨーロッパで活躍できない原因の1つが苦手分野のレベルの低さだと思う。

長所だけなら十分通用しているのだが、弱点のほうがそのリーグでやれる水準にないというケースが多い。

これはヨーロッパの指導者に聞いた話だが、「育成年代では選手と闘わなければならない。その結果、その選手を辞めさせてもいいという覚悟が必要だ」とのことだった。日本では育成年代の天才は特別扱いされ、守備も免除される傾向があるが、それとも反対に才能のある選手ほど厳しく接して高い要求をするのだそうだ。

結果、その選手が「サッカーを辞めても構わない」というのは、それだけ競争が激しいという背景もあるわけだが、結局はそれがその選手のためだからだ。

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